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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第3章 華姫騒乱編(上)
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エピローグ、風咲邸にて

全く、女を攫うなど俺の矜恃に反する事だ。

しかし雇用主からの指示ならば俺たち傭兵はそんな矜恃など関係ない。それに従う他ないのだ。


今回の標的は風咲アリサ、という女らしい。金髪に空色の目、この土地に似つかわしくない北欧系の美少女とでも言うべきか。

手元の資料によれば両親共に健在、兄が1人という家族構成の様だ。しかし両親と兄は北欧の地より離れられない為母方の親戚である風咲家に身を寄せていると。


風咲家については魔術師の家系で日ノ元でもそれなりに名が通る家だという。しかしながらここの家主である風咲将鷹はまだ無名に等しいが化け物らしい


それと共に住む者として雪城虎織、手練の魔術師だが人質さえとってしまえば動けなくなると書いてある。それに風咲将鷹を殺してしまえば人として脆いとも


追記事項に風咲将鷹は殺すなと書かれているのは何故だろうか。理由については明記されていない。雇用主の計画の中枢を担うのがこの風咲将鷹なのかはたまた別の理由があるのか。俺には計り知れない


目的地に来るまでに随分と竹林を彷徨う羽目になったが1度竹林を抜けてしまえばあとは真っ直ぐ進むだけだ。



日本家屋、そう表現するのがいいだろう、その建物を目指して進むが一向に着く気配がない。オアシスの蜃気楼を目指して進む旅人に比べれば随分とマシだろうが



歩き始めて1時間程だろうか。未だにたどり着けない。1度引き返すのも手だろがこの1時間歩いたという事実が意地となりそれを拒む。


「お客さん、ここは初めてかい?」


随分と低い所から声が聞こえてきた。そこにいるのは茶色い猫だけ


「そうそう。話しかけてるのは俺だよ俺。お客さん外から来たんだろ?喋る猫なんて向こうにはそうは居ないだろう」


猫が喋っている。にわかには信じ難いがしかしここは魑魅魍魎蔓延る日ノ元、猫の1匹喋ってもおかしくはないか


「案内してくれるのか?」

「あぁ、もちろんだとも。お客さんに進む勇気が有るならの話だがね」


随分と含みのある言い方だ。もしやこの猫俺の目的を知っているのか?そうなると罠の可能性もある。ここでこの猫を消すか。いや、そうなるとこの道を彷徨い続ける事になるだろう。となるとこの猫について行く他ない


「案内を頼む」

「クックックッ。勇気ある人間だ」


そう言って猫は足早にその場から離れ進み始める


「ここは一体なんなんだ?」

「ここは風咲邸の迷い道さ。前の御頭首が仕掛けた望まぬモノを領地に寄せ付けない魔術式さ」

「それを知って何故俺を導く。まさか現頭首に嫌気でもさしているのか?」

「いいや。今の御頭首には世話になっているし感謝もしているとも。神社でよく可愛がってくださる」

「ならば何故」

「今の御頭首は優しいからな。きっと敵だと分かっていても招き入れるだろうさ。何せお客さん、カラカラに乾いておろう。水はまぁ庭の蛇口から飲むといいだろう」


確かに喉が乾いている。太陽が照りつける中で歩き続ければ誰だってこうなる


「そこで野垂れ死なれては御頭首も寝覚めが悪かろう」


なるほど。猫は恩を忘れるとは言うがどうやら間違いという訳だ。だがしかしこの猫は非情な現実を知らない様だ


「ここまで来れば迷う事もない。御頭首を呼んでくるとしよう」

「道案内感謝する」


恩を仇で返すという言葉があるがその言葉、俺は嫌いだ。恩には恩で報いなければならない。故にこの猫の行動は見逃す。


ついにさっきまで永遠たる距離にあった風咲家の前まで辿り着けた。

そして俺はボロボロになった風咲の表札を見て驚愕した。なぜなら傷は全て銃痕なのだから。既に一戦交えている。だと言うのにここには一切血痕や死体が転がっていない。明らかに異常だ


「最悪な仕事を受けてしまった様だな」


しかし俺以外この任務を遂行できる適任者が居なかった、これは仕方の無い事なのだ。アンドラ公国であの城ヶ崎という胡散臭い東洋人に教わった魔術というものが使えそれが隠密行動に使える物というのは俺しか居なかったのだから


「透過開始」


言葉と共に魔術式を発動させ俺自身の姿を消す。気配すらも消える為気は進まないが人攫いにはもってこいだろう


・・・この扉はどうやって開ければいいんだ?ドアノブがない。押しても引いてもガタガタと音をたてるだけだ


そんな時手が滑りガラガラと音を立てながら扉が開く。なるほど。日ノ元の扉は横にスライドするのか


玄関を入ると重い鐘の音が響いている。これも魔術式によるものだろう。これは早々に対象を確保しなければ面倒な事になる


「どちら様?」


息を飲む程可憐な少女がその姿に似つかわしくない物を持って奥の方から現れる。写真以上の美少女だ。そして何より大きい


その手に握られるているのは50口径の化け物拳銃、デザートイーグル。それと対になるかのような小型の消音リボルバー、ots-38。


二丁拳銃は素人ができる様なことでは無い。きっとこれは脅しだ。そう思っていると少女は無言で俺とは全く違う方向へとデザートイーグルの銃口を向けるのだった。

全く見当外れな所に銃を向けているなんて素人丸出しで可愛いものじゃないか。と言っても今の俺は気配すら無いのだ。当然と言えば当然だ、そう油断した瞬間だった。

少女は引き金を引く。その光景を見て俺はきっと下卑た笑みを浮かべていただろう。だがそれも一瞬だった。


こめかみに硬いものが勢いよくぶち当たる。何が起きたのか、何が当たったのかは理解出来なかった。あまりの衝撃に魔術が解け姿が露見してしまう


「当てずっぽうだけど当たって良かった。でも狙いは少し外れちゃったかな・・・」


その言い方、俺に当たったのは非殺傷の弾か・・・ありえない・・・!跳弾させて俺のこめかみを撃ち抜いたというのだ。きっと何か仕掛けがある。俺はアーミーナイフを取り出し少女に飛びかかるように襲いかかる。直線的な動きでは狙われ、撃たれる。動き回れるほど廊下が広いのが俺にとっての救いだ


「動かれると当てにくいんだよね・・・!」


そういうと少女は1発ずつ角度を変えてデザートイーグルを連射する。どうなってんだあの子の肩と腕は!?あの化け物拳銃を少なくとも4発連続だぞ!それも片手でだ


距離にしてあと5歩。肩を掠める銃弾を気にせず距離を詰めようとした瞬間手に衝撃が走りナイフを落としてしまう。拾う暇などない。もう一本ナイフを取り出そうとしたがそれは叶わなかった


顎に1発、勢いよく非殺傷弾が当たる。まるでフックを食らったかの様だ。そして間髪入れることなく下からアッパーの様な一撃が加えられ視界が歪む。脳震盪の1歩手前と言うべきか。

この少女本当にただの人間なのだろうか・・・?跳弾させて動く的の弱点に的確に当てる。そんなのはただの少女ができるはずがない。もう意識が持たない


そのまま俺は床へと倒れ込む


遠のく意識の中俺は少女の影に狼の様な異形を見た



ーそれはまるで悪魔の様だったー

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