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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第3章 華姫騒乱編(上)

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第8幕 真剣?勝負

「表に出やがれ・・・!」


白髪の鋭い眼光をした手負いの男は言う


「いいぜ。我輩が勝ったら華姫のルールに従ってもらう」

「男に二言はねぇぞ。後悔すんなよ」


我輩達は拳を構え向き合う


何故こうなったのか。時間は少し遡る




午前10時頃、虎織と琴葉ちゃんと共にお茶をしていると携帯が鳴る。ディスプレイには魚屋と表示されていた。

何故?活きのいい大物でも入ったのか?いや、それを我輩に連絡してくるのはおかしい。道端で声をかけられるならともかく直接連絡を入れるなんてあの人はしないだろう。

そうなると電話をしてくる理由は1つ、緊急事態だ


「もしもし。緊急事態ですか」

「あぁ、店の裏で厄介なモン拾っちまった」

「分かりました。今から伺います」


そう言ってから我輩は通話を切り、虎織と琴葉ちゃん、物陰に隠れている日々喜さんに電話の内容を告げる


「魚屋が何かしら拾ったらしい。危険物かもしれないから今から向かう」

「将鷹は先に行っておいて、私と琴葉ちゃんは会計済ませてから追いつくから」

「ごめん、頼んだ!」


財布をテーブルに置いてから早足で店を出る。そして店を出てからは急いで現場に向かうため建物の屋根を足場に魚屋へと走る。魚屋自体はそんなに遠くはないし全力で行けば5分とかからないはずだ。


1つ、2つと建物の屋根を跳ねる。最近は瓦屋根がないから安心して跳んで行けるがやはり少し寂しいという感情がある


程なくして我輩は魚屋の屋根に足をかけ、安全確認をしてから屋根から地面へ飛び下りる


「若大将!厄介なモノってなんだ!?」


飛び下りる寸前でこの魚屋の次期後継である若大将が視界に入った為声をかける


「おぉ、思った以上に速いな。ちと店に入ってくれ」

「そんじゃお邪魔します」


夏には似つかわしくないひんやりとした風を身に受けながら店の中へと踏み入れる。そして店の裏、まぁ魚屋の休憩所と言うべきか6畳の和室の壁に白髪の男が1人、そしてその横に水色の髪の少女が眠っていた。


白髪の男は手負いだ。ボロボロになりながらここに辿り着いたのだろうか。そして異様なまで殺気を放っている。何かしよう物なら殺す、そういう感じだ。一応警戒に越したことはないが刀を抜く訳にはいかない。何か起きたら魔術でどうにかする他ない


「てめぇがここの頭か?」


男は開口一番そう言った。どうやら口が悪いタイプらしい


「1番上では無いな」

「話にならねぇな。てめぇらの頭呼んで来やがれ」

「お前みたいな殺気立ったやつに会わせると思うか?要件は我輩が聞く」


男は舌打ちをしてから悔しそうに口を開く


「・・・食糧をくれねぇか」

「は?」


男の口から出た言葉に我輩は唖然とした。その程度の話で琴葉ちゃんを出せと・・・?

えぇ・・・いやいや、マジでその程度なのか?他に何かないのか?


「若大将、適当な料理作って貰ってもいいか?」


とりあえず若大将に声をかける


「まぁ構わんが。いいのか?」

「良いさ。代金は我輩が持つ。それに拾って置いて今更でしょうが」

「それもそうか・・・」


若大将はそう言って休憩所の横のキッチンで魚を捌き始める。それとほぼ同時に虎織と琴葉ちゃんが来た


「2人組・・・しかも手負いで青髪と白髪の男女・・・おおよそ状況はわかったわ。匿って欲しいとかでしょ!」

「いや、飯分けて欲しいと・・・」

「なるほどね。初めまして、異国の人・・・じゃないわね。寝ている子は海外の子だけど白髪の貴方、日ノ元の出身ね」


琴葉ちゃんは冷静にそう言った。確かに言われてみれば白髪の男は日ノ元出身の様だ


「あぁ、てめぇは?」

「私?私はここ華姫市の市長、統括役である鬼姫、綺姫琴葉よ」


男は口元を釣り上げ皮肉る様に嗤う


「てめぇみたいなガキが市長ってのは随分とおかしな場所になっちまったみたいだな華姫はよぉ」


イラッとした。刀を振り抜こうか、拳銃の引き金を引こうか。流石にそこまでする必要はない。冷静になれば随分と物騒な考え方だ。気に入らないから殺そうとするなんて愚かしい


「おい。口が過ぎるぞ余所者」


我輩はこの言葉だけで済ませることにした。沸き立つ血と怒りを抑えつけ息を吐く


「事実だろうが。こんなガキに1つの市の運営をしろって押し付けてんのは異常だろが」


吐き捨てる様に男が言う。あぁ、こいつは子供が何かの犠牲になるのが嫌いなのか。口は悪いが根は良い奴なのかもしれない


「そうね。華姫は異常よ。でもね、私は胸を張って生きる為にここの市長をやってるの。今は押し付けられている訳では無いし楽しくやってるわ」


琴葉ちゃんはそう言って男に近づく。そして鞄から何かを取り出し見せつけながら声を張り上げる


「それと私は成人済みよ!結婚もできるしお酒だって呑める!あんな店やこんな店だって入れるんだから!ガキってのを今すぐ撤回しなさい!」


あー怒る所そこなんだ・・・いやまぁ琴葉ちゃんなら当然だろう・・・ということは今見せつけているのは身分証明書か。この男がそれ見せた所で素直に謝るとは思い難いが・・・


「それはすまねぇ・・・撤回する、アンタは立派なレディだ」


謝った。しかもめちゃくちゃ素直に。それに頭まで下げて


「分かればいいのよ。さて、ここからは華姫市の市長というより1個人としてのお話なのだけれど」

「なんだ」

「貴方達アルカンスィエルって製薬会社に追われてたりしない?」


琴葉ちゃんは最初から分かっている事を確認の為聞く。まぁ確認って大事だからな


「だったらなんだってんだよ」


男の答えに琴葉ちゃんは口元を袖で隠しふふっと少し笑う。駒を手に入れて上機嫌というやつだろうか?将棋で飛車と角取った時こんな感じだし


「逃げ回るだけってのはしんどいでしょう?」

「あ゛ぁ・・・?」


男の殺気は肌を刺すように鋭いものへと変わった。幾度も死線を越えてきた、そう思うほど男の殺気は凄まじい。気を張っていないと腰を抜かしてしまうだろう。そんな中琴葉ちゃんは顔色1つ変えず男を真っ直ぐ見る


「そんな怖い顔しないで貰える?うちの部下が怯えてるじゃない」


あっ、バレた。でも男には見栄ってもんがある


「いや、怖がってないからな」


そう言って取り繕う


「まぁいいわ。貴方達2人、いえ、貴方1人でアルカンスィエル相手に戦って勝てるかしら?」

「んなもん体力が回復すりゃ余裕だ」

「そう。私達は難しいかしらねー」


心にも無いことをとぼける様に言いながら琴葉ちゃんはくるりと回り我輩達の方を向く。表情は自信に満ち溢れ、勝ちを確信している様だった


「何が言いたい」


男の言葉に答えるように振り向き言葉を放つ


「アルカンスィエル潰すの手伝って貰えないかしら?」


男は目を丸くした。何言ってるんだコイツ、そういう目だ。そして少し考えてから口を開く


「タダで手伝うってのは癪だ。いくら出す」

「あら、随分と強気ね。そうね。貴方達のしばらくの自由かしら」

「そんなモンで俺が協力するとでも?」

「じゃあこうしましょう。うちのそれなりに強い奴、まぁここにいる風咲将鷹と勝負して貴方が勝ったら望む額と要望を聞きましょう。もし将鷹が勝ったならさっきの条件ってのはどうかしら?」

「おもしれぇ、やってやらあ。おいてめぇ、勝負内容は決めさせてやる」


ふむ。困ったぞ。手負いと喧嘩するんじゃ不公平だ。ならジャンケンなんてどうだろう。相手の動体視力良かったら詰むけどある程度は公平だろう


「それならこれで勝負だ」


拳をグーにして若干突き出す


「はっ、上等だ!」



そして男2人が路地裏で拳を構えた状態になっているのだ


「行くぞ!」


男が声を張る。


「来い!最初は・・・」


言い切る前にぶん殴られた。結構痛いんだけど。なんで殴られてんだ?ジャンケンって殴られる様なゲームだっけ?というのは冗談。おおよそ予想通り。予想外なのはこのパンチ力だけだ。身体が何回か回ってから地面に落ちる


「勝負ありだな。口程にもねぇ」

「えぇ、貴方の反則負けよ」

「はぁ!?反則もクソも有るかよ!」

「ジャンケンで人をぶん殴るのは反則よ」

「ジャンケンだぁ!?てめぇらそんな事一言も・・・!っ・・・やってくれたな・・・」


どうやら気づいた様だ。そう、我輩は一言も拳を交えて勝負など言っていない。我ながら卑怯な手だ。これよく考えたら琴葉ちゃんが意図に気付いてなかったら殴られ損だったな


虎織が吹っ飛んだ我輩を起こしに来てくれた


「馬鹿。無茶しないって言ったのに」


ご機嫌ナナメだ。これは仕方ない


「ごめんな」

「飛んできたのが拳で良かったね」

「本当にな」


刃物だったら死んでいただろうな。本当に我輩は浅はかで愚かしい・・・

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