第9幕 真実
「おう小童、戻ってきたか」
部屋に入ると久野宮さんがその部屋に居た
「あら、虎織が居ないわね。私は虎織を呼んでくるから先に話を進めていてちょうだい」
そう言うと琴葉ちゃんは部屋の外にでる
「そうさせてもらう。まぁ座れ。」
座布団があったのでその上に座ることにした。
「小童、お前は仄様、先代鬼姫をどういう人物と捉えておる」
「実際会ったことはないんでなんとも言えないって感じですかねぇ。ただ、人物ではないですがあの一揆に不自然な点があると個人的には思ってますよ」
「ほう。どこが不自然というのだ?」
久野宮さんは少し嬉しそうに次の問いを投げてきた。
「まず1つ目は財政に余裕があったはずなのに上納金制度とか市民の反感を買うようなことをする意味がない」
財政難ならば仕方ない行動だが、制度を建てた頃は財政難ということは無かった。
「2つ目は墓に遺体が無いこと。」
先代様は目の前に居る久野宮さんが首を刎た訳だが遺体の所在が不明なのだ。市民からの一揆の末、討ち取られたとはいえ墓まで建てたのに死体どころか灰もないのは不自然というかこの土地では有り得ない。行方不明になったならまだしもその場で首を刎られたのなら死体はきっちり埋葬されるはずだ。
「3つ目は一揆の参加者がその時のことを曖昧にしか思い出せないこと。まぁこれが不自然な点ですかね」
1度調べ物のテーマとして聞き込みをした事もある。聞いた人達も高年齢だっためボケて思い出せないとかそういう線も考えていた。というかそう考えるようにしていた。
「ほう。なるほど。では、1つ、お前に言っておく事がある。ワシは仄様を殺してはいない」
何となくそうだろうなとは思ったが殺していないというのは殺さず偽装して逃がしたのかそれとも誰かが久野宮さんに扮して先代様を殺したのか
「殺していないと言うと具体的には?」
「一揆の日、ワシは華姫の外に居たのだ。記録は誰かに消されているがな。それにあの政策が発表されていたなど帰ってきてから知ったことだ。ワシがいない間に仄様を唆した輩が必ず居るはずと今まで情報を集めてきたがしっぽすら掴めない状態でな」
なるほど。ということはまだ先代様がそのまま生きている可能性と誰かに殺されて死体を利用または再生された可能性が残っている状態か。
「久野宮さん。この14年で集めた情報全部教えて貰ってもいいですか?」
「大したものではないがここにまとめてある。」
久野宮さんは懐から古いノートと新しいノートを取り出し我輩の前に置き古いノートをパラパラとめくり、とあるページを開く
「旧拾弐本刀の名簿ですか」
そこに記されていたのは拾弍本刀、つまり鬼姫の警護や外敵の排除、黒影退治を行う集団の名簿であった。12人の名前があるはずなのだが不自然に6と10が空いている。
「ここに誰かの名前があったはずなのだが全く思い出せないのだ。きっとここの2人が何か関わっているはずだ」
「側近2人による謀反か・・・その2人に関する情報は一切ない、というか消されている・・・」
何が目的なのかさえも分からない。そして相手は自らの情報を一切合切消し去るほど用意周到、いや、むしろ不自然な点を残している辺り存外抜けているのかもしれない。それとも・・・
「有益な話は出来たかしら?」
考えていると琴葉ちゃんの声がした。
「なんとも言えないのが現状かな」
「そう。なら掻い摘んで簡単に説明貰えるかしら」
「久野宮さんは先代様が討たれた日華姫には居なかった。今回の件及び14年前の一件に旧拾弍本刀の6番目と10番目が関わっている可能性がある。以上。」
「なるほど。それはそうとくのみー、先代は闘えるのかしら?」
久野宮さん本人の前でその渾名使うのか・・・
「ワシらよりは弱いがそこらの黒影よりは強いな。なんせ鬼だからな」
鬼の血を引いている人は普通の人より身体能力は高いと聞く。武術も多少なりとも身につけていたとしたら少々厄介ではある
「そう。なら捕縛出来そうなら連れてきて貰えるかしら。無理そうなら撤退の後作戦会議ね」
「捕縛かぁ・・・苦手分野なんだけどやるしかないよね」
虎織が難しい顔をしながら我輩の横に座る
「そうだな。やるしかない。無理なら無理で撤退すればいいだけの事だしな。」
そう、重く考える必要は無い。あくまで今日は様子見だ。まず相手の力量と存在を見極めなければならない。
「やはり捕縛か・・・いつ作戦を開始する、ワシも同行する。」
某漫画みたいな言い回しだなぁ・・・
「決行は今夜。くのみーは事務所に居てちょうだい。」
「しかし・・・」
「話し相手が欲しいのよ。久しぶりに叔母様のお話聞かせて貰えないかしら?」
叔母様というと先代様のことか。琴葉ちゃん的に現地で久野宮さんが万が一先代様側に着いた時の事を考えての予防線なのだろう。
「それなら仕方ないか」
少し嬉しそうな久野宮さん。この人先代様大好きなんだろうなぁ・・・
そう思うと何故か微笑ましく思うのは何故だろうか。
答えなどないのだろうから考えるのはやめておこう




