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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
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第13幕 帰路

「逃げてきたはいいけど先代様追いかけて来ないよな?」


足が絡まりそうになりながら我輩は走る。

どうでもいいのだが、さっきの先代との戦闘で服に穴が空いているため寒い。


「どうだろ・・・事務所の場所は昔から変わってないからもしかしたら・・・」


虎織(とらおり)は少々不安そうな顔で声を出す。

虎織の髪留めに目をやると3つのうち1つが灰色へ変色しておりヒビが入っていた。


これは御守りの魔術式が発動した証であり我輩が倒れていた間に虎織に危機が訪れたということになる。


そんな時に呑気に死にかけていた我輩が非常に不甲斐ない。


「そうなると久野宮さんもしかしたら向こう側に着くかもだしなぁ・・・あの人先代様大好き人間っぽいし」


最悪の事態になると久野宮さんと先代の相手をしなければならない。

先代1人でもかなりキツいのに久野宮さんまでとなると死を覚悟せざるを得ない。

刺し違えてでも止めると言うなら手段はなくも無いがあまり褒められたものでは無いため使いたくはない。


「そういう人じゃないことを祈るしかないね・・・」

「だな。」


「そういえば虎織は怪我してないか?」


事務所まであと少し、そんな時に聞くことでもない、というかもっと早く聞くべきことを今になって聞く。


「お陰様で無傷だよ。助けてくれてありがとう。でも・・・いや、やっぱりいいや。ほんとにありがとね。将鷹(しょうよう)がいなかったら私・・・」


少々口ごもって礼を言う虎織。


そして数秒の沈黙の後にもう一度虎織は口を開く。


「何も言わないで聞いて欲しいんだけど。いいかな?」

「おう」


我輩は即答した。


「私、将鷹が水面に投げれた後、先代にそのまま殺されようかそれとも自刃しようか迷ったんだ・・・」


虎織の口から衝撃的な言葉が出た。しかし何も言わずに聞くと決めたのだ。言葉は紡ぐまい。


「諦めてた時に将鷹の声が聞こえてきて、もう少し頑張ろうって思えた・・・」


「その、なんて言うか、いつも支えてくれてありがとね」


虎織がもう喋ってもいいよと言う表情になったので口を開く事にする。


「どういたしまして。しかしまぁ自刃は良くないからな?もし虎織が自刃しようものなら我輩も自刃する・・・悪い。人の事言えないわ。」


よくも悪くも我輩達は同類だ。


まぁ自刃の理由が全く違うんだろうけど。


虎織は責任感とかそういうのに押し潰されて自刃するタイプだと思うが、我輩は生きる意味が無くなるから。ただそれだけだ。


風をきる音のみが聞こえる静寂の中、我輩達は事務所へとたどり着く。


「無事帰って来れたな」

「そうだね」


階段を登り、琴葉ちゃんの待つ黒影対策課の部屋へと入る


「あら、おかえり。どうやら相当の手練だったようね」


琴葉ちゃんが珈琲を飲みながら椅子に座っていた


「そうだな。胸に風穴空くくらいには強かった」

「面白い冗談・・・じゃないわね。それ大丈夫なの?」

「今は大丈夫。確かに風穴空いてたんだけど不思議な事に治っちゃってるんだよなぁ・・・」


ほんとに不思議だ。色々と片付いたら虎織にあの時何があったかを聞くべきなんだろうなぁ・・・

自分の事とはいえ少々知るのが怖いというのが本音だ。


もしかしたら自分は人外なのかもしれない、何かが混じっているのかもしれない。その事実を知って自分を保てるのだろうか


「そう。虎織、何が起きていたかを教えてちょうだい」


琴葉ちゃんはまだ湯気が立つ珈琲を一気に飲み干し鋭い眼で虎織を見る



虎織は大まかに今までに起きた事を話す。

先代が我輩達、十二本刀を恨んでいること、そして我輩の瀕死の重症が何故か治っているという不可解な現象について。


虎織の話を聞いてわかったことは、我輩には瀕死になると発動する意思を持った魔術式が埋め込まれているようだ。

どんな目的で誰が埋め込んだ術式かは分からないがその魔術式は恐ろしいほどの火力をもつ蒼色の炎を使い、恐ろしい回復能力を持っていて、影朧と名乗ったそうだ。


そういえば逃げる時も蒼色の炎の壁が出来ていたな。


あれは先代が作ったものではなく魔術式のものだったか。ということは我輩に悪影響が出ているのでは?と思ったが一切影響はなかったようだ。

強いて言うなら魔力が減っている。それだけだ。


「いやー化け物とかそういうの混じってなくて良かった・・・」


思わず本音が出てしまった


「化け物が入っていようが私達は貴方に対する待遇や態度は変えないのだけれどね」


まじまじと何かを探るようにこちらを見つめる琴葉ちゃん。


「なんでそんなになにかを観察するように見てるんだ・・・」

「失礼、少々興味深かったからつい。」


マッドサイエンティストチックな目をしていた気がしたが気にしないでおくとしよう


「将鷹に関する報告以外にもうひとつ重要な報告が」


虎織が口を開く。


「何かしら?」

「先代の口から拾弍本刀(じゅうにほんがたな)の不明だった2人のうち1人の可能性がある名前が聞けました。」

「それは真か?」


今まで口を閉ざして気配を消していた久野宮さんが前のめりになりながら口を開く。


左右偽陰(そうぎいん)、そう先代は口にしていました。」

「左右偽陰・・・ダメだ・・・思い出せん。しかし、その名に聞き馴染みがある故そやつかもしれん」


久野宮さんは何かが足りない。何故思い出せないのかそういう顔をしていた。


「今は思い出せなくてもいいわ。考えるよりも先に1つ大事な事をハッキリさせましょう?くのみー、いえ、久野宮(くのみや)竜吉(たつきち)。貴方は和煎(わせん)(ほのか)につくのかしら?それとも私達側についてくれるのかしら?」


琴葉ちゃんは先程よりも鋭い眼光で久野宮さんを見る


「ワシは現鬼姫につく事にする。」


久野宮さんの言葉からは覚悟が感じられる。


「そう。くのみーがこちら側に残ってくれて助かったわ。悲しいお知らせなのだけど、日々喜は先代側につくそうよ。」


そう言って琴葉ちゃんはチャットツールを開き1枚の写真を表示する


「おぉ・・・こんな光景が目にできる日が来るとは・・・」


久野宮さんは目頭を押さえ少し嬉しそうにしていた


写真を見るとそこには、日々喜さんと先代が一緒に写っている写真が表示されていた。

先代は先程までとは違い柔らかい表情だった。

にしてもこの写真やたらデコレーションされてるな・・・

今は写真はこういう風にするのが流行っているのか?


「そしてもう1つ情報として先代は橋から外へは行けないそうよ。」


日々喜さんどうやらスパイ活動してらっしゃるようだ

琴葉ちゃん以外驚愕の表情を浮かべている


「それは先代側についたというよりスパイしに行っているんじゃ・・・」


虎織がツッコミを入れる


「そうなるわね」


琴葉ちゃんがなるほど!と言わんばかりの表情で答える


「本当にやってることがスパイそのものだな・・・これは仄様に知られたら日々喜は逆さ吊りだけでは済まんぞ・・・」


久野宮さんは不安そうにしているがまぁ大丈夫だと信じたい。


「とりあえず今日はみんな休んでちょうだい。明日また方針を決めましょう。」


琴葉ちゃんのこの言葉で我輩達はそれぞれの帰路へとついた。


まだまだまだまだこの厄介な日々は続きそうだ

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