SIDE エイシュリット その2
エイシュリット視点です、短めです。
「アイリエッタが可愛い」
「あ~そ」
「アイリエッタは優しい」
「ふ~ん」
昨日だって…良く分からんけれど、自ら地下牢に入ってしまって揉めに揉めたけど…
「お前っ見たか?パーテの向こうから…こうちょっと上目遣いでこっちを見て…怒って頂いても構いませんのよ?だってぇぇ!思わず壁際に逃げて…滾る欲望を押さえようと理性を総動員したよっ!」
フォーデから分厚い資料の塊が私に向かって投げられた。私は投げられた書類の束を受け取ると、二ヤついた。
「俺は見てねぇ~から!いいか?顔の締まりを直せ。キリッとしろ。お前の人気は顔面で保っているんだ」
「フォーデ酷い!」
「事実だ」
ああ…あの後、焼き菓子を勧めてくれて食べる私を見て微笑んでくれた、アイリエッタめっちゃ可愛いかったなぁ。地味だけど着実にアイリエッタとの距離を詰められている気がする。よしっよしっ!
「ニヤニヤしてないで早く仕事しろ。それと『手紙』の誤解も解いておけ。グズグズ引き延ばしたって良い事なんてないよ」
分かってるよ。フォーデを睨んでいると内務省の事務次官がやって来た。
「殿下、バウンテラス公爵家からお返事が…本日の11刻にケイトリーサ嬢が登城されるそうです」
事務次官はそう言って下がっていった。執務室内に居た私とフォーデ…そして事務補佐のクリフカの3人の視線が絡んだ。
「呼び出してもすぐには来ずに翌日にのんびりと登城ですか?舐めてますね」
「クリもそう言ってやるなよ…すぐには公爵家の体裁を整えられないのだろう。今頃、登城する時に着用するドレスを必死で用意しているさ」
そう…。バウンテラス公爵家の内情は肉に例えるなら、すでに骨と皮だけだ。時間はかかっているが、公爵家の肉…お付きの一派を一枚一枚剥ぎ取ってやったからな。
正直、バウンテラス公爵家を叩くだけならいつでも出来た。
だがそれでは、燻っている旧ダバッテイン帝国の残党(貴族達)がいきり立ってしまう。国を二分するような内戦だけは絶対に避けなければいけない。
だったら飛べなくなるまで羽をむしり取ってやればいいのさ。歌えなくなるまで喉を潰してやればいい…。
「おい…今、わっるい顔してたけど、ナジャガル皇国とガンデンタッテ王国からの親書は見たのか?」
「ああ見た。しかし驚いたな…アイリエッタが異界の迷い子か…」
「意外でもないんじゃない?あのユタカンテ商会の魔道具の使い方…独創的で最高だね!」
フォーデが地下牢を自分の部屋のように改装していたアレを思い出したのか、おかしそうに笑っている。
「何故お隠しになられているのでしょうかね?別に忌諱されることではないですしね。寧ろ、異界の迷い子とは世界に知識と英知を与える神の遣いとまで言われていますのに…」
クリフカがそう溜め息をついた。確かに隠す意味が無いよな~でも私だって隠していることがあるし…
「私だって隠し事をしているしアイリエッタを責めることは出来ん…」
「何、格好いい風を装ってんだよ?お前のつまらん手紙とアイリエッタ王女殿下の異界の迷い子という隠し事じゃ、ソワレとマタッガぐらいの差のある隠し事だよ」
くそぉ…フォーデめっ。睨みつけていても堪えやしないふてぶてしい従兄弟の顔を睨んでいると、激しく扉が叩かれ、執務室に伝令兵が走り込んで来た。
「失礼致します!フーバの森から島族の武装集団が侵入しております!ただいま国境警備隊と交戦中です。」
「フォーデ、行って来る。10刻までには戻る」
「ご武運を」
私は伝令と共に廊下に出ると
「一緒に行くか?」
と聞いた。伝令兵の若い男はサッと敬礼をした。
「私は軍部に増援要請を伝えてきます!お先にお願いします」
「分かった、気を付けろよ」
「御意!」
私は転移魔法を使った、フーバの森へ…意識を転移先の森の記憶を探って繋げた。
あ…あれ?森…だけど?うん?
一瞬、転移を失敗したのかと焦ったがよく見ると王宮の裏庭だった…。どうして?
王宮の一室…室内にアイリエッタがいる。ああ……今は王太子妃の勉学中か。あまりにもアイリエッタのことばかり考えているから、つい私の女神の側に転移してしまったのかな?アハハ…
ああ、私のアイリエッタは今日も可愛い~笑顔が世界一美しい…その笑顔に吸い寄せられるように窓に近付いた。そして窓の外から室内をソロリと覗こうとした時に、メイドのカリアと目が合った……気がした。
急いでその場から転移して、今度はフーバの森の近くの警備隊の詰所の門前に辿りついた。心臓が激しく脈打っている。
もしかしてカリアに見つかったか?もし見つかっていたなら、アイリエッタに告げ口されるかもしれない…
「姫様っ!エイシュリット殿下が気味悪~く室内を覗き見しようとしてましたよ!」
「まあ!やだわっ殿下って気持ち悪いわね!」
アイリエッタに気持ち悪いなんて言われたら、気鬱で臓腑の中のものを全部吐いてしまいそうだ…
「…っく、アイリエッターーッ!アイリエッタァァ!」
「…!……!」
森の近くから自軍の兵士が飛び出してきた。
「殿下っ!?何を大声出されているんですかっ!攻撃魔法で的にされてしまいますよっ!」
と、私に言っている傍から森の中からギュウゥゥン…と魔力の塊が飛んできた。瞬時に剣で払ったが、払い損ねた風魔法が肩をかすめた。いってぇ!
その状況を警備隊の詰所の向こう側にいたらしいアリウムが全部見ていたらしく、島族を追い返した後に
「エイシュリットってすごいな…色んな意味で」
と、意味深なことを言われた。それは褒めているのか?貶しているのか?
「どういう意味だよ?」
「早く王女殿下にお手紙の事を話して謝罪したほうがいい」
と言われた。分かってるよ…あの公爵令嬢との一戦を終えてから、ちゃんと言うからっ。
ソワレとマタッガ=月とすっぽん