第21話 垢BANですわ
「あら?」
いつものようにAAOを起動したトウカだったが、目を開いた場所はファンタジー世界ではななかった。
キャラメイクをした空間とよく似た、AAOのサーバー内ではなくVRネットゲーム共通の中継地点のような場所だ。
空間には簡素なウインドウがひとつ、表示されている。
そこにはこう書かれていた。
【現在、このアカウントは凍結されています】
「な、なななななな……!?」
慌ててヘッドギア本体のメニューウインドウを開き、ギルドの仲間との連絡用に作ったSNSアカウントで彼らとの連絡を試みる。
すぐにアンジュたちから返事があった。
『トウカ、垢BANされたのか!?』
「あかばん?」
『運営からゲームへのアクセスを禁止されてるんだよ』
『理由はゲームデータの改造やAAOサーバーへの不正アクセス、他にはプレイヤーを脅迫したり、あまりにひどい言葉をゲーム内で発したりした場合ですね。心当たりはありますか?』
「そんな! 私は決してそのようなことは……」
アカウント停止のお知らせウインドウの下の方に書かれた『凍結措置の理由』という欄を見る。
そこにはこう書かれていた。
【他プレイヤーに対する過度な接触によるハラスメント行為が検出されたため】
…………………………………………。
「アンジュさん、ごめんなさい……」
心当たりは、しっかりとあった。
「もう私はプレイできないのでしょうか……」
『大丈夫。今回はプログラムによる自動検出で判定されたわけだから、ハラスメント検出対象……この場合はアンジュが運営に問題ないと伝えれば凍結は解除されるよ』
『AAOの運営はレスポンス早いし、今日伝えればイベントにはなんとか間にあうな』
『僕の提案の結果です。アンジュさん、トウカさん、すみませんでした』
『あたしから運営にメッセ送ってやるから、ちょっとは反省しろよお前ら』
返す言葉もない。
「大変申し訳ありませんでした……」
これが、園城寺燈火のはじめての垢BANであった。
「なんで垢BANされて人気上がってんの、よ!」
握りつぶしそうな力でマウスを握りながら、氷雨は鬼の形相をしていた。
鬼の瞳に映っているのは、過去の動画でトウカが頭を下げたシーンのスクリーンショットを背景に、アカウント停止のため一時的に更新が滞るということを謝罪する声が流れる動画だ。
動画についたコメントを見て、頭に血がのぼる。
「『よくやった』? 『正直で逆に好感が持てる』? 『トウ×アン公式化おめでとう』? だぁーもう! なんでこいつはこうなのよ……! 中学の体育祭でも高校の新歓パーティでも……!」
さらに、直前に投稿されたプレイ動画にも文句があった。
「ツララまであいつらの仲間みたいに扱われてるし……」
氷雨には納得できない屈辱だ。
しかし、同時にこうも思う。
(もしイベントで園城寺と私が戦えば間違いなく注目される……垢BAN前に接触できたのはラッキーだったわ)
「世界の終わりが楽しみね! あーはっはっはっは!」
高らかに笑い声をあげる氷雨は、背後から忍び寄る気配に気づいていなかった。
「ひーちゃん? もう遅いんだからもう少し静かになさい?」
「ちょ、部屋入るときはノックしてよママぁ!」




