第16話 水着回ですわ
「なんでこんなことにぃ……」
照り付ける太陽の下、アンジュは可愛らしいフリフリの水着を着て砂浜に立ち、か細い声を上げていた。
「あたしは割とキメてトウカと次のイベントでの勝負を約束したはずだったんだが……」
顔を赤くしている彼女の視線の先では、同じく水着姿のトウカが満面の笑みで海水浴を楽しんでいるのだった。
時間を遡ること1日前。トウカとアンジュが戦いを約束した少し後。
事の始まりは、トウカから出たスキル『自動回復・小』を強くすることはできないかという質問である。
「イベントには回復薬のような消費アイテムを持ち込めないとお聞きしましたの。自動回復はきっと有用ですわ」
<World End Battle Royal>……次回イベントへの参加に当たって本格的に強くなりたいと考えているトウカは、ギルドの仲間に相談していたのだ。
「スキル強化なら、新規習得よりは簡単だ。必要な条件が固定だからな。自動回復系なら『滋養ドリンク』を作る必要がある」
「『人喰いヒトデの滋養エキス』とかが必要かな。ドロップするヒトデはここから南に行ったところの海岸フィールドで出るよ」
「わかりました! ありがとうございます。今回はこちらの都合ですから、私1人で行ってきますわ」
「ソロでいいのか? まあヒトデくらいトウカちゃんなら簡単だろうが……」
「いえ、待ってください」
なにかをひらめいたらしいランヴァルがにやりとした。
「せっかく海に行くのですから、みんなで海水浴とかどうでしょうか? きっと楽しそうな様子が撮影できますよ」
そして、最も伝えたいことを付け加える。
「水着装備で!」
「欲望全開すぎてきついぞお前……」
勝負しようと言った手前、あまりトウカの強化には口を出さなかったアンジュが心底見下す目線でランヴァルを見る。
トウカも海水浴には良い反応を返さなかった。
「確かに楽しそうに見えるかもしれませんが、この『ゲーム』を楽しんでいる姿とは少し違うような……」
「そんなことはありません! 季節に関わらず海で遊べるというのもVRゲームの素晴らしい特性です。ファンタジーの戦いに興味がない人でもそういった遊び方もできると知ればAAOをプレイしたくなるかもしれません。それに水っていうのはグラフィックのすごさを示す分かりやすい要素なんですよ。武器やモンスターみたいな『形のあるもの』と違って表現が難しいですからね。グラの良さが大きな売りのAAOの宣伝としては適切な選択だと思います」
「な、なるほど。おっしゃる通りかもしれませんわ」
超早口なランヴァルの説明に、トウカは戸惑いながらも納得したようだ。
バサラは本日のMVPプレイヤーと目線を合わせた。
(ランヴァル、お前の理屈をこねくり回す才能に感謝するぜ)
(褒められてる気がしないんですが、感謝は受け取っておきましょう)
「でも、この世界で水着なんて持ってませんの」
「さすがに水着装備はないな……」
「肝心なことを忘れてました……一応ファンタジー系のゲームですからね……」
アンジュは呆れ顔でため息をつく。
「別にいつもの装備でいいだろ。基本の目的はモンスター狩りなんだから」
「い い わ け あるかぁぁぁぁ!!」
装備作成、衣装作りに入手した素材とスキルの大半を費やしているマスターの魂の叫びが響いた。
「任せろトウカさん! 素材全部使ってでも最高性能、最高デザインの水着を作ってやるッ!」
「さすがはマスター!」
「俺たちのリーダーはやっぱりお前だ!」
トウカは少し申し訳なさそうにお礼を言う。
「ありがとうございますマスター。でも、いつもいろいろと作って頂いて申し訳ないですわ。姫騎士の鎧もお借りしたままですし……」
「構わないよ。僕は装備を作るのが楽しくてAAOをしてるんだから」
まるで姫に忠義を尽くす騎士のような顔でトウカに笑い、それから最高に決まった流し目でアンジュの方を見た。
「アンジュ、もちろん君の分も任せてくれ!」
「……は?」




