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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第3章 華姫騒乱編(下)
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第18幕 憂さ晴らし

 「椿我流、改式。音弾突風!」


 姫のやつ俺が死なねぇからって初っ端から大技で殺しに来やがった

 でもそんなもんじゃまだ俺は倒せない。蒼炎で壁を作り姫の行く手を阻む


 「甘いよ」


 蒼炎の壁は姫の突き1発で消し飛び周りに飛び火する。まぁ物は燃やさないしただの演出みたいなもんだな

 姫は俺の目の前まで迫り突きを浴びせようという勢いだ。だが


 「甘いのはどっちだ?もう俺の間合いだ」


 短刀を逆手に持ち変え姫の突きを鎬を削らせる様に沿わせ軌道を逸らす。姫は少々意外という表情を浮かべながら体勢を立て直そうとする。その隙貰った。逆手に握った短刀を親指で押さえて手首のスナップで順手へと持ち替えこちらも突きで返す


 「椿我流、特式。風小太刀」


 姫は静かに、懐から取り出したボールペンで短刀の突きを受ける。正確にはボールペンに風を纏わせてその風で阻んだという状態だ。

 まさかそういう手まであるとは正直驚きだ。殺す事に躊躇いがなければ姫はどんな物でも暗器に変えられるのだろう。将鷹との契約、いや。約束か。アレがなければ多分今頃身体は八つ裂き、首もその辺に落ちてるだろうな


 姫の使う風の魔術式は世間ではそこまで恐れられていないと忠定は言っていた、極めた者の魔術式を見た事がないからだとも。制御が難しく自らも傷付ける可能性が大いにある諸刃の剣、それをいとも容易く、刀を杖とすることも無く操れるのは姫の才能と努力の賜物だろう


 「なんでそれをアイツとの模擬戦で使わないんだ?」

 「使ってもあんまり意味が無いからね。将鷹はこういうのは1回目しか通じないし。それにこういうのは危ないからね」

 「なるほどな。確かにアイツならすぐに対策しそうだな。にしても俺には手厳しいみたいだな」


 短刀を手から離しその場から飛び退く。姫は瞬時に刀の方で風の斬撃を飛ばしてくる。バクステ狩りとかマジで容赦ねぇな。まぁ蒼炎でどうとでもなるがな


 「影朧は手加減されるの嫌でしょ?それに私は将鷹の事好きだから傷付けたくないんだよね。というか将鷹は魔術使う前に決めに来るから相性悪いんだよね」


 ギラりと鋭い視線を感じる。風の斬撃だけじゃない何かが来る。これは壁とかじゃ防げないやつだ。だが前方に蒼炎の壁を作る他ない


 「俺も速攻でケリ着けときゃ良かったな!」


 その場合はストレス発散にもならなかっただろうがな。壁は一瞬でかき消された。そして目の前に姫の持っていた刀。刀投げるかよ普通!?後ろに土地神やら吉音が居るし避けて掴み取るのが最良だろう


 肩を掠め通り過ぎようとする刀の柄を握ろうとした瞬間バチンと何かが弾ける音と共に刀があらぬ方向に跳ね、俺の掌は血だらけになっていた。痛みも常人なら悶えていただろう


 「俺には触られたくねぇってか」

 「その虎徹は雪城家の人間しか触れない様になってるからね。まぁ将鷹は多分触れるんだろうけどね」

 「はぁ・・・やっぱアイツどうかしてるな・・・いやまぁ俺が言えた事じゃねぇけど」


 おおよそ経津主神の加護のおかげだろうがな。会話しながらでも読み合いと攻防は続く。姫が袖を振る度に鋭い身を裂くかのような風が飛んでくる。この風は不可視なのが厄介過ぎる。将鷹の眼が本領発揮できるのなら話は別だっただろうが風の流れと直感で避けるしかない。風の刃は庭の軽石を砕き地に落ちる様になっているのはこの数発でわかったがそれ以上はよく分からん


 土地神が軽石を潰すなだの荒らすなだの言っているが気にしないでおく


 俺は壁を作るか避けるかの2択を迫られ中々前へとは進ませて貰えない。どう距離を詰めて仕掛けを取って姫に勝つか。今の姫は魔術式と手元のボールペンだけが武器だろう。だが俺の落とした仕掛け、あの短刀を取られる可能性もある


 「そこで避けてばっかりで終わり?それじゃつまらないよ!」

 「そうだろうな!」


 一か八か、隙を見て前へと出ていく。風の刃は当たればもう仕方ないと割り切って直感で避ければいい。それに姫が反応出来ない程の速度で姫までたどり着けば問題なんてもんは無くなる


 「将鷹より速い・・・!」


 驚いたのか姫の動きが一瞬止まる。全てがいい方に転んだ。賭けに勝ったとも言える


 「これで終わりだ」


 姫の足元に落ちている短刀を蒼炎で作った腕で拾い上げ姫に突き立てようとした瞬間目の前で火花が散る。

 そこにはあるはずのない刀、虎徹が宙を舞い俺の一撃を受け止めていた


 「なんの策も無しに大切な虎徹を投げたりしないよ」

 「予想外だな」

 「その炎の腕も予想外だよ。でも、今回は私の勝ちだよ」


 姫の言葉の意味が分からなかった。まだ王手ですら無いだろう、そう言おうと思った瞬間風を裂く音と指1本として動かない身体で俺は詰んでいたのだと悟った。

 無作為に袖を振って風の刃を飛ばしている訳ではなかった。それに今思えば風が地面に落ちるなど不自然過ぎる。何故気付けなかった?理由は簡単、経験不足だろう。将鷹なら必ずコレに気付いたはずだ


 「こういうの時間かかるんじゃなかったのか・・・」

 「鬼とか力強いモノを縛る為の風の鎖はね。普通の人縛るだけの鎖ならそこまで時間かからないよ。それに起動させる魔術式も振袖と風鎖だけでいいから頭もパンクしないし」

 「参ったなこれは・・・姫の勝ちだ」

 「えへへ、将鷹には負けたままだけどちょっとだけ仕返し出来た気になるね」


 前に将鷹に負けたことを随分と根に持っている様だな


 「やっと終わったか。全く、2人の世界に入りおって。危うく儂らにも被害が出るところじゃったぞ」


 土地神はそう呆れた様に文句を言う。まぁ小言は全部俺には聞こえてた訳なんだが・・・

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