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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
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第10幕 つかの間の休息

「腹いっぱい食ってもいいとは言ったが・・・いや、なにも言うまい・・・」


先程の話を終え外に出ると菊姫命(きくひめ)が悲しそうに財布を眺めていた。


その理由は高く積まれた皿を見て察した。

あぁ、アリサがマジで遠慮せずに寿司食ったな。そりゃ悲しそうに財布眺めるわ。


アリサがバイキング形式の店に行くと店が採算が取れない、というか赤字になると言えばわかりやすいだろうか。

とにかく大食いなのだ。


「先輩、アリサちゃんなんであんな大食いなんですか・・・?いっぱい食べる子は可愛いなと思いますが大丈夫なんですか・・・」


禍築(まがつき)が心配そうに我輩に声をかけてきた


「大丈夫だ。バイキング連れていったらもっと食うから」


最初は驚いたがもうアリサの食べっぷりに慣れてしまっている自分がいる。

どうやらアリサは食べても太らない体質らしいから羨ましい限りだ。


「そんなことより禍築、財布は大丈夫か?」

「やばいっすね。今月キャバクラ行けないっすわ」

「お前なぁ・・・」


金の遣い方は人それぞれ、特になにも言うまい


「そういえば吉音(よしね)先輩3日後帰って来るらしいっすよ。気を引き締めないとですよ」


禍築は少々嫌そうな顔をしてそんな事をいう。


「お前ほんとに月奈のこと苦手だよなぁ」

吉音(よしね)月奈(つきな)、土地神を祀る神社の巫女であり、華姫きって魔術師。正義感が強く悪人には一切の容赦が無く冷徹。しかし情に厚い。

今は仕事で華姫を離れて情報収集をしているらしい。


「だって吉音先輩って昔から俺には厳しくないですか?」

「そうか?普通だと思うけどな」

「馬鹿みたいに酒飲んで吐いたら怒られたんですよ!」

「それ居酒屋の真ん前でしかも吐く前に見知らぬ人にめっちゃめんどくさい絡み方してたからだろ」

「社会人ならたまにあることじゃないですか」

「いや、社会人でそれになるのは・・・」


口篭る。遠出した時に複数人そういう人を見てきた。特に上役が多かったか・・・


「たまにあることなのか・・・?」


自信が無くなってきた。我輩が異常でそれが普通なのだろうか?

いやいや。それが普通とすると華姫は普通じゃない人の集まりになる。


「冗談っすよ。あの時のことは普通に反省してます。」


珍しく真面目な禍築である。いつもこうなら月奈になんだかんだ言われることもないんだけどな


「そういえば好きな人に昔から意地悪したくなるってよく言いますけどもしかして吉音先輩俺のこと好きだったり?」


確かにそうは言うが果たして

「聞いてみるか」


我輩はそう言うと同時に月奈にメッセージを送る。

秒で返事が来るとはこういう事だろう。送って直ぐに「辻井君は嫌い」と短く書かれていた。


「月奈は禍築が嫌いだそうだ。」

「そりゃそうっすよ。冗談で言ったのに聞いたんすか・・・これ絶対後が怖いじゃないですか」


携帯が振動を幾度か繰り返す。通知を見ると月奈からのメッセージ。


「なんでいきなりそういうこと聞いたのかな?」

「辻井君に聞いてみて欲しいとか言われたのかな?」

ふと気になったから聞いてみただけだ。と返すと

「そっか」と短く返事きた



他愛もない事を禍築と談笑しながら過ごしていた時ふと目線がアリサの方へと向かう。どんどん積まれていく皿に少々申し訳なさを感じて財布から1万円札を3枚取り出し禍築に渡す


「禍築、アリサの食った分これで足りるだろうか・・・?」

「どうすっかね・・・とりあえずこれは有難く頂戴します」


禍築は財布に渡したお金を仕舞い「あっ、そういえば」と言いながらポケットから銀色の球体を出し

「これ何かの役にたつかもしれないんで今日の調査とかの時に持ってってください。」

そう言って渡してきた


「これは?」

「煙玉っす。捻ると唐辛子とか諸々が混ぜてある煙が辺り一帯に充満するんで人間相手ならもしもの時の逃亡率が飛躍的に上がるはずっすよ」

「なるほど。じゃあ有難く貰っておくよ」

「使う時は必ず眼とか鼻とか守ってから使ってください。めちゃくちゃ痛いんで」


自分を実験台にするとはなかなか根性があるなと少々禍築に関心した。



気づけばもう夕方が近い時間か。商店街の人々も集まっており大人数でのどんちゃん騒ぎとなっていた。


我輩は遠くからこういうのを眺めるのが好きな為少し離れてお茶を飲んでいた。少々土臭いような味が口に広がり気づく


「これ麦茶かよ・・・」


そう呟きながら飲み干す。麦茶は苦手なのだ。


「麦茶苦手だっけ?昔よく飲んでた気がしたけど」


横に座っている虎織が緑茶を飲みながら疑問を投げかける


「最近土臭さというかそういうのを感じるようになってきてな・・・」


20歳までは普通に飲めていたのだが味覚が変わったのかすすんで飲めなくなってしまった。


「そうだったんだ。まぁ煮出した麦茶って土っぽくなりやすいしね」

「作り方の問題かぁ・・・今度また挑戦してみるか」

「無理に作らなくてもいいじゃないかなぁ。いつも通り緑茶でもいいんじゃない?」


どうやら虎織も麦茶が苦手なようだ。ポーカーフェイスを気取っていても目が泳いでいる。


「そうだな。茶葉とかもいちいち変えるのも面倒だしな」

「そうそう。手間は省かなきゃ」


普段言わないような事を口走る辺り麦茶がどれだけ苦手か伺える。


「夜に備えて仮眠しとくか・・・」

「そうだね。今日は長丁場になるかもだし」


アリサと蓮に一声かけて我輩達は帰路へとつく事にした。



「もう夜か・・・」


仮眠から目が覚めると外は真っ暗だった。時間は20時過ぎ。虎織はまだスヤスヤと眠ったままだった。

起こすべきなのだろうか?あまりにも気持ち良さそうに寝ている為、起こすのが憚られる。というか寝顔がめちゃくちゃ可愛い。

葛藤の末シャワーを浴びてから起こす事にした。


「お兄ちゃんおはよ。」

「おー、アリサ。おはよう。そしておかえり」

「ただいま。今ご飯作ってるからちょっと待っててね」

「おう。我輩はシャワー浴びてくる」

「了解!美味しい料理作るからね!」

「そりゃ楽しみだ」


わしゃわしゃと髪をバスタオルで拭きながら居間へと向かう。


「おーはーよー」


あくび混じりの普段聞けないようなだらけた声で虎織が挨拶をくれる


「おはよう。まだ眠そうだけどもう少し寝るか?」

虎織は「うん」と短く答え倒れ込むように眠りに落ちる


「あっぶな。ここで寝ることはないでしょうが・・・」


信頼してくれているのはいいことなのだがいきなり倒れ込むのはやめて欲しい。心臓が止まるかと思った。


「あれ?私将鷹の部屋で寝てなかったっけ?」


どうやら虎織は完全に目が覚めたようだ。時刻は21時手前。


「おはよう。寝ぼけて廊下で寝ようとしたから居間に運んだんだよ」

「お兄ちゃん。話詳しく聞かせて貰えるかな?」

「廊下で寝ようとした虎織を居間まで運んできただけだけど」


アリサがまるで少女漫画を読んでいる時のように目をキラキラさせながら聞いてきた


「その前!お兄ちゃんの部屋で虎姉寝てたの!?」

「あぁ、そうだな。畳に布団敷いて隣で・・・」


おや?勘違いが起きている気がしなくもない。なにもなかったからな!なにも!


「普通に寝てただけだよー」

「なんだ。少女漫画風な感じになってるのかなぁと思ったけど」


少々残念そうな顔をしながらエプロンの結び目を解くアリサ。


「さて、気を取り直して。今日の晩御飯は特製カツカレー!」

「「おぉー」」


この後の勝利を願っての験担ぎと言うやつだろう。

そういうのは嫌いじゃない。むしろ好きな部類である。


「22時出発としてあと30分くらいあるから私も軽くシャワー浴びて来ようかな」


ご飯を食べ終わって少しした頃に虎織が呟く


「そうだな。眠気は取れてるとは思うが一応目覚ましも兼ねてな。」

「それじゃあちょっと待っててね」


虎織はそういうと席を立ち風呂場へと向かう


虎織がシャワーを浴びている間にアリサに色々と聞かれ我輩の片想い中ということを答えると意外そうにして質問責めから解放された。


「では!行ってくる!」


気合い十分にアリサに手を振り玄関を出る


「行ってらっしゃい!無理はしないでね!」

「大丈夫!今度は私がきっちり見張ってるから!」

虎織がサムズアップで応える。


街灯に照らされ我輩達は白鷺城へと歩を進める

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