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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第3章 華姫騒乱編(上)
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第28幕 歩を進めて

「剣薙の件、御苦労だったわね。2人とも今は休んでちょうだい。私の警護は桜花にしてもらうから安心して」


琴葉ちゃんはそう言った。何故だろう、空元気に見える。顔色はそこまで悪くないし汗もかいてない。なのになんでそう見える?


「琴葉ちゃん、無理してないか?」


我輩は問う


「無理はしてないわよ。心配せずに休んで。そうじゃないとあとで私を護れないわよ」

「そうかい。じゃあ後は桜花さんに任せます」

「あぁ、今は儂に任せておけ」


桜花さんに琴葉ちゃんを任せ自宅へと戻る。鍵をかけ忘れていたか・・・不用心にも程があるなぁ・・・


アリサはヴァンさんの所でしばらく面倒見てもらうらしいから暫くこの家は昔みたいに我輩と虎織の2人だけか・・・


我輩の部屋に小さなちゃぶ台を置き虎織と向かい合い座る。熱いお茶を入れた湯呑みを片手に何を話そうか・・・いや、もう話したい事なんて決まっている


「なぁ虎織。聞いて欲しい事があるんだけど」


意を決して我輩は虎織に気持ちを伝えることにした。そろそろ影朧がうるさいのもあるがやはり自分の気持ちをぶつけてからここからの戦いに挑みたい。


迷いなんてもん全部捨てて、身軽にならなきゃやってられないし何より場合によってはこの気持ちを伝えること無く戦場で倒れる可能性も十分にある。できる限り後悔はしたくない


「どうしたの改まって?」


虎織はキョトンとした感じで首を傾げ我輩を見る。真っ直ぐ視線を向けられるとなんだか言い難い・・・


お前、早く言わねぇと俺が言うぞ。影朧がそう呟いたのが聞こえた。いやいやちょっと待て。色々とツッコミたいんだけど。でもまぁ今の影朧ならこれくらいは不思議でもないか。そう自らに言い聞かせ、自分の弱さを、臆病さを押しのけ我輩は口を開く


「あの、なんて言うか・・・我輩は虎織が好きにゃんだ」


噛んだ!クソ!こんな時に緊張で舌が上手く回らないとか全くもって格好がつかねぇ!


「もう1回、言って貰えるかな・・・?」


虎織が少し照れているのか呆れているのかよく分からない表情でそう言った。今度は噛まないぞ・・・!そう覚悟を決めて口を開く


「虎織、結婚してくれ!」


静寂、そして我に返る。いや待て、勢い任せで言ったけども何言ってんだ我輩は・・・!馬鹿か!?感情先走り過ぎだろが!


「ふふっ、将鷹、それはちょっと段階飛ばしすぎだよ」


虎織が涙を浮かべながらそう言った。可笑しくて涙が出るというやつなのだろうか・・・

我輩は押し黙る他選択肢がない。お前そりゃないわー!とおおよそ笑い転げている影朧の声が響くが気にする程の余裕はない


「でも、うん。ありがと」


座っていた虎織は立ち上がり我輩の横へと座りぎゅっとだが優しく抱きしめてくれた。

思考が纏まらない。このありがとというのはどっちの意味だ・・・?分からない・・・


「私も大好きだよ・・・」


その言葉と共に虎織はいつもの虎織らしくなく声をあげて泣き始めてしまった。

泣きはしてもこう声をあげてまで泣く虎織は中学の頃以来だ・・・


「虎織、そんなに泣かなくても・・・」

「だって!将鷹の事私も大好きなのに怖くて・・・!」


あぁ、虎織も我輩と一緒だったんだ。そう気が付いた


「1歩が踏み出せなくて・・・!どうにかこの思いを伝えたいって思ってたのにどうしようもなくて、琴葉ちゃんと宇迦様に今のままじゃ言われてたのに中々言い出せなくて・・・!」


宇迦様のあの時の言葉ってそういう意味だったのか・・・今更ながら思い返せばそういう意味とも取れる発言だったな・・・


「大丈夫、今伝わったから。そんなに泣かなくてもいいよ」


できるだけ優しく、虎織が安心出来る様に頭をゆっくりと撫でる


「ありがと・・・でももう少しこのまま泣いても良い・・・?今もう頭の中ぐちゃぐちゃでどうしようもなくて・・・」

「うん。それなら気が済むまで泣いていいよ。我輩はこうして落ち着くまで頭撫でてるからさ」


虎織が我輩の羽織に顔を埋める様泣く。我輩はゆっくりと虎織の頭を撫でながら落ち着くのを待つ。立場が逆なら我輩もきっとこうやって声をあげて泣いている気がするな。それにしてもちょっと苦しいかも・・・虎織が力強く抱きついているためだ。

まぁこれくらいどうって事ないけどな



ひとしきり泣いて落ち着いたのか声が止み虎織の抱きしめる力が弱くなった


「落ち着いたか?」

「うん・・・」

「そっか」

「で、君達挙式はいつどこでどんな感じでやるんだい?」


胸元から声が響いた。聞き覚えのある声だ・・・というか天照様の声だ・・・


「もう少し空気読んでくれよ」


我輩は呆れながら天照大御神こと天ちゃんに苦言を呈し首にかけている御守りを外す。どうやら天ちゃんの声はこの御守りを介して我輩達の元へと来ているらしい


「えぇーだってめでたいじゃないかー」

「天照様・・・怒りますよ・・・」

「ちょ、ちょっとまって!お祝いを言おうとしてるだけじゃないか!?」

「コラ、天ちゃん、こういうのはいかんよー。ほら、2人っきりにしたげんさい」


日照様の声が聞こえたと思うとズルズルと引きずられる音が聞こえ始めた


「ごめんな2人とも天ちゃんも悪気は無いんよ・・・ほんまごめんなぁ・・・」


それ以降御守りから声が聞こえる事は無かった


「あのー、アレだな。あんまり実感湧かないな・・・」


ある意味いつも通りで


「そ、そうだね。でもなんかこうやって何も考えずに抱きつけるのってこういう関係だからこそな気がするね」

「それは確かに」


可笑しかった訳では無いが我輩と虎織は眼を合わせると自然と笑いが出てしまう。

なんか本当にいつも通りだ。でもこのいつも通りが幸せなんだよな


我輩は幸せを噛み締めながら、ゆったりとした時間を過ごす。厄介事を告げる携帯電話が鳴るまでは・・・

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