第22.7幕 薬師の務め
怪我人2人の手当ては終わった。
毒でも飲まない限りは死ぬ事は無いだろう。にしても雪城のやつ焼いて傷口塞ぐとか止血としてはいいんだろうけど重度の火傷作ってどうするんだよ・・・手術の時に使うような電熱メスとか見習えよ。どんだけ火力高い炎で塞いでんだ
まぁ昔よりは応急処置まともだけど。幾らか前だと傷口にホッチキスとかガムテープ直巻きって応急処置してたしな・・・
俺は車のハンドルを握りアクセルを踏み込む。今日は住民たちは避難している為道路はすっからかん、だから法定速度を無視して普段出せないようなスピードで道路を走る。こういう時はヘビメタに限る
ノリノリで走っているのを邪魔するかのように後ろでは鎖が巻かれた男が暴れている。ジャラジャラと鎖がうるさいしどうやって黙らせるか悩ましい
「おい、お前!俺タチをドコへ連れていく」
「俺の仲間の所。あとそれ以上暴れるならブレーキ踏むぞ」
「ブレーキを踏んでナニになるってんだ!ここから出せ!鎖を解け!」
「後ろ、見てみ。ってもお前ら素人には分からないから説明してやるよ」
この車の後ろには小さな薬品棚が積んである。中身はモルヒネの瓶以外は色つきの水だがこいつらにはいい脅しになるか。こいつにそういう知識が有ればの話だが
「そこの棚には塩酸、硝酸、アンモニア水、ホルムアルデヒド、モルヒネだ。聞いた事くらいはあるヤツらだろ?」
「それがどうした!」
「おいおい、物分りが悪いのは困るぜ?急ブレーキ踏むって事はその薬品棚が倒れるってわけだ。んでもって倒れたガラス瓶はどうなると思う?」
「ひっ・・・」
「想像出来たか?塩酸は希塩酸じゃねぇから人間のタンパク質なんて直ぐに分解しちまうだろうな」
少しブレーキを踏んで薬品棚を揺らして見せると男は完全に沈黙する。かっ飛ばしたから目的地はすぐそこという状態だがそのひと時をヘビメタの豪快で激しい重低音とデスボイスだけが車内を満たした
「おい、着いたから出てこい。抵抗はするなよ?抵抗したらその鎖が赤熱して一生鎖の痕ができるからな」
俺は車のエンジンを切って外へでる。そこには喫茶店の店主、ヴァンが店の前にハルバードを持って立っていた
「おう。予定より早いじゃないか」
「ヴァンさんまさか店の前でずっと待ってたのか?」
「いや、爆音のヘビメタが聴こえただけだ。誰も居ないからってあんまり好き勝手するなよ」
「程々にしますよ」
「とりあえずその3人は仮設の牢獄に放り込むが大丈夫か?」
「不衛生でなければ」
不衛生な所に仮にも俺の患者を置いておくのは気が引ける。
敵とは言えアイツが生かせというのならその主著を尊重してやるのが俺の役目だ。全く、我ながら友達には甘いな
「先に階段登ってすぐ右の部屋で待っておいてくれ。先客も居るが気にするな」
「先客って・・・」
「大丈夫だ。お前もよく知ってる子だ」
ヴァンの物言いだと年下だろう。まぁどうでもいい事だが
店内の厨房横のスタッフルームと札が貼ってある扉を開けすぐ目の前に現れた階段を登っていく。
確か右の部屋と言っていたな。右の部屋のドアを開くとそこには大きい長方形のテーブルいっぱいに置かれた数多の銃が並んでいた。
P90、コルト・ガバメント、ファマスにAK-47他にも有名な物からよく分からない様な物まで所狭しと置かれている。そしてそれをどれがいいだろうかと悩むように俺が入って来た事なんて気にならない、そういう風に短いスカートをはためかせる少女、風咲将鷹の従妹、というかもはや妹のアリサが真剣に銃を選んでいた
「アリサ、パンツ見えるぞ」
「えっ?あっ・・・蓮さんのえっち・・・」
「注意しただけだろ。実際には見えてない。だがそれに興奮する奴が居るのも事実だ」
禍築とか
「セクハラ・・・?お兄ちゃんに言いつけますよ・・・」
「ちょっ、それは勘弁してくれ!人間としての信用と命が同時に無くなりそうだ!そもそもで俺は注意しただけだろ!」
「冗談です。そんなに焦らなくても・・・」
すっごい嫌な顔しながら今にも変態、近寄らないでください気持ち悪いですと言いそうな顔で言われたら焦るだろ普通・・・アイツどんな教育してるんだよ・・・いや、これ多分綺姫が教えたやつだな・・・
「それにしても銃なんて眺めてどうしたんだ?」
「ヴァンさんが好きなの一丁選べって。だから迷ってて」
「アリサは研修に来た時事務派じゃなかったか?」
「事務でも自分の身は自分で守らないと」
確かに最近の華姫は物騒だ。だから自衛の手段のひとつくらいは持つ方がいい。刀とかはかなりの訓練が必要、魔術も才能や魔力に左右される。なら誰でも使える銃の方が自らの身を守るには持ってこいだろう
「でも将鷹的にはあんまり乗り気じゃないんじゃないか?妹が人を殺せる道具を持つってのは」
「そこら辺はお兄ちゃんが実弾とかじゃなくてゴム弾?みたいなのを用意してくれてるみたいだから」
「まさかアイツ公認とはな」
いや、アイツだからこそか。身内が傷付くのを最も嫌っているアイツだからこそ実弾は渡さないが身を守る術を渡す。本当に優しいというか甘いというかな。
いきなりドン!っと大きな音をたて扉が開く
「蓮!将鷹の家へ急げ!」
入って来たのはヴァンだ。そして随分と焦った様に声をあげた
「いきなりなんだ・・・?」
「理由は後で話す!急げ!」
急かされ俺は自らの車に乗り将鷹の家への道路をかっ飛ばす。運転中車のスピーカーから聴こえてきたヴァンの言葉は衝撃的でとても信じられるようなものではなかった




