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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第2章不死殺し編
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番外 土地神回顧録 「雨」

この物語は本編とはあまり関係ありません

作者が課題で書いた物に手を加えた物でいつもと形式が異なります

僕は雨が嫌いだ。ジメジメするし着物は濡れるし傘を差すのが億劫なのだ。

そして何より傘を持っていない時に限って急に降って来るのが本当に大っ嫌いだ。せっかくの休日に寂れたこんな神社で雨止みを待つのは非常に不本意だし風邪をひいてしまいそうな程寒い。


「こんな神社で悪かったのぉ」


年端も行かぬ少女の嫌味を言うかのような声が聞こえ僕は声のした鳥居の方へと振り向く



「こっちじゃこっち。お前さんは耳が遠いのかのぉ?」


次は賽銭箱の奥、社の方から人をからかうような声が聞こえそちらを向くとそこには前髪ぱっつんの色とりどりの華が描かれた派手な着物の少女が社の奥でだらけて居た


「君、そこは神様の場所で君が入っていいとこじゃないぞ」


なんかムカついたからとりあえずこんな事を言ってみた


「ハッハッハッハ!お前さん面白い事を言うな。儂はお前さんの言う神ぞ?」


いやいや何を言っているんだこのちんちくりんは。神を騙るとか怖いもの無しかよ


「お嬢ちゃんの冗談に付き合う気は無いよ。ただでさえ雨で気が重いんだ。静かにしておいてくれ」

「冗談じゃないし!儂ほんとに神だし!ちと、お前さんは解らせてやらねばならんようだな・・・そこに正座して頭を垂れろ」


子供らしい声から一転して後半の言葉は重くドスの効いた言葉だった。そして身体が倒れ込むように膝が曲がり気づけば僕は正座をして頭を下げていた。膝に小石がめり込んで若干痛い


「よしよし。素直な人間は好きだぞ。そのまま聞くと良い。あぁ、しかしその前にその膝の下の小石はとってもよいぞ。痛くて儂の話がきっちり頭に入らんのは癪じゃからな」


それはありがたいのだがそもそもこの場所で正座させるのが間違っている。そんなことを思いながら膝の小石を取り除く。着物の膝が濡れた地面のせいでぐちゃぐちゃだ。後でこの着物の金を請求してやる。


「さて、まず1つお前さんは雨が嫌いと言ったな」

「言った。それがどうした?」

「儂は雨が好きじゃ。」


正直どうでもよかった。はい、そうですかと返したかったが何をされるかわかったもんじゃないということで「何故?」と適当に返す。


「それはなぁお前さんのように雨止みにこの社を訪れる暇つぶしのできる人間がたまに来るからじゃ」


こいつ、食料って言ったよな今。やばい少女に食われる。本来の意味で。どうしようか。逃げよう。そうしよう。立ち上がり一目散に鳥居を目指す


「なぜ逃げる?お前さんの嫌いな雨に濡れてしまうぞ?」


心底不思議そうにそして寂しそうに言葉を紡ぐ神らしき少女。寂しそう?そんなものは知ったことか。僕は鳥居を抜け石段を駆け下りようとした。足を滑らせたことまでは覚えている。


気づけば見知らぬ天井。僕の上に掛けられた見知らぬ柄の綺麗な着物。というかこの着物の柄動いてない?気のせい?金魚とか凄い動いて見えるんだけど?


「起きたか。全く世話をかけおって。儂が居なければお前さんは風邪を引いておったぞ。もしかしたらもう手遅れかもしれんが」


安堵した表情を見せる神を名乗る少女。しかしこれはきっと生け捕りにして生きたまま僕が苦しむのを見ながら食おうという魂胆なのだろう。そうに違いない。


「助けて貰った事は礼を言うけど生きたまま食おうとするのは許容できないぞ。いっそ殺せ」

「はて?なんの事じゃ?儂は人は食わんぞ。というか神が人を食うなどほとんどない事じゃぞ」



不思議そうに少女は眉間に皺を寄せ首を傾げ考えこむ。少女は中々に面白い表情をしている。この顔は一芸として受けそうだ。宴で真似てみよう。

そもそもその宴に顔を出せるかすら怪しいのだが・・・


「でも食料が来るって言ってたじゃないか」

「あぁー!なるほどその事か!なんじゃそれはお前さんの勘違いじゃな。神は人に信仰されねば飢えてしまうのじゃ。飢えるとやたらと眠くなってそのまま寝てしまうそうじゃ。儂の前任もそうじゃったそうな。あとそのままの意味でもあるな。貢物を持ってくる者もおる訳でな」

「僕の勘違い・・・?じゃぁ走って逃げる必要もなかった・・・」

「そうじゃな。まぁ儂の言い方も悪かったのも問題じゃな。ほれ。粥じゃ。」


神を自称する少女はどこからともなくお粥を取り出し僕に差し出した。有難く頂くことにする。


「しょっぱ!」


どうやら少女は塩加減を間違えたようだ。とてつもなくしょっぱい。だが何故かほっと一息つけた気もする


「うへぇ!?そんなはずは・・・うぇ・・・しょっぱい・・・」


この自称神様時たま素が出るようだ。面白い。


「とりあえず雨止みまでここにおるとよい。食事は使いの者に作って貰うとしよう。儂が作るとさっきの粥のようになってしまうのでな。ところでお前さんは将棋というのはできるのか?」

「ではお言葉に甘えて。将棋は少しかじった程度ですができます」


つい先日役人のサボりに付き合った時に教えて貰ったばかりだし少しかじったというのは語弊がある気がするがまぁいいか


「では儂に教えてくれんかの」


神を自称する少女はその時初めて年相応の表情をみせた


「そろそろ止んだかの」


2人でひたすらに将棋をうち気づけば雨は止んでいた。こんな休日も悪くはないのかもしれない


「暗くなる前にお前さんは帰るといい。また雨宿りにでも来てくれると私は嬉しいぞ。」


神を自称する少女はこの時だけ普通の少女であった。名残惜しいが帰るとしよう。


あの日以降雨は降らない。こうも雨が楽しみなのは初めてだ。


雨が降った日僕はまたあの神社を訪れる。あの少女と娯楽に興じるのが楽しみになったのだ。


「なぁなぁお主、今日はどんな遊びをするんじゃ?」


目をキラキラさせる彼女はとても魅力的だった。なるほど。僕は神様に魅了されてしまったようだ。


いつしか俺は雨が好きになっていた。変わらぬ彼女と雨音を聞きながら酒を飲んだり博打に興じたり他愛のないことで笑いあって。あぁ、いっそ雨が止まなければいいのに。







私は雨が嫌いだ。雨は境内の桜を散らす。雨は掃除の手間を増やす。雨なんて大っ嫌いだ。

雨は私の大切な人を奪って行った。

いつかは別れが来る。それは分かっていた。でもどうせならば添い遂げたかった。神に有るまじき願望ではあったが看取るくらいは出来たはずだ。後悔してももう遅い。

それに雨は彼を思い出させる・・・


彼はこの町の平和と人々の活気を望んだ。ならば私、否、儂は私のような目に会わぬよう人と人との縁を結んでいくとしよう。


菊理媛は今日も華姫の平和を願う

END

最後までお読み頂きありがとうございます

楽しんで頂けましたか?彼と彼女の物語はこれにて終幕でございます


引き続き華姫奇譚をお楽しみください

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