第5話 姫プの第一歩ですわ
「野郎ども! お宝が手に入ったぞ!」
「お、お邪魔します」
アンジュの海賊みたいな挨拶と、それにかき消されたトウカの小さな声に合わせて『ギルド』の扉が勢いよく開けられる。
中には3人のプレイヤーがいて、ソファに座って本を読んだり部屋の中なのに剣を振り回したりとそれぞれ好き勝手に活動していた。
剣を振っていたプレイヤー……侍のような装備を身に着けた男がアンジュを見る。
「アンジュか、遅かったな。また変なもの見つけてきたんじゃ……ん?」
侍男はアンジュの後ろにいるトウカを見ると、露骨に目の色を変えた。
「おぉー! いいNPC引っ張ってきたなあ! やっぱこのゲーム、ビジュアル面は最高だぜ!」
「NPCじゃねえよ。聞いて驚け、こいつは新規プレイヤーだ。今日始めたらしい」
アンジュの言葉に、本を読んでいたプレイヤーも反応する。
「新規プレイヤー!? このゲームに!? しかも女の子!?」
アンジュはトウカの背中を押して前に出す。
「ほら、教えたとおりにやってみな」
「は、はい!」
トウカはとてとてと侍男に近づき、ぺこりとお辞儀をすると彼の右手を両手で包んで上目遣いで目を合わせる。侍男のドキリという心音がアンジュにまで聞こえた気がした。
「はじめまして。トウカと申します。私、始めたばかりでこのゲームのことよく分からないんです……だから、いろいろ教えて頂けませんか?」
「あ、ああ……もちろんだ、よよ、よろしく……」
いきなり金髪碧眼の美少女に接近され、たじろぐ侍男を白い目で見ながらアンジュはトウカの耳元で囁く。
「よーしいい感じだ。じゃあ、次はあいつ」
「わかりましたわ」
顔がにやけている侍男から離れ、トウカは本を読んでいた青年にとてとてと駆け寄る。そしてそのまま背後に回り、男の肩を持って本を覗きこんだ。
「何をお読みですの?」
「うわっ!」
必然、青年の顔のすぐそばにトウカが来ることになり、彼は慌てて目をそらす。頬に彼女の髪が、背中に未知の柔らかい感触が触れ、目線があちこちに泳いだ。
「ままま魔導書っていうアイテムで! ゲームの設定資料とかが書かれてて、読むとスキルが手に入ったりするんです!」
「これを読むとスキルが!? すごいですわ!」
「そ、そうでもないですよ……たくさんありますし、よかったらいくつかあげましょうか?」
「わあ! ありがとうございます!」
その様子を、アンジュはにやにやしながら見ていた。
(トウカの声やアバターが可愛いとはいえ、思った以上にちょろいなぁ……)
トウカの姫プレイをする才能は彼女の想像以上のようだ。というのも、リアルでの彼女はまさしくそういった行動に長けたタイプの人間なのである。
アンジュは部屋の奥にいた、身なりのいい商人風の衣装を着た青年プレイヤーに話しかける。ギルドの家主である彼は、トウカと男2人の様子に苦笑していた。
「よぉマスター。どう? あの子可愛いだろ」
「まったく……君が妙なこと吹きこんだのか?」
「いやいや、確かにちょっと教えたけど、思ったより才能ありそうでびっくりしてるよ。見ての通り危なっかしいコみたいだから……あんたらで守ってあげな? 心配しなくても、サークル……もといギルドクラッシャーみたいなことはさせないようにするからさ」
「まあ、あいつらはあの子にやられちゃったみたいだし……言われなくてもそうなるだろうけどね」
トウカは挨拶をしているだけのつもりで、やっていること自体はそれだけなのだが……。
ともあれ、これで他のプレイヤーと一緒に遊ぶということは達成できそうだった。