第6幕 刀の銘
「おつかれ。珈琲入れてるから飲め」
ラボに戻ると蓮が珈琲を持って出迎えてくれた。正直こういうのは虎織にやって欲しかったもんだが・・・贅沢言い過ぎか・・・
「おう。まさか蓮の仕事をさせられるとはなぁ。まぁ試し斬り出来たからウィンウィンってやつだけどさ」
「なんだよ親父に会ったのか」
珈琲を受け取り虎織の隣へと座る
「あぁ、定期診断すっぽかすなって軽く言われた」
「軽くかよ・・・キツく言わねぇとコイツ来ないっての」
「いや行くよ普通に。単にタイミングが悪いだけだっての」
「確かに将鷹って定期診断の時だけ散歩する暇も無いくらいに忙しいもんね・・・しかも大概が経理課の仕事だし。なんか恨みでも買ったの?」
虎織が茶化すように聞いてくる。恨みかぁ・・・無くはないな
「散歩で外出しまくってたりとか経理課参加の会議はボイコットしたりとかあとは経理課の書類は基本後回しにしたりとか?」
「それは将鷹が悪いよ・・・散歩は桜花さんが交渉してお咎めなしになってるけど会議と書類はちゃんとしようよ・・・」
「書類はちゃんとしてるよ。期限1週間前にはきっちり出してるし・・・会議は蓮だって行ってないし」
「俺の分まで将鷹に仕事行ってんじゃねぇの?」
それなら傑作だと蓮は笑いながら珈琲を飲む。いやこっちは笑えないぞ・・・
「それか神代のババアが単純にお前のこと気に入らないから嫌がらせしてるかだな」
「ババアは失礼だろ」
「んなもん失礼も何もないだろ。現場のヤバさも知らない温室育ちの奴が俺らにガミガミ言うってのがおかしいんだよ。ちっとぐらいは常備薬の品質上げさせろっての」
そういえば蓮も経理課からは目の敵にされてたっけか・・・医者兼黒影対策課、そういう異例の立場もあいつらは嫌うからな。特に上の世代は公務員が副職などとかよく言ってるし、まぁ我輩達に公務員も何もないんだけどな
「そうだ、神代さんで思い出したんだけどあの人の噂知ってる?」
虎織が珍しく神代さんの話題を出した。これは近々雨が降るか・・・
「そんな珍しい物を見る目で見ないでよー!」
「いや、だって虎織があの人の話題出すのいつ以来だよ」
「まぁ私もあの人のことあんまり好きじゃないし好んで話題には出さないよ」
嫌いと言わない辺り虎織らしいというかいい子というかな
「で、噂ってのは?」
蓮が興味津々にそう言って早く聞きたそうにしてる辺り何か弱みを握れるのでは?とか思ってるのかな
「元々の家が神職らしいけど追い出されたって」
「どこの誰情報だそれ・・・もし本当なら結構ヤバい奴うちで雇ってる事になるぞ・・・」
蓮の顔が一気に曇る。そりゃそうだ。華姫は神と人の共存する土地、神職の家から追い出されたとなると契約の一方的破棄、神の殺害、他者への神降ろしなどのヤバい事柄のどれかを確実にやっている事になる。それが紛れ込んで居るのなら大問題だ。だが確証が得られないからまだ経理課の長をやれているのだろう
「風の噂だから誰から始まった噂かはわからないんだよね。私は経理課の九重ちゃんから聞いたけど」
九重、聞き覚えがある名前だけど・・・思い出せないなら聞くのが一番早くか
「誰だっけ?」
「将鷹に申し訳なさそうに仕事持ってくる黒髪の子だよ」
「あぁー!なるほどあの子か」
確か今年入って来た新人の子だったな
「にしても中々ハードな噂だったな・・・正直もっと軽い適当に笑える噂だと思ってたが」
「だな」
調べてみる必要はあるかもしれないが今はそれ所じゃない。アルカンスィエルの奴らをどうにかするのが最優先だ
「そろそろ僕も話に混じってもいいかなー?」
雪がひょっこりとカーテンの向こうから顔を出す。アリサと話しててこっちの会話にいつ入ろうかという状態だったのだろう
「あぁ、待たせたな」
「さて、感想聞かさて貰おうか。アレ見てたからおおよその評価は分かってるけど将鷹の口から聞かせてよ」
雪が屈託のない笑みで我輩に問う
「魔力の通りが全く違うな。魔力消費が最小限に抑えられて魔術を使う面では優秀その物だな。刀としても一級品、そこら辺の鉄なら簡単に斬れそうなぐらいだな」
「でしょ!最高傑作だからね!それで名前は決まった?」
名前の事をすっかり忘れていた。これから長い付き合いになるのだこの刀の銘を考えてやらないとな
虎徹はちょっと引き摺り過ぎだろう。虎・・・獅子・・・いや、なんかこいつはどっちかというと虎だな。
白い刀身・・・白虎・・・!あの狐の神様の名前と被ってしまうがまぁいいだろ
「白虎なんてどうだ?」
「あのセクハラの神様と被ってるよねそれ!?」
セクハラの神様って・・・間違ってはいないか
「ダメか?漢字は白に虎だけど」
「将鷹がそうしたいって言うなら別に僕はいいけどさ」
「じゃあこいつは今日から白虎だ」
白虎を鞘に納め袖の魔術式へと入れる
「風咲先輩ー今いいっすか?」
唐突に耳元から禍築の声がした。あまりにも唐突だった為びっくりしてしまった
「禍築!?」
「あっ、無線機能の説明忘れてました。今つけてもらってる翻訳機から話してるんで」
「なるほど。びっくりしたぞ・・・」
「いやー言い忘れてましたね。それはそうと携帯の電源つけてください。ヴァンさんから全員にメール行ってると思うんでそれ必読ですよ」
「了解。用件はそれだけか?」
「えぇ、またなんかあったら昔のPCの音慣らしてから話始めますよ」
「なんというかチョイスが渋いな」
携帯の電源をつけてメールを確認するとそこには目を疑う様な内容が書かれていた




