第38話 現実世界は書類主義ですわ
「こことここ、あとこれにも名前書いて。こっちのには太枠の中全部」
「課外活動申請書、施設貸出予約申請、予算申請……手首が痛くなってきましたわ」
翌日の放課後、生徒会室で燈火と氷雨は書類を作っていた。
学園の支援を受けて行う課外活動の申請書である。
「本当に大丈夫なんでしょうか……」
「この副会長が大丈夫って言ってんだから大丈夫よ。あ、こっちにはハンコ」
書類の活動内容の欄には『VR技術を用いた仮想世界の疑似体験による心身への効果を調査することを目的とした実験活動』と書かれている。
「アンタんちの金でAAO買ったってしょうがないし、こうすれば学園の金で売り上げにも貢献できるってわけよ」
ツララの計画はこうだ。
学園での課外活動としてAAOをプレイしてくれる生徒を募集し、自然な流れでトウカの動画に登場させる。
「何人集まるか分かんないけど、まあ園城寺か統傑院に興味のある奴が2、3人は釣れるでしょ。そのお嬢様たちをAAOに漬けこんで、私たちの手伝いをしてもらいましょう」
「私たちのアカウントや活動が伝わってしまいますが、大丈夫でしょうか……」
「心配しなくても、この生徒会副会長がちゃんと言って聞かせればここの生徒はうっかり情報漏らしたりしないわよ」
「うっかりゲーム内で本名を呼んでしまう方はいらっしゃるようですが……」
睨みつける氷雨だが、燈火は何事もなかったかのように書類に向きなおっていた。
「氷雨さん」
「今度は何よ?」
「どうしてこんなに私に協力してくださるのですか?」
手元に目を落としたまま問いかける燈火に、氷雨も窓の方へ目を逸らして答える。
「そりゃ、私が最初にアンタの動画拡散したんだから。最後まで面倒見るのが筋ってもんでしょ」
「え……」
「何よ」
「えぇ――――――っ!? ランヴァルさんのおっしゃっていた有名人って氷雨さんのことでしたの!?」
「ツララの正体知ったときより驚くんじゃないわよ……。私が運営してるブログでやったの。あっちは氷雨でもツララでもないから誰にも話すんじゃないわよ?」
氷雨がお茶でも淹れようかと立ち上がったとき、生徒会室のドアがノックされた。
対燈火用のシニカルな顔を、よそいきのお嬢様顔に切り替える。
「どうぞ」
声を受けて、1人の女性が入ってきた。氷雨は女子としては平均よりも高い身長だが、彼女はさらに長身だ。燈火や氷雨とは1つしか歳が離れていないが、それでも彼女ら「少女」とは違う「女性」と表現すべき雰囲気を持っている。
そんな彼女を見て、氷雨は肩の力を抜いた。
「ごきげんよう。あなたの部屋なのですから、ノックなど要りませんのに」
「ごきげんよう氷雨。そういうわけにもいかないさ。……おっと、珍しいお客さんだね」
名画のように精緻な美貌を持ち、芝居がかったような話し方にも説得力を持たせる堂々とした佇まいをするその女性は、座って書類に向かっていた少女を見て微笑んだ。
燈火は立ち上がり、女性に向かってお辞儀をする。
「ごきげんよう。お邪魔しております、生徒会長」
「ごきげんよう。そんなに畏まらずに、どうぞ薫と呼んで欲しいな」




