第17話 トッププレイヤー登場ですわ
AAO内『始まりの街』南にある『遠望の海岸』フィールドに、ギルドメンバーは揃って来ていた。
カメラに向けて海が綺麗だと解説しながら波と戯れるトウカの姿を、ギルドの男たちは3人並んで腕組みをしてその目に焼き付けている。
「海に来たのに山が見えるな」
「バサラ、おっさんくさいですよ。リアルではいくつなんですか?」
「……12」
「マジですか!?」
「冗談だ」
「うるッせえぞ!! 野郎のさわぎ声が動画に入っちまうだろうがァッ!!」
「マスター、なんかキャラおかしくありません?」
「お前が一番うるせえよ……」
男たちが見つめるトウカの水着はいつもの装備と色を揃えたビキニだ。揺れるパレオが、姫騎士のスカートを思わせる。
こちらを見て手を振るギルドの姫の姿に、男3人は鼻の下を伸ばして手を振り返す。
「皆さんも一緒に遊びましょう! アンジュさんも来てくださーい!」
「なあ、やっぱりなんかおかしくないかあ?」
砂浜に生えたヤシの木の影から、アンジュが顔を覗かせる。
彼女は黒騎士の装備からはうって変わって、白色が眩しいフリル付きのビキニを着ていた。
ギリギリまで抵抗したが、トウカが悲しそうな顔をしたので歯を噛み砕きそうなほど食いしばって着用を承諾したものだ。
なお、男たちは街の装備屋で売っていたそれっぽい半ズボンを適当に履いている。
「俺たちが言えたことじゃねえけど、アンジュもトウカには弱いよなあ」
「こっち見んじゃねえ!」
アンジュはわなわな震えながら叫ぶが、今日は蹴りが飛んでくることは無かった。
ヤシの木の後ろに隠れていた彼女は駆け寄ってきたトウカに手を引かれ、海へ入る。
「そーれ!」
「ひゃっ! この………やりやがったなあ!」
「きゃっ! 冷たいですわ!」
水を掛け合う2人を、キリッとした目で追う男たち。彼らの間に、もはや余計な言葉は必要無い。
そんな時、ザリッという砂を踏む音が聞こえた。
「モンスターか?」
皆が音の方へ注目すると、そこにいたのは女性プレイヤーだった。
「何をしているのかと思えば、イベント前に海水浴? 随分と余裕そうね」
波と砂浜が煌めくビーチには似つかわしくないほどクールな声だ。
トウカたちを見つめる瞳は夜空のような藍色。日差しを浴びて輝く銀髪には雪の結晶を模した髪飾りをつけている。装備しているのは戦闘用にデザインされたチャイナドレスのような衣装だ。
彼女の瞳と同じ色の衣装がスラリとした身体のラインが強調していて、その立ち姿はトウカとはまた違う魅力を持つ美しい姫のように見える。
「こんにちは。ええまあ、息抜きも兼ねて。すごくクオリティの高いアバターと装備ですね。そちらは素材集めか何かで?」
彼女に返事をしたのはマスターだ。しかし、彼女ではなくランヴァルがその言葉に答える。
「い……いいえ、この人がこんなところで素材集めをしてるとは思えません」
「あら、私を知ってる人がいて嬉しいわ」
「お知り合いですの?」
浜に上がってきたトウカがランヴァルに質問した。
「いいえ。僕が一方的に知っているだけです。どうしてこんなところにいるのかは分かりませんが……」
ランヴァルは女性プレイヤーを見て、トウカ目当てのプレイヤーと似たような表情になっていた。
「彼女は『ツララ』さんですよ! 誰も行けないような危険地帯にずっといるって噂のトッププレイヤーです!」
ランヴァルの説明に、皆が色めき立つ。
「へえ! じゃあ前回のバトロワで1位になったって人か!」
「1位!? このゲームでですか? すごいですわ!」
「ご説明ありがとう。ええその通り、私はツララ。このゲームで一番強い人間よ」
ふわりと潮風に髪をなびかせ、無邪気に笑っている水着の姫騎士へ視線を向けた。
「私はトウカさん、アナタにお会いしたかったの。今度のイベント、参加されるのでしょう?」
「はい、もちろんです!」
「この私がアナタを倒す。越えられない壁というものを見せてあげるわ!」
トッププレイヤーからの宣戦布告にその場の全員がシリアスな顔をしたが、後にトウカの動画には『水着のせいで話が頭に入らない』『ヤシの木がシュールすぎる』といったコメントが並ぶことを、まだ誰も知らなかった。




