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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第3章 華姫騒乱編(上)
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第10幕 城ヶ崎

眼前に広がる血の海、そして3匹の小さな黒影。

その黒影は四足歩行の輪郭がくっきりとした猟犬の様な姿だ。小さなとは言ったが犬としては有り得ない大きさだ。1mある犬とか怖すぎるわ


それに相対する様に白髪の男が一振の真っ黒な日本刀を持ち気だるげに、血の海に立っている


「本職の癖に遅せぇよ。1匹ぶっ殺しちまったぞ」


男は我輩に視線を向ける。1匹?1匹の血の量じゃないだろこれは・・・それに黒影から血が出る訳ない・・・


ずるりと何かを足で踏んでしまった。視線を落とすな、脳が警告を出す。しかしもう遅い、視線の先にあったものは人の内臓、多分腸か何かだ・・・


「おい、お前、ここで何人死んだ・・・?」

「てめぇが踏んでる臓物ぶちまけてやがる化けモン1匹だ」

「化け物・・・?人だろこれは・・・!それに1人でこんな血の量出る訳ねぇだろ!」

「人の姿捨ててんだ。そいつはもう人じゃねぇンだよ。それになぁ、刻んだら人間ってのはこれくらいの血はぶちまけンだよ」


斬り刻んだのか・・・?殺すにしろ斬り刻む必要なんて無いだろうに。何がコイツをそうまでさせる・・・?元からそう言う残虐性があるのか?分からない・・・


「呆けてんじゃねぇぞ。早くアイツら処理してこいよ。俺がてめぇの仕事を取る訳にもいかねぇからなぁ」


男はケタケタと嗤い魚屋へと消えていく。

今確信した。コイツ嫌いだわ。そもそも生きてる世界が違い過ぎるのもあるだろうけどな。まぁここの黒影を放置する訳にもいかないしどうにかするしかない


「虎織、アレに言葉通じると思うか?」

「無理じゃないかな・・・?でも話しかけて見るまでは分からないかも」

「そうだな。おいそこの犬型、我輩の言葉が分かるか?」


犬型の黒影はグルルルと喉を鳴らしているだけで何も反応はしない。こうなればもう実力行使しかないか


血に濡れたアスファルトに手の平を付けずに指先を置き魔力を込める。水のようにさらりとした手触りならまだ良かったのかもしれないが若干粘度があるのが気持ち悪い


「穿て」


声を出すと同時に指先の感覚に構わず手の平も地面へと押し当てる。

アスファルトが軋み犬型の1匹を囲む様に円錐が乱立する。まるで犬用のケージと言うべきか抜け出す隙間は一切ない。なんなら身動きも取れないだろう。それを横目にもう2匹がこちらに飛びかかってくる


「椿我流、風槌!」


虎織が刀を振り抜き上段から刀を振り下ろす。切っ先が触れることも無く1匹は地面へと叩きつけられる


「椿我流、山羊式」


真っ向から我輩に向かってくる黒影の頭を突こうとした瞬間に刃が、我輩の腕がピタリとまるでこれ以上動かないという様に止まる


「風咲君、何ぼさっとしてるんですか」


声と共に目の前の黒影が日々喜さんの飛び膝蹴りによって地面へ落ちる


「こいつらやっぱりまだ人間だ・・・」

「・・・人であれなんであれ華姫に害を成す者なら潰す他ありませんよ。風咲君はサポートに回ってください」


日々喜さんが冷静にそう言う。

我輩もそれに従い刀を仕舞い拳銃を取り出し構える


「おやおや、3対3とは言えこのような黒影如きに手こずるとは・・・随分と随分と情けない」


どこからとも無く聞こえる神経が逆撫でされる様な声と喋り方、アイツ、城ヶ崎が現れた様だ


「全く全く、君達も君達で1人も噛み殺して餌にすら出来ていないどころか1人やられてしまっているではないですか」


黒影は身を低くしまるでお辞儀をする様にその場で立ち止まっている


「しかししかし、私は優しい、とても優しい符術師ですので君達のノロマさには目を瞑りましょう。何故なら何故なら、今から君達には楽しい楽しい実験体になって頂きますので!」


パンっと柏手の音が1つ。黒影は我輩がアスファルトの檻に閉じ込めた1匹に吸い寄せられるように引っ張られる。抵抗する様に地面に爪を立て藻掻くがそれはどうやら無意味らしい。

そして3匹はコールタールの様に地面へ溶け拡がり形を形成していく。

犬3匹って事はケルベロスみたいな姿になるのだろうか?そんな事は気にせずに狙いを定め、引き金を2回引くが弾丸はドロドロとした黒い液体に飲み込まれ一切ダメージが入っている様には思えなかった


「さてさて、そろそろ頃合でしょうか、一体どのような姿になるのでしょうね?」


城ヶ崎がそう言うと黒い液体は形を成す。それはケルベロスでも大きな1匹の犬でもなく目が6つある黒く大きな羽が生えた大蛇だった


「あ、あの風咲君、あれの眉間を撃ってはもらえませんか・・・もちろん殺すつもりで」


さっきまで冷静だった日々喜さんが動揺したように言う。まさか日々喜さんは蛇が嫌いなのだろうか?

まぁとりあえず撃つか。さっきと同じように殺意を込めて2回引き金を引く。2発の弾丸はきっちりと眉間を捉え貫く。どうやら3匹から1匹になった時に人間性が消えたらしい


「人間性は消えてますね」


我輩がそう言うと日々喜さんは慌てる様に


「そ、そうですか!なら2人に任せておけば大丈夫ですね!琴葉ちゃんの警護をしなきゃなんで私は屋根に避難しますね!」


と早口で言ってから早々に屋根へとひとっ飛びで登る


「ふむふむ、期待外れの連中でしたか・・・しかししかし、仕方ありません、帰るとしましょう」

「逃げる気!?」


城ヶ崎の言葉に虎織が反応する


「おやおや、逃げるも何も私はここから少し離れるだけです、君達を殺すのはもう少し経ってから」


城ヶ崎の言葉を遮る様に我輩達の目の前に蛇の尻尾が振り下ろされる。寸前で避け元いた場所に視線を向けるとアスファルトは抉れ舗装前の地面が剥き出しとなっている


「これは避けすぎると修理費がとんでもないな・・・」

「そうだね・・・手早く終わらせよう」


銃を仕舞い虎織と共に刀を八相に構えタイミングを計る


蛇が地面に尻尾を叩きつける寸前で地面に手を置く


「遮れ」


地面が盛り上がり大波の如く蛇の尻尾にぶち当たる。そして軌道が逸れたのを見てから我輩と虎織は蛇の頭を落とす為胴体を足場に力強く跳ぶ


「「椿流、卯の番首狩リ刎ネ兎」」


左右から迫る刃に蛇は何も出来ないまま頭がボトり地面へ落ちる。そして巨体は崩れる様に倒れる


「よし、終わりっと!」

「お疲れー」


我輩と虎織は拳を合わせ勝利を喜ぶ

後ろに居る化け物に気付かずに・・・

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