第4話 アンジュさんはいい人そうですわ
「実はちょっと前からあんたのこと観察してたんだ。なんか背景キャラに話しかけてる変なやつがいるなーって」
「私は必死でしたのに、そんな心無い行いを……ひどいですわ」
「悪い悪い。まあ始めたばっかじゃわかんねえよな。このゲーム、ショップの店員くらいしかNPCは喋らねーんだよ。数も少ないし。なのにグラはよくできてっから困るんだよなあ」
人通りのない街を歩きながら、トウカはアンジュにこのゲームについて教えてもらっていた。
彼女は口調や目つきの割に人当たりがいいようだ。
「この街の建物も大半は中身空っぽのハリボテだよ。でもグラはいいから居心地いいんだよなあ」
「モンスターは強すぎてバランス悪いし。グラがいいから見に行きたくはなるんだけどなあ」
「PV見たことある? すごかったんだよなー。グラが」
いまのところ、グラフィックが良い以外の褒め言葉が出てこないのが気になるが……。
「ま、あたしは結構気にいってるんだけどね」
アンジュの言葉に、トウカの顔がパッと明るくなった。
「ありがとうございます!」
「いや、なんであんたがお礼?……運営の関係者なの? なんか撮影してるみたいだし」
ギクゥッ!と明るくなった顔が急激に固まる。
「……さすがにないか。あんた、ゲーム自体あんまやったことなさそうな雰囲気だし」
「えへへ……あ、と、ところで! 撮影は大丈夫でして? 後ほど動画として公開するつもりなのですが……」
「おー、いいよいいよ。あたしもそうだけど、このゲームしてる奴らに自分のプレイを隠したがるようなのはいねえよ。むしろ自分の発明を見せびらかしたい連中ばっかだろうぜ。だってのに実況とかが増えねえのは、そんなことより自分のプレイに集中したいからかもな」
「発明? このゲームは冒険するゲームではないのですか?」
「ああ。冒険もするよ。でもこのゲーム最大の特徴は冒険のやり方を自分で進化させられるところにあるのさ。馬鹿みたいな数があるスキルを組み合わせたり、装備のデザインや機能を自分で設計したりね。そういう面倒くささもライトユーザーがつかない理由なんだろうけど……ん、なに? どうかした?」
「いえ、なんでもありませんわ」
楽しそうに話すアンジュを見て、トウカは父の姿を思い出した。
彼もそうだったが、ゲームが好きな人は自分の好きなゲームのことを語るときは本当に楽しそうな顔を見せる。
(そういうところはお父様もアンジュさんもおんなじで、なんだかかわいいですわ)
「ところでさ……そのですわーとかですのよーって口調はなりきりプレイ? なんか好きなキャラとかがいるの?」
「これは私の元々の話し方ですわ。家でも学校でもこの口調でしてよ」
「ぜってえ嘘だろ」
「ほ、本当ですわ!」
「ええー……いや、あんた嘘とか吐けるキャラじゃなさそうだしな……マジのお嬢様学校にでも通ってんの?」
「え!? それは、えっと……」
「ああ悪い、リアルを詮索するつもりはねえよ。でもそうか、そんだけ自分を強く持ってるってことかもな。あんた、かっけえじゃん!」
「ふふ、あなたの話し方も堂々としていてかっけえですわ」
そんなことを話している内に、二人は街の隅にある建物の前に到着した。周りの建物と比べても特に目立たない普通の家といった外観だが、壁には落書きのように『ギルド』と書かれている。
「着いたぞ。ギルドってのはここの家主が勝手に言ってるだけだが……あたしの知り合いは大体ここを活動の中心にしてる」
「では、ここにいらっしゃる方々と一緒に冒険できるんですのね!」
「え? んー……まあそうだけど、ここの連中は既にやりこみ勢だし、始めたばっかのあんただと追いつくのは大変かもなあ」
「そうですか……」
トウカはしょんぼりと肩を落とす。一緒に並んでプレイしてくれる仲間がいた方が動画は面白くなるだろう。アンジュやここのプレイヤーと一緒に遊べないのなら、また人影を探すところから始めなくてはいけないかもしれない。
がっくりしたトウカを見て、アンジュは何か思いついた様子でにやりと笑う。
「じゃあ姫プでもしてみる?」
「姫プ?」
「姫プレイ。あんたは他のやつらに守ってもらいながら一緒に遊んで、アイテムとかも一杯貰える方法だよ。あんたはどんどん強くなれるし、みんなが楽しい遊び方」
「まあ! それは素敵ですわ!」
実際のところ、姫プレイは嫌われる要素も多分に含んでいるのだが、当然トウカの知るところではない。
「姫プというのはどうすればいいんですの?」
「簡単だよ。あんたはあたしにないモノを持ってるみたいだしな」
「アンジュさんにないもの……ですか?」
ぷにっ、と。
トウカの盛りに盛られた胸をつついてアンジュは言う。
「ここだよ、ここ」
「……心ですの?」
アンジュの目つきが、さらに悪くなった。
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