虎織と拳銃
これは我輩がまだ高校生だった頃の話だ。
我輩はヴァンさんに拳銃の扱いを日々教えて貰っていたある日、確か休日だったか、珍しく虎織が射撃場へと顔を出したのだ
「差し入れ持ってきたよー」
虎織は竹編みのピクニックでよく使う籠を持って扉を開ける
「おっ!有難い!将鷹、ちょっと休憩するぞ」
「了解っす」
ちょうど一息着きたかった頃合だ。まぁそれもそうか。時計を見れば12時なのだから。射撃訓練の部屋から出て外のテーブルに虎織がサンドイッチを広げてくれる
「本職顔負けの出来だな・・・」
ヴァンさんは虎織手製のサンドイッチを見た瞬間そう呟いた。料理に関しては虎織とヴァンさんはどっこいどっこいと言ったところか。好みの味付けとかそういうのが絡むと虎織に軍配が上がるのだが
「褒めても何も出ませんよ」
「いや、美味そうな昼飯が出てる」
「これはいつも将鷹がお世話になってるお礼ですよ」
「ハッハッハっ!コイツに銃教えるの結構楽しいから礼をしたいのはこっちだっての」
そう言って、手を合わせてからサンドイッチを1口。そうしたらさっきまでテンションが高かったヴァンさんの表情が素に戻る
「なぁ虎織」
「もしかして・・・口に合いませんでした・・・?」
「いや、将鷹と一緒にうちの喫茶店のバイトしないか?」
口から出てきたのは勧誘だった。我輩はたまに手伝いに行くが確かに虎織が居てくれると忙しい時はもっと楽に捌けるだろう
「キッチンですか・・・?」
「もちろん。ホールがいいならそっちでも良いが」
「将鷹はホールだったよね」
「一応な」
「人数的にはキッチンに入るべきだけど・・・」
「ホールの方やりたかったら我輩が厨房に入るが」
「将鷹、そういう問題じゃねぇんだよ。なぁ虎織」
「な、なんですか!?」
考え込んで完璧に思考モードになってたな。声をかけられるまで外の音が聞こえなくなるほど考えこまなくても・・・
「一旦保留でもいいですか・・・?」
「あぁ、問題ない。こちらもすまんな。あまりにも美味くてついつい勧誘しちまった」
我輩もサンドイッチに手を伸ばし一言
「いただきます」
「召し上がれ」
虎織は笑顔でそう言って我輩の顔をじっと見る。見つめられるというのは少々恥ずかしいがサンドイッチを1口。シャキシャキとしたレタス、みずみずしいトマト、程よい塩気のハム。薄く塗られたマヨネーズもまたいい塩梅だ。店で出されても全く違和感はない、ヴァンさんが店に勧誘するのも頷けるというものだ
というか美味くて頬が緩む。それを見て満足という顔を虎織がみせる
「美味しそうで良かった」
「うん。美味しいよ。流石虎織だな」
「褒めすぎだよー」
そうやって話しながら美味しいサンドイッチを食べて少ししてから射撃場へと戻る。するとキビキビと動く的達が宙に浮いていた。この的を全て1発も外さず撃ち抜け、それがヴァンさんからの課題だ
「さて、やりますか!」
使っているGLOCK17にマガジンを入れてスライドを引きセイフティを解除する
ターゲットの数は6、全て2発で壊れるようになっている。的を捉え、2連続で引き金を引くダブルタップという技術の練習だ
「それじゃあスタートだ」
「押忍!」
1個目の的は簡単に撃ち抜ける。だが2個目以降が問題だ。1個的を壊す事に少しずつ加速していく仕様だ
2個目を撃ち抜き、3個目、4個目と順調に撃ち抜く。
ここからが問題だ。的が速い。眼で追うのも一苦労だ
動きも不規則、さらに少しずらしながらのダブルタップが要求されるだろうな
眼がなれるのを待つのはダメだ。なんとかして5個目を撃ち抜いた瞬間我輩の足元に弾丸が飛んでくる
「わっ!?危ねぇ!」
「あわわわ!将鷹大丈夫!?怪我とかしてない?弾当たってない!?」
慌てて虎織が我輩に問う。何が起きたんだ・・・?
「すまん。虎織に銃の撃ち方教えてたんだが変な弾道描いてお前の足元に弾が飛んで行ってな・・・」
「えぇ・・・なんですかそれ・・・」
「虎織、もう1回、撃ってみようか」
ヴァンさんがそう言って虎織が引き金を引く。すると最初は真っ直ぐ弾が飛んでいたと思われるが途中何かに跳ね返った音がした。そして跳ね返る音が数回してから我輩の足元に弾がめり込んだ。しかも勢いよくだ
「なにこれぇ・・・」
「今回は跳弾したからなんとも言えないが何か呪いみたいな物なのか」
「3度目我輩に飛んでくると我輩か虎織のどちらかに何か誓約とか加護がかかってるんだろうな」
「もう1回撃てば良いのかな・・・?」
「頼めるか?」
「わかった」
虎織が緊張しながら引き金を引く。すると今回は反射する音も何も聞こえず我輩とヴァンさんの髪を掠めていく。お互い怪我はない
「これは・・・」
「虎織に何かある、という事だな」
「虎織、銃はやめておこうか」
「そうだね・・・うぅ、ガンアクション憧れてたんだけどなぁ。でも仕方ないよね」
後々わかったことなのだが虎織のお母さん、歌織さんが全く銃を使えない呪いを持っていたそうだ




