第10話 令嬢パワー覚醒ですわ
アンジュは改造すら疑ったが、背景キャラに話しかけていたあの少女がそんなことをしているとも思えない。
「よーし、ドラゴンさんの動きは覚えましたわ! こんどはこっちの番ですの!」
デュークドラゴンの攻撃を見ていて、トウカはある考えに至っていた。
自分には、このモンスターの気持ちが分かる。
そう感じる理由はもちろん存在していた。
(お父様なら、きっとこうする)
薙ぎ払うように振られた尻尾を躱し、すれ違いざまに切り裂く。赤いエフェクトと共に、巨竜が悲鳴を上げた。
(このドラゴンは、お父様と同じ考え方をする)
トウカも知らない事実だが、AAOは園城寺グループの代表であり、トウカの父である園城寺雪夫が個人製作していたゲームを元に商品化したものだ。
グラフィックが優れている割にゲームシステムやパワーバランスに難があるのは、グラフィックに園城寺の金を使い、内容そのものはほとんど雪夫が考えた結果である。
つまり、このゲームには雪夫のクセが多く含まれている。
幼い頃より見てきた父の性格、考え方。
さらに雪夫から借りたヘッドギアの、本人がセッティングした最適なゲーム環境がトウカの思考を正確に処理し、精密な動きをサポートしていた。
この場にいる誰よりも、トウカはこの世界の製作者に近い存在なのである。
(お父様なら!)
何度も斬撃を加えながら竜の脚を駆け上がり、払い落とすために振られた尻尾を蹴って頭の前に飛び出る。
黒曜石のようなデュークドラゴンの目と、トウカの碧眼が視線をぶつけ合う。
口を大きく開いて炎を吐かんとする姿を見て、姫騎士は身体を捻った。
「はあぁぁぁっ!!」
そのまま剣を突き出し、顎の下に1枚だけ生えた逆向きの鱗、即ちデュークドラゴンの逆鱗を貫く。
炎弾が放たれることは、無かった。
耳が割れそうな断末魔を轟かせ、黒い巨体が倒れ込む。
「や……やりましたわぁぁ!」
仰向けに落下しながら、剣を天井に向けて勝利を叫ぶ。
そしてそのまま地面に落ち……
「きゃっ」
とっさにアンジュがトウカの身体を受け止めた。
「デュークドラゴン倒した英雄が、落下ダメージで残りのHP1を削りきる気か?」
「じ、自動回復で今は9ですの……でも、ありがとうございます」
デュークドラゴンの巨体は光となって消え、代わりにドロップアイテムの宝箱が置かれていた。
(お父様のためにと思って始めたことでしたが……)
「私……このゲーム、きっと生まれた時から大好きですわ」
微笑むトウカを見て、アンジュは不思議そうな顔をして、笑った。
「今度はあたしの大活躍を見せてやるよ。簡単には追いつかせねえぞ?」
ドロップアイテムであるデュークドラゴンの素材が、トウカにはクリスマスプレゼントのように輝いて見えた。




