第3話 過疎ですわ
扉の向こうは街の中だった。
父の前では大見得を切ったものの、正直なところ普段ゲームをプレイせず実況動画も見ないトウカはどうすれば楽しそうに……もとい、楽しくプレイできるのかよく分からなかった。
(そうですわ! 他の方と交流してみましょう!)
既にこのゲームを楽しんでいるプレイヤーから遊び方を学ぶのだ。
トウカの第一目標が決まった。
「では、どなたかお友達になってくれる方を探してみましょう!」
カメラに向かって宣言し、てくてくと歩き出す。
(このまま歩いて、お会いした方に声をかけてみましょうか)
歩き、歩き、歩いて…………
「あら?」
トウカの目の前に現れたのは大きな門だ。どうやら街の端まで来てしまったらしい。
「どなたともすれ違いませんでしたわね……」
まあこんなこともあるかと、トウカは街のあちこちを散策してみたが、30分探しても誰もいなかった。
(まさかこのゲーム……遊んでいる方が少ない……!?)
そう思い始めた頃、ようやく彼女の目に人影が映った。
大通りを男が歩いている。トウカはプレイヤーがいてくれた喜びに目を輝かせた。
「良かったですわ! あの方に声をかけてみましょう!」
トウカは歩いていた男性に声をかけた。
「こんにちは!」
男は筋肉隆々で巨大な剣を背負った、いかにもパワータイプといったいかつい風貌だ。
「私、今日このゲームを始めまして、一緒にゲームを遊んで下さる方を探してるんですの! よろしければご一緒させて頂けませんか?」
…………。
返事は無い。男はそのまま歩き続けている。
「……あの、すみません! こんにちは! もしもーし!」
トウカの存在に気づいていないのかと思い、改めて声をかけてみるが、やはり返事は無い。
「あの……私何か気に障ることでもしてしまったのでしょうか……」
延々と無視され、涙目になってきた。
しかし、男はトウカに悪意をもっている様子でもない。表情ひとつ変えず、同じスピードで歩き続けている。
「す、すみませーん……返事してくださいぃ……」
だんだん怖くなってきた。
(まさか……この方は幽霊か何かなのでしょうか……)
「何してんの?」
「ひゃわぁ!?」
突然後ろから声をかけられ、飛びあがる。
振り向くと、そこには女の子が立っていた。
黒髪をツインテールにした、小柄な少女だった。装備している騎士のような衣装も全て黒で統一され、腰に剣を下げた、ファンタジー世界の少女騎士らしい姿をしている。
「あのおっさん、背景だよ? 返事するわけねーじゃん……まさかあんた、初心者?」
荒い口調で話す少女は、先ほどの男に勝るとも劣らない鋭い目つきをしている。隙を見せたら首を切られそうな迫力すらあった。
恐る恐る、トウカは返事をする。
「こんにちは……あの、あなたは……このゲームで遊んでいる方ですか?」
「あはは! 本当に初心者って雰囲気じゃん! なんでこんな過疎ってるゲーム始めたの?」
何が面白かったのか、黒い少女は笑い、おろおろしているトウカを見て顎で合図した。
「プレイヤー探してるの? ついて来なよ。みんながいるとこに案内したげる」
「え……?」
「違うなら別にいいけどさ」
「いえ、行きます! お願いします!」
どこかへ行こうとする背中を慌てて追いかける。
「私、トウカと申します! 今日、はじめてこのゲームを遊んでますの!」
「あたしはアンジュ。よろしく、トウカ」
こうして、トウカは他のプレイヤー、アンジュと出会うことに成功したのだった。
3/28追記:Cureナシ様より、アンジュのイラストを頂きました!