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第1話 ゲームのはじまりですわ

燈火(とうか)……お前に頼みたいことがある」

「なんですの? お父様」


 シャトルランができそうなくらい広い部屋の真ん中で、園城寺燈火(えんじょうじ とうか)はテーブル越しに父と向かい合っていた。


「これを見てくれ」


 父、雪夫(ゆきお)がテーブルの上に置いたのはゲームソフトのパッケージだ。

 『Advance Adventure Online』と書かれた派手なタイトルロゴが目立つ。


「お父様の会社から発売されたゲームですわね」


 園城寺家は何代も続く大企業の一族であり、分かりやすく言うと大金持ちだ。

 このゲームは雪夫の強い希望により参入したゲーム業界で園城寺のグループが出した商品である。

 果てしなく続く広大なフィールドで、モンスターとの戦いや未開の地の冒険、その世界の住人としての生活を楽しめる……という謳い文句の、ファンタジー系VRMMOだ。

 もっとも、雪夫はあまり家で仕事のことを話さず、燈火自身もゲームには疎いため、内容については何も知らない。


「このゲームがどうかしましたの?」

「ああ。頼みというのはだな……このゲーム、AAOを人気にする方法を一緒に考えてほしい」

「人気にする……? このゲーム、人気ではないのですか?」


 雪夫は申し訳なさそうな顔で頷いた。


「この頃あまりゲームが盛り上がっていないんだ……新規プレイヤーも増えないし、この調子だとサービス自体続けられなくなるかもしれん」

「まあ、それは大変ですわ。私にできることならお力になりますが……私はゲームに詳しくありませんし、ゲーム屋さんや広告屋さんに頼んだ方が良いのではないでしょうか?」

「もちろんそちらのアプローチもしている。だが、いろいろな人間の意見を聞きたくてな……学校でゲームの話とかしている友達は……いないよなあ」


 燈火の通う学校はごきげんようと挨拶をするタイプの女学園だ。VRMMOをプレイする生徒はいないといっていいだろう。


「そのゲームは、トランプや……あるいはチェスのような遊びをするのでしょうか?」

「そういうものじゃなくて……ほら、こんな感じだ」


 雪夫はタブレットを取り出し、燈火に動画サイトにアップロードされたゲームのプロモーションビデオを見せた。

 画面の中で、剣士と魔法使いが派手な戦いを繰り広げている。


「すごいですわ……まるで本当の異世界のようですのね」


 仕事のことを話したがらない父がここまで見せてくれるのは珍しいことだ。相当このゲームを盛り上げたいのだろう。

 なんとかいい案は浮かばないものかとプレイ動画を興味深そうに眺める燈火は、ふと画面の端の関連動画に目を向けた。


「その女性が映っている動画はなんですか?」

「これか? これは他のゲームの実況動画だな」

「実況動画……?」

「ゲームをする様子を動画としてアップロードしているものだ。同じゲームの話題で盛り上がったり、投稿者のリアクションを楽しんだりする。これ自体もゲームの宣伝になるから会社でも誰かに頼めないか考えているが……なかなか企画が進まなくてな」

「この女性は芸能人の方ですの?」

「そういう場合もあるが……この動画は趣味で投稿されているものだな」

「つまり……だれでもできるんですのね?」

「そうだな」


 数秒の沈黙の後、燈火はテーブルを叩いて立ち上がった。


「これですわ! 私が実況動画とやらを投稿して、このゲームを盛り上げればいいんですの!」


 思いもよらなかった娘の言葉に雪夫は目を丸くした。燈火は自信満々の表情だ。


「だがその……お前はゲームなんてしたことないだろう? 誰かサポーターをつけようか?」

「いえ、お父様の手を煩わせることなく、あくまでも第三者である私がひとりでやってみせますわ」


 父の役に立てそうなことが嬉しくて、燈火の目はきらきら輝いている。


「お父様! ゲームをする機械を貸していただけますか?」

「あ、ああ……」


 雪夫はVR世界にダイブするためのヘッドギアを棚から取り出し、テーブルに置いた。


「……確かに、お前は堂々としているし声も綺麗だ。実況には向いているかもしれん……少しでもわが社のゲームを盛り上げて欲しい、頼めるか?」

「言ったはずですわ。私にできることならお力になります、と」


 燈火は微笑んだ。ヘッドギアを手に取り、胸に手を当てて宣言する。


「お任せくださいお父様! 家名に誓ってこのゲーム、立派に宣伝してみせますわ!」


 後に垢BANお嬢様と呼ばれ伝説になる少女の物語は、こうして始まった。



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