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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第3章 華姫騒乱編(上)
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第3.5幕 雪城家

私は大きな木の門を押して開く。

どうもこの手の門は嫌い。何故かって手にささくれが刺さって痛いし何より夏場はセミが集ってたりするから。


「あっ、虎織帰って来たのね。おかえりなさい」


長い黒髪を靡かせる女性、私のお母さんが出迎えてくれる。そして私は言葉を返す


「うん。ただいま」

「最近はどう?体調崩してない?ご飯は・・・ちゃんと食べてるわね」

「お母さんは心配性だなぁ。大丈夫だよ風咲邸にいる間は体調も崩してないしご飯もきっちり食べてるよ」

「そう。それは良かったわ。それで彼との進展はあったのかしら?」

「・・・全然」

「あら、意外。そろそろ手を繋いでイチャイチャするぐらいはしてると思ったのだけど」

「手ぐらいは繋ぐよ」

「じゃあキスは?」

「私達まだそういう関係じゃないよ!」

「まだ、ね。ふふっ、孫の顔を見るの楽しみにしているわ」

「色々と話飛躍し過ぎだよ!」

「そうかしら?周りから見たらまだ子供居ないのかってレベルの仲良しさなんだけど・・・まぁいいわ。それで今日は何か用事があって帰ってきたんでしょ?」


私が実家に戻ってきた理由、それはとても簡単で厄介な調べ物の為だ


「雪城家の家系図を探しに来たの」

「ならお父さんに言ってくるといいわ。きっとお父さんなら懐に仕舞っているだろうしね」

「わかった。あっ、そうだ。今日は晩御飯家で食べるから」

「家ってどちらかしら?」


失念していた。お母さんからしたら私の家は2つある様なものだった。ここ、実家もそうだけど今住んでいる風咲邸もお母さんから見れば私の帰るべき家なのだ


「雪城家」

「わかったわ。久しぶりに腕を奮って料理を作りましょう」


お母さんはそう言うと着物の袖を捲りガッツポーズをしてみせる。私は後でねと言ってからお父さんの居る書斎へと向かう


書斎は障子が閉められており明かりが点って1人の人間の影が動いていた。私は障子を閉めたまま声をかける


「お父さん、帰りました」

「おぉ、虎織か。おかえり」


白髪が少し目立つ黒髪の男、私のお父さんが書斎の障子を開き顔を覗かせる


「今日はどうした。まさか彼氏を連れてきたとは言うまいな・・・」

「今日は雪城家の家系図を見に来ただけだよ」

「そうか。もし彼氏を連れてきたというのならその男を八つ裂きにしていたのだがな」


お父さんは笑うがこちらとしては笑えない。一度将鷹を八つ裂きにしかけたという前科があるし


「ほら、コイツが家系図だ」


そう言ってひとつの巻物をポイッとこちらに投げて渡してくれる


「ありがとう。助かるよ」

「気にするな、俺達は家族だ。これくらいは当然だ。それに自らの家を知ろうとするのはいい事だしな」



私はそのまま廊下で家系図の巻物を広げお父さんが子供の頃の代の雪城家当主を探す


「雪城忠定・・・」


それは直ぐに見つかった。写真もあり驚愕する。何故ならその顔は私に似ていたのだ。所々違いはあるけれど男と言うよりはどちらかと言うと女寄りの顔立ちだった


「お父さん、忠定って人知ってる?というかあったことある?」


障子の向こうにいるお父さんに声をかける。廊下で家系図を開いたのは直ぐにお父さんに聞けるようにするためだ


「忠定の叔父貴か。会ったことはあるがそこまで話した事もないな。確か風咲家の幸三郎殿と少彦名命様と随分と仲が良かったと聞いているがそれ以外は全くだ。まさかあの風咲の坊主絡みか?」

「なるほど・・・。これは私が気になったから調べてるだけだよ」


将鷹が不死との戦いで見た私に似た雪城家の人間。それが誰なのか気になったから私は調べているだけ


「お前も物好きだな・・・あんな半端者の坊主と暮らすなんてな。父さんとしては本当なら反対だがあの馬鹿者は執拗いからこうして認めてやっているに過ぎん。もし仮に付き合うならあぁいう半端者ではなくしっかりしたヤツと付き合いなさい」


正直今の言葉はイラッと来た。半端者なんかじゃない。そう言い返そうかと思った時障子がピシャリと開く


「虎吉さん、正座していただけますか?」


聞こえたのは平坦で冷たいお母さんの声だった。そして言葉と共にギザギザとした洗濯板がお父さんの足元に無造作に投げ置かれる


「何故だ?」

「さっきの言葉は少々言い過ぎかと思います。ですので反省してもらう為にそこに正座して私の話しを聞いて頂きます」

「し、しかしだな・・・」

「いいんですよ私は。あなたがそこに正座しないというのなら枕や布団、目に見えないように至る所に洗濯板を敷き詰めるまでですので」


お母さんの声はどこまでも冷たく背筋が凍りそうだった・・・

お父さんも若干気圧されているのか口篭ったりした


「わ、わかった。さっきの言葉は撤回しよう」

「正座」

「撤回したではないか!?」

「せ、い、ざ」

「は、はい・・・」


圧に負けお父さんは洗濯板の上に正座する。めちゃくちゃ痛そう・・・

私も度が過ぎることやったら同じ事もやったりするけどちょっと考え直した方がいいかもしれない・・・


「最初からそうすればいいんですよ」


お母さんは満足気に言い放ち、その場で正座する


「いいですか?あなたから見れば風咲君は未熟かも知れません。しかし十分虎織を支えて笑顔にしてくれているじゃありませんか。なのにあなたはその功績を全くもって評価せずただの感情論だけでくどくどと・・・」


お母さんは完全にスイッチが入ってしまってしばらくはお父さんへのお説教が続くだろうし私は少し外を散策しておこう・・・



晩御飯の時間にまた私は雪城家へと帰って来た。調べ物はあっさりと終わってしまった。まぁ今日はお母さん達とご飯食べる為に帰ってきたと思えばいいかもしれない


「ただいまー」

「おかえりなさい。お父さんにはキツく言っておいたから安心しなさい」

「ありがとうお母さん」

「いいのよ。好きな人を馬鹿にされるのは嫌なものだからね」


そう言って髪をわしゃわしゃと撫でられた・・・


「ご飯出来てるから手を洗って食べましょう?」

「うん!」


テーブルにはお母さんの張り切り具合が伺える程の料理が並んでいた・・・さすがに食べ切れないよこれは・・・さながら満漢全席ってやつかな



お腹いっぱいご飯を食べて少ししてから湯船へと浸かる。このまま今日はここで寝ようかなと思っていた。

お風呂を出て携帯を確認するまでは


「将鷹から電話来てたんだ・・・」


私は将鷹に電話をかける


「もしもし虎織か?」

「うん。どうしたの?」

「どうやらアルカンスィエルのヤツらのが本格的に動き出したらしい。それで琴葉ちゃんにはしばらく家で寝泊まりしてもらおうと思ってな」

「なるほど」

「それでだな明日2人で遊びに行く約束有っただろ?」


あーこれは琴葉ちゃん連れて行くって言うパターンだ。これは仕方ないけどなんというか・・・残念というか悔しいというか・・・でもまぁ琴葉ちゃんだし


「うん。琴葉ちゃんを連れていきたいって事だよね?私は良いよ」

「話が早くて助かる」


というかサラッと琴葉ちゃんを家で寝泊まりさせるって言ったよね!?アルカンスィエルが動き出したって言うのがメインの話っぽいから流したけどそうだよね!?


「今から帰るから部屋に布団敷いてて!」

「あぁ、わかった。なんかせっかくの実家なのにごめんな」

「いいよ。気にしないで。じゃあちょっと身支度するから切るね」

「気をつけてな」

「うん」


将鷹を信用していない訳じゃない。でも不安だった。どうしてだろう・・・分かってるのに、なのに・・・


「あら?もう帰るのね泊まって行けばいいのに」

「ごめんなさい、ちょっと用事が出来たから・・・」

「そう。安心しなさい。風咲君は何処へも行かないわよ」

「分かってるんだけど私不安で・・・」

「気持ちを伝えれば不安じゃなくなるのよ。全く、我が子ながらなんでこう奥手なのかしらね・・・」

「だって・・・」

「まぁ不安なら早く帰りなさい。そして気持ちを伝える事ね」


私はお母さんにありがとうも言えずに現実から目を背け屋根伝いに帰るべき家を目指した

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