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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
箸休め、幕間
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宇迦とこんびに

午前3時、神様の朝は早い


「さて、ご飯は何を作ろうか。やはり焼き魚と味噌汁だろうか。しかし毎日これだと飽きが来るというものか」

「宇迦様、おはようございます」


1匹の黒い1mはある狐が部屋へと入ってくる


「やぁ大五郎、いい朝だね。朝ごはんで悩んでいるんだけど何か案は無いか?」

「それでしたらパン等いかがでしょうか?」

「ふむ。最近では人の世でもそれが普通というのも聞いた事があるな。よし、ではパンにするとしよう」


しかし、宇迦は気付いた。ここにパンはないのでは?これは近くの市場に買いに行かなければならない。そして市場が開くのは午前9時程・・・流石にそれでは腹ぺこになってしまう


「どうしたものか・・・」

「宇迦様、市場が開くのを待つなどせずともこんびになる商店が眠らず存在しておりますよ」

「こんびに・・・?華姫にそのような商店いつの間に出来たのだ・・・?」

「つい先日だったと記憶しております」

「そうか。では道案内を頼む」

「御意」


黒い狐はくるりと回ると初老の男へと変化して宇迦之御魂神の前を歩いていく。そして鳥居をくぐり木造の建物が並ぶ町並みへと出ていく。時間が時間なだけあって灯りは無く人など歩いているはずもない


「ここも少し前は畑しかなかったというのに人というのは変わるものですな」

「移ろい、変わりゆくのも人の魅力だろう」


少し歩くとさっきまでの黒1色の景色から煌々と光る建物が1つ見えてくる


「ほう。これがこんびにか」

「えぇ。そこの扉は押戸ですので横に引かぬように」

「ハッハッハ。オレもそこまで馬鹿じゃないさ。戸の形を見れば押すか引くかくらいはわかるさ」


この時の宇迦は見栄を張っただけで押戸などまだ見慣れていなかったのだ。危うく横に戸を引き扉を壊すなどという事にはならず内心ホッとしていた


「らっしゃせー」


気だるげな女の声が宇迦と大五郎を迎え入れる


商品棚には見慣れる袋詰めの菓子に雑誌、それに容器に入った飲み物など目新しい物が多い。それに心を踊らせた宇迦之御魂神は尻尾を振りながら眼を輝かせていた


「なぁ大五郎!ここはすごいな!野菜は売っておらんが色んな物が売っておる!って、あれは・・・」


帽子を被って眼鏡掛けた女をみて宇迦は既視感を覚える。というより疑問に思ったのだ。この時間にあやつは何をしているのかと。

女の持つカゴの中身に目をやると袋に入った金平糖が大量に入っているではないか。そして興味本位でその女に声をかける


「鬼姫、こんな時間に1人で出歩くとは危ないぞ」


宇迦が声をかけたのは華姫を治める鬼姫こと和煎仄であった


「・・・人違いです」

「いや、人違いなどではなかろう?」

「うぅ・・・どうかこの事は部下達には内緒に・・・」

「何故そうなる・・・何かやましい物を買っている様には見えんが」


そう。カゴの中身は全て金平糖なのだ。本棚に陳列されている裸婦が載っている本でもなければ酒やタバコでもない。おおよそ鬼姫のイメージを崩す物ではない


「甘い物が好きというのはどうしてもバレたくないのです・・・どうか、どうか。後生です・・・!」

「そこまで必死にならずとも誰にも言わんよ・・・」

「そ、そうですか」


「宇迦様。パン、ありましたよ」


大五郎が袋に入った菓子パンを持って宇迦の元へと駆け寄る


「おぉ。ご苦労。ふむ、メロンパン?とな」

「お気に召しますでしょうか」

「うむ。良い。ではこれを買うとしようか」


「げっ、宇迦之御魂神」

「なんじゃオレの顔を見た瞬間顔を顰めるでない。荼枳尼天よ。というかそなたは何故ここでそのような服を着て接客しておるのだ?」


なんとレジにはここのコンビニのユニフォームを纏った茶髪で黒い眼、三白眼の女神、荼枳尼天が居たのだ


「アタシだって好きでやってんじゃねぇよ。ここの店主が神社で人手が欲しいとか商売繁盛願うから代価はなんだって聴いたら対価として釣り合う金でな。1時間接客で700円、そこに深夜手当で100円プラスだってんだから仕方なくだ」

「対価を払うなら願いを叶えてやるとは難儀なモノじゃなそなたも」

「うっせぇ。ってかパン1個かよ。アンタ酒好きじゃなかったか?」


宇迦の耳がピクリと動く


「なに、酒があるのか?」

「あるぜ?美味いし手頃なのがよ」

「どれが美味いか教えてくれぬか?礼に1つ奢るとしよう」

「いいぜ、今よく売れてて美味いのはこの缶のやつでな」

「なに!?この中に酒が!?栓抜きとか必要無いのか!?」

「要らねぇよそんな面倒なモン」

「よし。これも買って帰るとしよう」


いくつか缶チューハイを手に宇迦はレジへと戻り1本を荼枳尼に手渡しコンビニを後にし朝食となるメロンパンを食べる


「うーん!これは美味い!甘くて外はサクサクだが中はふんわりとしておる!人の食べ物というのは随分と進化していく物だな!さて、仕事の前に酒でも煽るかの」


これは今回のオチというべきか、この後ジュースの様なチューハイに感動しついつい呑みすぎて次の日酷い目にあったとか。その日を境に宇迦之御魂神は酒をあまり呑まないようになったそうな

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