第8話 デュークドラゴンですわ
「ひ、飛行船……」
デュークドラゴンがいるらしいトンネルのような洞窟の中を、トウカはかつてないのっそりした足取りで歩いていた。
「大丈夫かトウカちゃん、船酔いしたみたいになってるぞ?」
「船酔い……できるならしたかったですわ……」
このゲームの飛行船はファストトラベル……つまり、時間をかけずに遠くへ移動するための手段である。飛行船に乗った瞬間洞窟の前に移動したので、空を飛べると思っていたトウカは肩透かしを食らってしまったのだ。
「がっかりしたのは分かるけど、気を付けろよ? もうすぐヤツがでてくるからな」
言いながら、バサラは腰に差した剣を抜いた。赤い宝石で装飾されたファンタジーらしい両手剣だ。
「バサラさん……服装は和風ですのに、剣は西洋風なんですのね」
「ふふ、いい所に気づいてくれたなトウカちゃん!」
楽しそうに剣をくるくる回して彼は続ける。
「スキルを持った装備を作るときは自分のスキルを外して装備に与えなくちゃいけねえ。だから俺は究極の刀を作れるようなスキルが貯まるその日まで、これを使うことに決めてんだ」
「あ、はい分りましたわ……」
「もうちょっと興味もってくれよ……」
トウカはちらりと反対側を歩くランヴァルを見た。
「ランヴァルさんは魔法使いですの……?」
ローブを着て指揮棒のような杖を持ったランヴァルは、ふふんと鼻を鳴らした。
「その通りです! 実は魔法という概念は無く、全てスキル扱いのAAOですが、僕は攻撃、防御、補助と様々な効果を出力できる杖を作ったんですよ! 具体的には『反射』と『スキル効果集束』、それから『スキル効果延長』という効果が杖に展開されていまして、吸収させておいたスキルを吐き出す仕組みになっているんです。今後はこれを改良して……」
「あ、はいそうですか……」
「聞いておいてその扱いですか!?」
「馬鹿やってないで構えろ。出たぞ」
アンジュが鎧と同じ色の黒剣を抜く。
遠雷のような唸り声と共に、洞窟の奥の暗闇から大きな影が姿を現した。
漆黒の鱗が全身を覆い、翼は天井を埋め尽くすかのように広がっている。王冠にも思える大きな角を持ったそれは……。
「ド……」
トウカの声が洞窟に反響する。
「ドラゴンですわあぁぁぁ!! すごいですぅぅぅ!!」
「切り替え早いなこの姫は……っと! 行くぞ!」
アンジュとバサラは素早く距離を詰めて斬りかかり、ランヴァルとマスターは補助に回るのか、ドラゴンから距離を取った。
デュークドラゴンの初撃、振り下ろされた爪を避けてアンジュが叫ぶ。
「気をつけなきゃいけねえのは炎弾と尻尾を叩きつける攻撃だ! ほぼ即死だから予備動作見ろよ!」
(わ、私はどうすればいいのでしょう……)
困ったトウカは、ひとまずギルドのリーダーに聞いてみることにした。
「マスター! 指示をお願いします!」
「えぇ!? ちょ、トウカさん、今のもういっかい……あっ」
何やらトウカに気を取られたらしいにやけ顔のマスターに、デュークドラゴンの吐いた炎弾が直撃する。
爆炎が晴れるとそこに彼の姿はなく、『DEAD』の表示が浮かんでいた。
「マスターっ!?」
「馬鹿かあいつは……」
「まあ美少女にマスターって呼ばれたくて名前決めた人ですからね……」
「マスター指示をお願いします、が効いたんだろうなあ」
本懐を遂げて逝ったマスターに代わり、アンジュが声を上げる。
「馬鹿のことは気にすんな! 今頃リスポン地点で余韻に浸ってるだろうよ! トウカは遠巻きに見物しててもいいし、戦ってみるなら後ろ足あたりがあんまり動かなくて攻撃しやすいかもな! どうする!?」
言葉を受け、トウカは腰の剣を抜いた。姫騎士衣装と揃えられたデザインの白い細剣だ。
カメラに向かって不敵に笑ってポーズを決め、高らかに宣誓する。
「もちろん、やってやりますわ! 姫プ……姫騎士プレイを!」
土日は1日複数話更新できそうです