第11幕 異変
「遅い!あの程度の石段登るのにどれだけ時間をかけておる!?神を待たせるなど言語道断、万死に値する!」
やっと石段の終わり、鳥居をくぐって待っていたのは理不尽な罵倒だった
「土地神さま、もうすこーし言葉は選んだ方がいいですよ?」
土地神さまの後ろから月奈が神殺しを構えながら現れジリジリと距離を詰めていく
「待った月奈、それは無しじゃろ?な?なぁ?童ぁ!お前からも何か言ってやれ!」
「石段倍くらい増やされたからしんどくて今まともに声出ないんですよー」
我輩からの精一杯の嫌がらせだ。少しは反省してもらいたいものだが
「嘘つけ!お前めっちゃ声出るじゃろ!?月奈もそんなジリジリ近寄るな!そ、そうじゃ虎織!石段いつも通りの段数じゃったろ!?」
「えっ?いつもの3倍くらいありましたよ」
しれっと虎織は数を盛っていく
「3倍は言い過ぎじゃろ!2.5倍くらいじゃったろ!」
「土地神さまぁ?ダメじゃないですかそんなことしちゃ」
「悪かった!儂が悪かった!謝るから刃を首に当てないでぇぇぇ!」
「分かればいいんですよ。無礼であっても客人には?」
「きっちり対応する」
「よろしい」
月奈は神殺しを瞬時にそこには存在していなかったかのように消してにこりと微笑む
「えーっと石段の数を増やして申し訳なかった」
「こちらも非礼を詫びます。申し訳ありませんでした」
「で、ここに来たということは鬼姫の引き取りか?」
「その言い方だともう目を覚ましてるみたいですね」
「あぁ1時間ほど前にな。今は鎖に繋いでおる」
「はぁ!?なんつー扱いしてんですか!?鬼姫ですよ!」
「じゃからだろうが大うつけ。いつまた鬼に飲み込まれるかわからんのだ、むしろ鎖で済んでいるだけマシと思え」
「だからって・・・!」
「将鷹、口論は無意味だよ。感情論だけでどうこうしていい問題じゃないし、琴葉ちゃんの了承も得てる。それに将鷹が私たち側なら間違いなくそうするよね?」
月奈の言葉でハッとする。我輩だって危険だったら鎖で縛るしそういう対処をするだろう。他人を責める権利なんて我輩は持ち合わせてなどいなかった
「そうだな・・・悪い、感情的になった」
「分かってくれたならよし。まぁ虎織が居るし琴葉ちゃんの鎖を解いてもいいですよね土地神さま?」
「よかろう。それと童、これも持っていけ」
土地神さまの手からこちら側になにかが投げれる。空中を舞うそれは緋色の小さなガラス片
「大切な物なんですから投げないでくださいよ」
そう悪態をつきながら我輩はソレを手に収め、砕く様に握り込む。すると全身が熱くなる
「見た瞬間に何か解るとは思っておらんかったな」
意外そうに口を開ける土地神さま。全く失礼な神様だ。そこまで我輩は鈍くはない
「将鷹、さっきの何?」
虎織の問に我輩は簡潔に答える為に口を開く。というかこれ以外の表し方がない
「我輩の魔力の結晶」
子供の頃にこの神社で奪われた魔力を結晶化し小分けにしたもの。我輩が過剰魔力で死ぬ事は無いと踏んでの返還だろう。正直自分がどれほどの魔力を所持していたのか分からないから今のままでもいい気がしなくもないが・・・
「っ・・・!」
心臓がドクンと跳ね、痛みと共に心臓が早鐘を打つ。痛い、苦しい、息がまともに出来ない・・・
虎織が叫んで体を揺らしているのは眼では見えるが何故か耳も聞こえない・・・視界もぼやけて我輩の意識は闇に溶けていく
そんな中で視界の端には見えるのは全てを焼き尽くすかのように燃え盛る蒼の・・・




