第8幕 「綺姫琴葉」
「ツモ!」
久那さんの声が廊下まで響いていた。まだみんな麻雀やってたのか・・・
ゆっくりと襖を開け中に入るとそこには眼が死んでいる蓮、禍築、久野宮さん、めちゃくちゃ生き生きしてる久那さんが居た。
「なんだよ、クナの一人勝ち中かよ」
菊姫命がケタケタと笑いながら麻雀卓を見下ろす
「菊姫命も一緒にどうですか?楽しいですよ?」
「いや、オレはいい。こういうのは負けまくるからな」
渋い顔をする菊姫命。そういえばどこかの賭場でぼろ負けしたって言ってたか
「おじゃまします。あら、職務中に麻雀で遊んでるとはいい度胸じゃない、禍築?蓮?」
真っ赤な髪をなびかせ少々ご立腹な琴葉ちゃんがやってきた。
「綺姫。今は昼休憩の時間だ。それにこいつらはとっくに書類仕事は終わらせておるだろ。こいつらを咎めるというのなら風咲の散歩も咎めるべきであろう?」
桜花さんが琴葉ちゃんをたしなめる。
「確かにそうね。2人ともごめんなさい。お詫びというのはなんだけど明日の書類仕事は無しでいいわ。それと将鷹、今すぐ隣の部屋に来なさい。虎織も来たければ来なさい」
琴葉ちゃんが怒っている原因は当然、我輩の行動なのだ。琴葉ちゃんは仲間を危険に晒す事を最も嫌っている。
「了解した。」
その一言と共に我輩は歩きだし隣の部屋へと足を運ぶ。どうやら虎織はこのまま部屋に居るようだ。まぁ怒られるところとか見られたくないしそこをくんでくれているのだろう
部屋の襖が思いっきり閉められ大きな音が鳴り響く。
「この大バカ!」
部屋に入るなり怒鳴られた。怒られて当然ではあるが少々びっくりした。
「炎の魔術は使うなって言われてたわよね。なのになんで使ったの?」
琴葉ちゃんは先程の感情に任せた怒号ではなく、冷静に、淡々と言葉を紡ぎ問いを投げる
「あれしかないと思ったんだよ」
「そう。結果として今回は上手く行ったわ。でも、もしもの事を考えなかったのかしら?炎を使えば将鷹はしばらく動けなくなるから虎織にとっての最大の弱点になり得るわ。いうなればお荷物になるわけよ」
返す言葉がない。
「それに将鷹自身も腕が焼けていたと聞いてるわ。扱えないものを無理に使って怪我なんて笑えないわよ。」
沈黙。言い訳をする気はない。今はただ自分の行動の愚かさを受け止め、戒める他ない
「それで、怪我はどうなの?」
「もう治ってるよ」
「そう、なら腕を見せなさい。」
そう心配そうな顔で見ないでくれ。そう思いながら羽織の袖を捲る。てかそのアロエの火傷薬どこから出てきた・・・さっきまで手元にも無かったぞ
「火傷した感覚もない状態だよ」
両腕を差し出し我輩自身も傷等がないか確認をする。腕は火傷どころか傷1つない状態に見える。
「治ってるわね・・・というか本当に火傷したの?」
「さてねぇ・・・我輩も起きた時には治ってた。でもアリサが火傷してたって言ってたからなぁ」
「そう。ならこの薬は不要だったわね。」
パン。と柏手を1つ、すると火傷薬は消えていった。
「それどうやってんの・・・」
思わず聞いてしまった。空気読めないなって思われたかもしれない
「あぁ、これね。将鷹の羽織の袖と同じような術式を指輪に仕込んで貰っただけよ。まぁせいぜい入るものは化粧ポーチぐらいかしらね」
我輩の羽織の袖には物を収納して重さを軽減する術式が編み込まれている。収納許容量は人が乗る籠に入る程度なら入れる事はできるが人は入れることができない。
おおよそ琴葉ちゃんの指輪の術式は月奈に仕込んで貰ったのだろう。こういうのは月奈の得意分野だしな
「なるほどな」と短く返し一息置いて
「今日の件は本当に申し訳ない」
頭を下げる。唐突すぎて面食らったのか琴葉ちゃんは「えっ、あっ、うん。」と少々戸惑っていた。
「次は無いからね。」
琴葉ちゃんが不安そうにそう言いながら我輩の両の頬に手を添える。
そしてその手でほっぺたを伸ばされた
「みょーん。あっはははは!なんかハムスターが食べ物頬張った時みたい!」
多分そこまでは伸びていない。多分・・・
「さて、さっきの変な顔で今回は許してあげるわ。全く私も甘いわよね。でも本当に次はないから。そこは心に置いておきなさい。」
「ほんとにあまあまだよ。普通なら殺されてもおかしくないし」
「私はそんな血も涙もない人間じゃないわ。あと今日の夜からの仕事忘れないでよ。」
・・・思いっきり忘れていた。先代様の件の調査があったな。
「おう。」
「頼んだわよ。話は終わったし隣の部屋に戻りましょう。くのみーも将鷹に話が有って来た訳だしね」
久野宮さんの事を教科書に載っている魚の物語のように言うのはどうかと思うがまぁそこは個人の自由と言うやつだろう。
久野宮さんの話はおおよそ先代様の件だろう。あの人は先代様の事となると真っ先に動く人物と聞いている。
今日は本当に長く険しい1日になりそうだ・・・




