第20話 百合営業・後編ですわ
「マスター、お前の欲しそうな革素材がとれたぞ……ん? おわっ!」
ギルドに帰ってきたアンジュが驚きの声を上げたのは、突然トウカが抱き付いてきたからだ。
「アンジュさん!」
「トウカ……どうしたんだ?」
「私、アンジュさんともっと仲良くなりたいんですの!」
状況が良く分からないアンジュは、とりあえずマスターたちを見た。
「てめえらがまた変なこと言ったのか?」
「そんなことはありませんわ! アンジュさんと仲良くなりたいのは私の意思です!」
「ん、そりゃ嬉しいけどよ……」
照れくさそうに頬を掻く。
「あたしはリアルでもゲームでもこんな感じのやつだし、お前みたいに見た目が綺麗なアバターって雰囲気じゃねえ。あんまりベタベタするとトウカの評判が落ちねえか?」
「そんなことはありませんわ!」
「ひゃ!」
アンジュの普段の話し方からは想像できない高い声が出たのは、トウカがアンジュの顔を手で包み、自らの顔を近づけたからだ。
アンジュより少し身長の高いトウカがまるでキスをする前のようなポーズをとっているその図は、見ようによってはそう見えるかもしれない。
「……アンジュさんのアバターはとてもお綺麗です。それに、何も分かっていなかった私をここまで導いて、ギルドの皆さんにも、ドラゴンにも会わせてくれましたわ。きっと現実のアンジュさんも素敵な方に違いありません」
顎をクイっと持ったり、抱き付いて耳元でアンジュのいいところを囁いたりとトウカの行動はエスカレートしていく。
ふと、顔を真っ赤にして固まっているアンジュの鎧の隙間を見てトウカは何かに気付いた。
「あら?」
そして花が咲いたような笑顔で、アンジュの最も知られたくなかった事実を口にする。
「鎧の下に水着を装備していらっしゃるのですか? やっぱりアンジュさんには白もフリルも似合いますわ!」
「ちがっ、ああああああああああああああああああ!?」
マスターとランヴァルは聞こえないフリをして後ろを向いていた。
「そろそろ止めたほうがいいでしょうか?」
「必要ないと思うよ。たぶんそろそろ……」
「もおおおおなんなんだよおおおおお!?」
悲鳴と共に、茹で上がったような顔のアンジュがトウカを振り払い、そのまま外に猛スピードで走って出ていった。
「俊足スキルなんて持ってたのか……ありゃ追いつけないね」
「僕が提案したのに申し訳ないですが、今のは動画にするときカットしてあげてください……」
「馴れ馴れしくしすぎだったでしょうか……アンジュさんに教えて頂いた『姫プ』を参考にしたのですが……」
翌日、イベントがあと2日後に迫った日。
AAOを起動したトウカは、いつもと違う世界を目の当たりにすることになった。




