第50話 一撃必殺ですわ
決戦の日曜日。
廃棄都市エリアに姫騎士が立っていた。
このエリアは、モンスターの襲撃を受けて捨てられた街という設定のフィールドだ。崩れかけた家屋や枯れた水路などが目立ち、退廃的な雰囲気を演出している。ホラーゲームのような印象すらあった。
そして彼女の前にもまた、同じ金髪碧眼の姫騎士の姿がある。
「よく来てくれましたね」
言って、ニセトウカが2丁の銃を取り出し、キョロキョロと首を回す。
「おひとりですか? お仲間と一緒に来てくださっても良かったのに」
いつもの朗らかな様子とは違い、何も言わずに細剣を構えるのを見て偽物がクスクスと笑う。
「ふふ、私のこと怒ってます? なんであなたの格好で暴れまわってるのか、とか。教えてあげましょうか?」
目の前の女にショットガンを突き付けたまま、ニセトウカは楽しそうに話す。
「私の目的はあなたにこのゲームをやめて頂くことです。……嫌ですよね? ドッペルゲンガーが迷惑なプレイしてるのを見るのは」
ニヤニヤと語りかけるが、やはり無反応のまま、ゆっくりとにじり寄ってくる。
「……なんとか言ったらどうなんですか!」
声を荒げたニセトウカが、ショットガンのトリガーを引く。
改造武器らしい不自然なエフェクトが姫騎士の剣から飛び散る。
「なんでもジャストガードすると聞いていましたが、さすがに銃は無理みたいですね」
一撃で倒さないよう、わざとダメージが大きくなる胸や頭を外して発砲を続ける。
しばらく続けていると、銃弾の雨を受けながらようやく口が開かれる。
ただし、放たれたのはニセトウカの期待していたような言葉ではなかった。
「……時間稼ぎ終わり。あなたも憎い敵のことになると周りが見えなくなるのね。その気持ち、わかるわよ」
「は? ――――ッ!?」
突然、視界が揺れた。
ニセトウカが下を向くと、自身の胸からダメージエフェクトが出ている。
「――――!!」
ニセトウカの背中から胸にかけて、細剣が貫通していた。
振り向くと、道のずっと先に姫騎士――本物のトウカが立っていた。
気づかれない距離から『大投擲』で剣を投げたのだ。
「え、じゃあこっちは……」
前を向き直ると、金髪の頭装備を外して本来の銀髪を解放する姿が見えた。
「『ニセトウカ作戦』大成功。やっぱりあんたはにわかだったみたいね。こんなので騙されるなんて」
「氷雨先輩!?」
その言葉に、目の前のツララが目を見開く。
「あ、やば……」
そう呟いて、ニセトウカのアバターは光となって砕けた。
ツララの元へ本物のトウカが駆け寄ってくる。
「ツララさん! 偽物の名前が分かりましたが、これは……」
「あのおバカ……本名で荒らしプレイはやめときなさいよ……」
トウカが開いたキルログには、【タカガキヒナタ】というプレイヤー名が記録されていた。




