第6話 スキル習得、装備入手ですわ
一通り『挨拶』を終えたトウカは、別室でアンジュに加え、商人風の青年プレイヤーと三人でテーブルを囲んでいた。
「初めまして、トウカさん。僕はマスター。ここに集まるプレイヤーのまとめ役をしてるんだ」
「よろしくお願いします。マスターさん」
ぺこりとお辞儀をするトウカに、青年……マスターは笑いかける。
「僕のことはマスターで構わないよ。プレイヤー名だけど、役職みたいなものだしね」
「おー、そうしてやれよトウカ。こいつ女の子に『マスター』って呼ばれたいからこんな名前にしたらしいぜ」
「余計なことは言わなくていい……」
マスターがメニューを操作すると、テーブルの上に三人分の紅茶が現れた。
まあ、とお上品に驚くトウカ。
「ありがとうございます。マスター」
「気をつけろよトウカ、睡眠薬とか入ってるかもしれねえ」
アンジュの言葉にトウカは青ざめ、口元に持ってきていたティーカップをゆっくりとテーブルに戻した。
「な、なるほど……そういった戦いもこのゲームにはあるのですね……」
「アンジュ、初心者に変なこと教えるのはやめてくれ……」
飛んでいるカメラに紅茶を見せてから、ゆっくりと飲んだ。仮想世界で飲む紅茶は、現実以上に香りがよくわかる。父の趣味だろうか、家でよく飲む紅茶に似ている気がした。
「美味しいですわ! ……あら?」
視界の端に『スキルを習得しました』というテキストがポップした。
「スキル……?」
「ん? スキル習得か?」
「確か、いろいろな効果で強くなれるのでしたわね。ですが私、強くなるようなことはしていませんわ」
「このゲームではいろいろな活動によって経験値が得られるんだよ。モンスターを倒したり、装備を作ったり、食事とかでも。狙って手に入るものじゃないんだけど、トウカさんは運が良かったみたいだね」
「私、お茶を飲んで強くなったのですか?」
不思議な感覚に、トウカは口に手を当てて笑う。
「どんなスキルか見てみろよ」
「えっと……これでしょうか?」
アンジュに言われた通りメニューを開き、ステータスと表示されたパネルを押す。
トウカの前に、ステータスウインドウが表示された。スキルの欄に、NEWと強調された項目がある。
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【トウカ】
Rank:1
HP:100/100
スキル:HP自動回復・小(NEW)
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「リジェネか。いいの引いたな」
「効果は……『HPが減っている場合、少しずつ回復する』とありますわ」
「AAOはプレイヤー自身に攻撃力とか防御力のステータスが無いから、強さは装備とスキルで決まるんだよ。自動回復は耐久の増加と回復アイテムの節約にもなるから、序盤は特に便利だね」
「モンスターとの戦いじゃ結構使えるぞ」
「モンスター……!」
アンジュの話から聞こえた単語に、トウカの目が輝く。モンスターとの派手な戦いは、きっと動画映えするだろう。
「モンスターとはどこで戦えるんですの?」
「お、いいね。やる気だな? なあマスター、この後のやつにトウカも連れてってやろうぜ」
「この後って……デュークドラゴンに!? さすがにそれは……」
「ドラゴン!」
トウカの目がさらに輝く。モンスターの花形であるドラゴンとの戦いは、動画のことを考えずともやってみたい。
「私もご一緒させていただきたいですわ!」
「一緒に行くのは構わないけどよ……でも、いきなりデュークドラゴンは厳しいんじゃないかな……もしかするとトウカさんはすぐやられちゃうかもしれないけど、大丈夫?」
「あぁ? 守ってやれっていったじゃねえか。頼り甲斐がねえなあ」
「そんなこと言われても……」
2人の様子を見て、トウカは慌てて首と手を振る。
「い、いえ! マスターさんもアンジュさんもありがとうございます! ドラゴンはまたいつかご一緒させていただければ嬉しいですわ! さすがに初めてでいきなり大物に挑むのは違いますわよね!」
そう言うが、やはり少し残念そうだ。アンジュはもちろん、マスターとしても連れて行ってあげたいのだが……。
「……そうだ! 僕が作った装備を貸してあげるよ。生存系のスキルがついたやつ。それならある程度は戦えるはずだ」
「ありがとうございます! ……でも、マスターとは体格も違いますが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫。装備するプレイヤーに合わせてサイズは変化してくれるし、女性用にデザインした装備もあるよ」
「名案じゃねえかマスター。姫プらしくていい感じだ!」
アンジュの言葉にマスターが微妙な顔をしながらメニューを操作すると、テーブルの上にドレスと鎧を合わせたような装備が現れた。
「素敵ですわ! アンジュさんのために作られたものですの?」
「いや、違うよ。アンジュはこういうフリフリなのは着てくれないしね」
「では、他の女性のために作られたものですか?」
「そういうわけでもないけど……」
マスターはトウカが何を不思議がっているのか気づいた。
頼む、聞かないでくれというマスターの願いを砕くように、トウカは無邪気なきょとん顔で質問する。
「それなら……どうして女性用の装備などをお作りになったのですか?」
ぽん、とトウカの肩にアンジュの手が置かれた。
「聞いてやるな。男ってのはそういうことをしちまうもんなんだ」
「はあ……」
トウカは姫騎士の鎧(作:マスター)を手に入れた!
ブクマ、評価ありがとうございます! めちゃくちゃ嬉しいです!
今は毎日1話ずつ更新していますが、ペース上げられるように書いていますので、よろしくお願いします!