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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第3章 華姫騒乱編(上)
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第26幕 尾行

我輩達は山を降り行きとは違い普通の道を歩いて帰る


「なぁ剣薙」

「あぁ、誰かが尾行してきてるな」

「お前本当にすげぇな」

「これくらい出来て当然だろうが」


正直当然とは言えないのだが。きっとコイツは厳しい環境で育ったのだろう


「我輩でも尾行に気づけるって事は素人だろうな」

「いいや、中々手馴れてやがるぜ。足音を消して気配も随分と消えてるってことは暗殺向きの刺客だ」

「我輩は撒く方がいい気がするがどうだ?」

「ここで殺しておくのが先決だろ」

「おいおい、物騒だな・・・何も殺さなくてもいいだろ」

「考え方が甘いんだよテメェは。撒いてどうする、またつけられる可能性もある、それに始末しないとテメェの仲間を危険に晒し続ける事にもなるんだぞ」


言い返せない程の正論だった


「なら殺さずに捕縛とかあるだろ」

「そういうのが甘いってンだよ。テメェは殺さないってのを正義にしてんのかもしれねェがなァ捕まえた所で危険なのは変わりねェ」

「ならどうしろってんだよ」

「さっきから言ってんだろ、殺せ」


剣薙は鋭く、冷ややかにそう言った。

まるで我輩を否定するかの如く冷たく言い放ったのだ


「殺せない・・・」


この一言を絞り出すので精一杯だ。分かってる、解ってるんだ。我輩が甘い事も綺麗事だって事も・・・

加護が無かったとしてもきっと我輩は殺さない道を選ぶだろう。

・・・果たしてそう言い切れるのだろうか?分からない


「平行線だな。この話はここで終わりだ。俺の眼にはテメェは俺と同じに映ってたが見当違いみてェだな」


俺は俺のやり方でやらせて貰う。そう言って剣薙は姿を消して行った。我輩は・・・


「剣薙さんより早く尾行してる人を捕まえるよ!あの人なりの挑戦状なんだから華姫の十二本刀の力見せてあげようよ!」


さっきまで黙っていた虎織が口を開く。そして我輩の背中を強めに叩き我輩の前へと歩を進める。

そういえば剣薙の奴わざわざ尾行してきている奴に構わず姿を消した・・・ハンデって訳か


「いいぜ、やってやるよ・・・!」


我輩は振り返り走る。虎織は前に進んで居たが相手の位置を把握は出来ている、そして走って捕まえられる範囲に居るなら小細工は要らないだろう


「縛れ!」


鎖を引き出し標的の居る所へと絡ませる。

はずだった。手応えがなく鎖は空を切り地面に落ちる。


「気配はついさっきまで有ったのに・・・!?」


何故だ?考えろ、どうやってこの一瞬で逃げた?


否、標的は逃げてなどいなかった。腹部にドスリと重い一撃が入り身体中の空気が一気に抜ける


「がはっ・・・」


妙に酸っぱい、不快な味が口に広がる。さっきの一撃で胃酸が逆流したのか口の中が気持ち悪いし腹が痛い・・・絶対これ青アザ出来てるって・・・


「へぇ、倒れないんだ」


聞き馴染みの無い少年の様な声。多分尾行していた奴なのだろう。姿は見えない・・・でも風を切る音は聞こえてくる。痛みは引かないが立ってられる。大丈夫だ


「虎織、下手に近づかないでくれよ」

「分かった・・・」


風を切る音が強くなった途端空気の流れが変わる。読めた。だいたいどの方向から来るか、そしてどういう攻撃かも


「なっ!僕の蹴りを止めた!?しかもそんな小さな木で!?」


雪に貰った短刀を鞘に仕舞った状態で飛んできた蹴りを受け止めた。そして驚く事にその姿はまだ中学生ぐらいの少年だった。


「子供じゃないか・・・今なら許してやるから降参しろ」

「やなこった!それに僕は子供じゃない!」


少年は飛び退きそしてまた我輩の周りを回り始めた。何処から攻撃してくるか分からないだろうと言いたげなこの行為は正直子供らしいとも言える


「虎織、炎を使ってくれるか?」


我輩は炎を使えない。そして周りが紅蓮の炎に包まれるのもどうやら精神的にきついらしい。でもクルクル回っている敵への牽制としては炎が一番いい。

もし火達磨になりながら突っ込まれたらちょっと危ないだろうけど・・・


「大丈夫?私の真っ赤な紅蓮だよ・・・?」

「大丈夫。気分が悪くなっても虎織が助けてくれるだろう?」

「仕方ないなぁ・・・ちょっと調えるから待っててね・・・」


虎織はそう言うと真っ赤な魔術式を広げブツブツと何か言いながら魔力を込めていく。風を切る音は未だに止まない。


風を切る音が無くなり我輩の周りは完全な静寂へと変わる。即ち、虎織を狙いに行ったということだ


「行かせるか!追え、白鎖!」


我輩の言葉を合図に羽織の袖から真っ白な鎖が蛇の様にうねりながら風となっている少年を追う


「将鷹、伏せて!」


虎織の言葉が聞こえた瞬間に鎖は少年の足を捕らえた。

あの感じからしたら火力は結構有るな・・・この捕まえた子が消し炭になっても困るし・・・そう思いながら屈んでから少年の足を鎖で引っ張る。

漫画の様なふぎゃっという声と共にズザザザザと地面に身体を擦り付ける様な音が響く


「あっ、もしかして私囮にされてた?」


虎織が発動寸前の魔術式を砕き、行き場を失った魔力が真っ赤な椿の花弁の様に虎織の周りを舞う


「いや、そんなつもりはなかったんだけど・・・でも結果的には囮みたいになっちゃったな」

「まぁ結果オーライだね!」


虎織は笑いながら髪留めの位置を調整し始める。虎織が身だしなみを整えるのは気が抜けている時だけだ。白鎖で繋いではいるがちょっと危機感無い気がする・・・


「クソが・・・こんな鎖如きに・・・!」


少年は悪態をつきながらどんどんと身体を縛っていく鎖を必死に外そうとするが残念ながらこの白鎖はゴリラ並の力がないと縛り上げられている者が抜け出すことは不可能だ。全く、雪も随分と凄い強度の鎖を作ってくれたもんだ


「おいおい、子供縛ってるとかお前そういう趣味あんのかよ・・・」


缶コーヒー片手に剣薙が戻ってきた。そしてうわぁ変態だという様な目でこちらを見る


「勘違いすんな。尾行してた奴を捕まえただけだ」

「案外すんなり捕まえられたんだな。これならハンデは必要なかったか」

「やっぱそういう事かよ・・・」

「まァ最初っから捕まえた奴をその場で殺そうかとは思ったがガキ相手じゃ殺る気も起きねェわ」


剣薙はそう言うとまたどこかへ姿をくらました。それと共に少年も。少年を縛っていた白鎖は綺麗に解けている


「ゴリラ並の腕力って訳か・・・それに目にも止まらぬ早業とは恐れ入ったな・・・」


剣薙がどこへ連れていったのかは分からない。だが追う必要はないと感じる。だが


「一応どこへ連れていくかだけ見届けないとね」


我輩の言おうとすることを先に虎織が口に出す


「そうだな」


そうして我輩達はまた走り始めた

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