第29幕 非常事態
虎織と昔懐かしい話をしていると携帯電話がけたたましく吠える。緊急用の回線だ。通話履歴も残らず普通の回線とは違うため傍受されにくい本当に緊急かつヤバい事が起きた時だけに使われるヤツだ
「はい」
ナンバーディスプレイはこの回線は機能しない。誰がかけてきたかなんて分からない。だから名は名乗らず相手の声を待つ。敵に携帯を奪われた時の想定でこういう風な受け答えをしろと大和先生から教わったなぁ。
まぁ暗号化された文字と番号だから敵からしたら何がなんだか分からないだろうけど
「将鷹か!?今すぐ虎織を連れて避難所付近の屯所まで来てくれ!綺姫が・・・!」
この声、桜花さんか。琴葉ちゃんになにかあってかなりヤバい状態だって事だけは分かる
「できるだけ最善の武装で最速で来てくれ!」
「分かりました」
唸り声が聞こえると電話が切れた。おおよそ考えうる最悪な事態のようだ。琴葉ちゃんの鬼化、危惧していたとはいえこんなタイミングで・・・
「虎織、我輩の無茶に付き合ってくれるか?」
「野暮な事聞かないでよ。私達は一蓮托生、運命共同体なんだよ」
隣に座っていた虎織が我輩のほっぺたに人差し指を当てながらそう言った
「そうだな。そうだった」
少し顔がにやけてしまっている気がするがまぁいいだろう。虎織にしか見られてないし。そう言って我輩は羽織の袖に腕を通す
「あーニヤニヤしてるー!久しぶりにそういう表情見たかも!」
「そういう虎織もにやけてるぞ」
「だって幸せだし仕方ないよ」
「そうだな。っと」
回転式拳銃のシリンダーに弾を込めてからスイングしてシリンダーを元の位置に戻し袖へと仕舞う
「将鷹、リボン結んでくれる?」
虎織は髪を後ろにまとめた状態でそう言った
「もちろん」
予備のリボンを袖から引き出し白いリボンを蒼へ変えくるりと回し、解けない様に結ぶ
「やっぱり虎織はこの色が似合うな」
「あっ、さっき白いリボンだったのに蒼くなってる!」
「奏さんにコツ教えて貰ったから虎織に渡す物なら蒼くできる様になったんだ」
「私にだけなんだ・・・」
「虎織への思いを込めて魔術式を構成するっていうのが条件らしくてな。まぁ蒼以外もできるらしいけど他の色はおいおいな」
「将鷹がくれるなら何色でも私は大丈夫だよ?」
「今のままだと蒼一色になっちまうよ」
まぁ魔術式を込めなければいい話なのだが
「じゃあ私からも。左手出して」
「こうでいいか?」
「うん」
頷きながら虎織は我輩の薬指に魔術式が書かれた紙というより御札を巻いてから指輪をはめて魔術式を展開していく
「はい、契約完了。もう離さないし離れないよ」
御札は指輪に文字を刻んでいく
「この魔術式は?」
「常時魔力共有、それとちょっとした無線みたいな魔術式だよ」
「なるほど。便利と言えば便利だけど思いっきり魔術行使すると両方倒れる可能性があるのか・・・」
「そこら辺は調整できるようになってるよ」
「なら大丈夫だな。用意もできたみたいだし行こうか」
「うん!」
我輩は風切と虎徹を腰に差してから玄関を出て虎織と共に走り出す
「そういえば何が起きてるか聞いてなかったね」
虎織が走りながら我輩に説明を求めてきた。そういえば言っていなかったなと思いながら口を開く
「あくまで憶測だけど」
そう前置きをしてから本題に移る
「琴葉ちゃんが鬼化したかもしれない」
沈黙。夏の暑い空気が少し冷える
「将鷹はどうしたい?私はできる限り助けたいんだけど」
「もちろん助けるよ。できる限りじゃなくて必ず」
「了解。懸念すべきはどれだけの力か全くわからない事だよね」
「そうだな。桜花さんでも押さえられてないと考えるとかなり強力なんだろうけど」
「先代様みたいに皮膚を硬化して刀を弾いてくれればちょっとは戦いやすいんだけどどうなんだろうね」
「やってみないと分からないな・・・」
全速力で走った為少し息が切れたが何とか現場へとたどり着けた。建物や地面の一部がボロボロでそこかしこに瓦礫が散乱して土煙が視界の邪魔になっていた。
刀に手をかけながら1歩ずつ慎重に進んでいくと特徴的な赤い髪が見える。琴葉ちゃんだ。でも何処か違う
「琴葉ちゃんあんなに身長高くないよね・・・」
「あぁ、でも琴葉ちゃんなのは間違いない」
鬼化を成長を抑えて押さえ込んでいると言っていたがまさか本当に鬼化と共に身長が伸びるとは・・・
「琴葉ちゃん!」
声をかけてみる。そして振り向いた姿に我輩は驚愕した
全裸じゃねぇかよ!髪が長くてギリギリ見えていないのが救いだが戦うとなると見えるぞあれ・・・
「虎織、何とかして包帯とか巻けないか・・・?」
「あー・・・うん、頑張ってみる・・・」
流石に集中できないから虎織に何とかしてもらおう。そう思った瞬間、視界がすごい速度で変わる景色を捉え、止まったと思ったら背中に衝撃が走る。
吹き飛ばされたのだと理解するまでに数秒かかった。どうやって捕まえろっていうだよこんなの・・・そう思いながら我輩は刀を鞘から引き抜き立ち上がる




