表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
牢屋住まいのプリンセス  作者: 浦 かすみ
王太子妃編
12/15

銀の暗殺者

タイトルで壮大なネタバレです

誤字修正しています。

カステカート王国の訪問の時に、ガンドレア共和国の訪問の話も出たので足を延ばしてガンドレア共和国にお邪魔してみることになった。


まだ前政権を倒して50年と少しなのでまだまだ情勢が危ういのです。と案内をして下さった外務役人のお兄さんとお姉さんは真剣な顔をしていたけど、町は非常に活気に溢れていた。


繊維織物産業が盛んらしくて、グラデ配色の綺麗なシルク生地っぽいものが沢山あった。嬉しくなってカーテン生地を買ったりルームシューズを購入したりしてとても楽しかった。


ケバブ?みたいな塊肉をクルクル回して焼いている食べ物を屋台で売ってたので、買って食べてみた。結構こってりしたお味だった。


なんだか普通に買い物とかしてるけど、これって修学旅行じゃね?


さて真面目に視察しようかな…


この世界の中心に存在するグローデンデの森は、魔獣が時々出るので危険だということで近くにはいけなかったけれど、白い幹の大きな木が沢山茂る…神秘的な森だった。私のイメージする妖精とか住んでいる森みたいだった。怖いとは思わなかった。噂通り森の中心に向かって魔力が沢山集まっている。


そうそう、この森の近隣にあの大きな魔石とよく似た魔石が埋められていたんだって。確かにここなら森からの魔力で、術が発動するね。ここで見つかった魔石は西瓜くらいの大きさだったんだって。


まだ他にも魔石があるのかしれないな…


バウンテラス公爵家に魔石を売りつけた怪しい商人は西の方の商人だったと…僅かにコスデスタかもっと西のワーゼシュオンのお国訛りがあるような言葉使いだったと証言した。つまりはその辺りの地域がきな臭いという状態らしい。


ガンドレアの視察の途中で無理をお願いして、そのきな臭いコスデスタ公国との国境付近まで行ってみた。


万〇の長城みたいな長ーい国境の向こう側、視える範囲にコスデスタ公国側には結構な数の人がいる。


「国境付近にかなりの人がいますね…」


と私が言うとガンドレアの軍人のお兄様とか玲ちゃん達が一斉に緊張しているのが分かった。触れたらいけない話題だったのかもしれない。


「妃殿下、因みに詳しく魔質や魔力など分かりますか?」


ガンドレアの軍部の大将閣下は綺麗な菫色の瞳を私に向けるとそう聞いてこられた。


「失礼ですが、大将閣下も視える目をお持ちですよね?」


そう聞くと彼は、目を丸くした後


「私と同じものが視えているのか確認してみたいのですよ~」


とニッコリと笑っておられた。


そうそう後で聞いたんだけど、大将閣下…ナッシュルアン様のご親戚だとかで結構強いらしい。アリウム様がトリプル…何とかだとか騒いでいたけど、それアイドルのグループ名なの?


大将閣下に聞かれたコスデスタ公国側の人の魔力は…好戦的なものではなかった…


「数はいらっしゃいますが…辛い悲しい…そんな魔質です。魔術師相当の高魔力保持者も見当たりません。どういう目的かは分かりませんが戦意の無い一般庶民だと思われます」


私が魔力波形を視てそう説明すると、ガンドレア共和国役人のお兄様達も…大将閣下もとても悲しそうな魔質になった。


クラバッハへの帰りにエイシュリットに聞いたら、コスデスタ公国も随分と酷い圧政下にあるらしいとのことだった。難民…と呼ばれる公国民が逃げてくることはほぼ無い…らしい。


「皆、国境沿いに辿り着くまでに無理だったのかもな…」


ああ…私は何にも知らないのだな、としみじみと思った。教科書の中で学ぶことは出来たけど実体験として全然身に付いていなかったのが…よく分かった。


そう思ってしんみりしながら帰って来たっていうのに…帰国早々、執務室で待ち構えていたフォーデ様に


「俺の頭皮に治療魔法を施して下さい!」


とにじり寄られたのだ。何だよ?え?


「あの煩い女の突撃事件で俺の大事な髪が強いられたのは知っていますよね?」


おいおい大げさだなぁ…


「頭皮をパックリ切っちゃったあれですね?」


「…っち!」


何故、舌打ちだっ。エイシュリット殿下の執務室でエイシュリット殿下の奥さんである私が一応、部下?である方に舌打ちされるの?これ不敬だよーーーっ。誰も聞いてくれないけど…


「怪我は治療してもらったし…傷跡も無い、それなのに中々、ハ…ハッ…」


「禿げてるの?」


サーーッと執務室の気温が下がった。またツンドラ気候に突入したみたいだ。


迫力は魔王級だけど運動神経はアリンコ並みのフォーデ様はギロリ…と私を睨んだ。


「どういう訳だか新芽が出ない…」


「新芽…」


すごい表現だ…


「皮が捲れて、毛根が死滅しちゃったのかなぁ」


私の言葉に執務室の中でダイアモンドダストが吹き荒れる…あ、そうだ。この間お会いした時に、確か…


「あ…ちょっと待って下さいよ。ナジャガル皇国のヒルデ様が『ハエール』とか言う育毛魔法を開発したとか…」


「早急にその魔法を手に入れて来てくださいっ!」


ちょ……ぉ?おいぃぃ?チラッとエイシュリットを見ると機嫌が悪いのは困るんだっ頼むーー!みたいな懇願のような魔力を滲ませながら私に縋るような目を向けていた。


仕方ない…


転移魔法陣でナジャガル皇国に向かった。護衛のギャッデとグレビューさんとカリアも一緒だ。


フォーデ様の頭皮の話をすると、ギャッデとグレビューさんはフォーデ様の味方をした。


「薄毛は辛いっすよ」


「そう?」


「毛根が死滅とかって言っちゃって、この世で一番の忌語を吐き出してしまったんでしょ?妃殿下からの呪詛ですよ、それ」


呪詛ぉ?そんなに言っちゃいけない言葉だったのか。でもその新芽が芽吹いていないって言うわりには頭皮を絶対見せてくれないんだよね。治療するにも患部を隠すって意味わからんわ。


という訳で、ナジャガル皇国にお邪魔してヒルデ様に事情を説明すると


「一度『マジー医院』の薄毛外来を受診して頂かないと…」


と言われてしまった。薄毛外来!ものすごいパワーワードだ。そんな外来あるの?医院に外来があるということは薄毛は病気だという認識なのか…以前は禿げは病気じゃねぇ!と切って捨てた自分の言葉がどれほど酷い言葉だったのかと痛烈に思う。


私はヒルデ様に断りを入れてすぐにクラバッハのフォーデ様の元へ戻った。


執務室に入るなり私は淑女の礼をして、フォーデ様の前で謝罪した。


「禿げは病気ではありません…と暴言を吐きましたが立派なしっかりとした重篤な病だと今は認識した次第であります。以前は御心を抉る発言を致しまして失礼致しました」


フォーデ様は久々のなぁにぃ?みたいな変顔をしてから


「どうしたのですか?偉く殊勝なことを言ってますね…」


と思いっきり疑いの眼差しで私を見てきた。私は、ヒルデ様に貰った『パンフレット』をフォーデ様に差し出した。


「こ…これは…『薄毛に悩む世界中の紳士の皆様へ 信頼と実績の当医院がご相談から施術、そして術後の指導まで懇切丁寧にお世話させて頂きます。さあもう悩まないで♥あなたからのご相談に真摯に対応させて頂きます。完全予約制で個人の秘密は厳守します。まずは薄毛外来にお越し下さい』……何だと?」


しまった…ダイレクトに禿げ禿げと煽ってしまったかな?もう少し説明をしてから目立たない所で袖の下からソッ…とパンフを渡せばよかったかな?


震える手でパンフレットを見詰めていたフォーデ様は、ちょっと目頭を押さえている。


「妃殿下……」


「はい…」


「無理を承知でお願い致します」


「何でしょう?」


「この医院に予約を入れて…付き添って下さい」


「…ぇえ…」


何故私が付き添わなくてはならんのだー!と断ってやろうとしたら、エイシュリットが頼む頼む~という懇願の魔質をまた向けてきた。


私は子犬攻撃を仕掛けてくるエイシュリットを横目で睨みながら


「ちょっとした疑問なのですが、いいかしら?」


とフォーデ様に聞いてみた。フォーデ様は何だ?と聞いてきた。


「付き添いは兎も角、予約は何故私がしないといけないので?」


フォーデ様はやけに鋭い目で私を見てきた。何だよ?


「私が直接予約をしたら私が禿げだとバレるじゃないですかっ!」


誰にバレるというのか?医術医の先生か?もしかして予約をした時に、応対してくれた(来院当日も居るであろう)可愛い看護師さんに身バレしたくないのか?そもそも医院の受付や助手が可愛い看護師さんかどうかは知らんけど?


めんどくせぇ…運動神経ミジンコレベルのくせに、プライドだけはマンモス級に高いから上から上からでやりにくいわ……


仕方なしに『パンフレット』に載っている『ゲタバコ番号』略してゲタ番に外来予約のご連絡をアイノゲタバコ経由で送った。お返事はすぐに来た。


「この問診票と受診者登録の用紙にご記入下さい」


まるで私が看護師さんのようだな、と思いながら送り返されてきた二枚の紙をフォーデ様に渡した。


「明日書いてお渡しします」


「宜しくお願いします。分からないことはお聞き下さい」


ふぅ…やれやれ。思わず肩をトントンと叩いてしまう。世話の焼ける坊や達だ…


翌日


フォーデ様から書き込み済みの問診票と受診者登録用紙を預かり、アイノゲタバコに入れてマジー医術医院へ送っておいた。


その日の昼過ぎに返事が返ってきたのでフォーデ様に知らせた。


「フォーデ様、予約日は今月末になります。20の山の日はご予定は大丈夫ですか?」


私が予約票を見せるとフォーデ様はまた目を鋭くした。


「今月末!?何故そんなに待たせるんだ…!」


思わず胡乱な目でフォーデ様を見てしまう。


「ちょっとー?マジー医術医院のパンフちゃんと読みましたぁ?患者様同士が病院内の診察室でかち合わないように一日の診療時間は限られていて、おまけに予約で常日頃から一杯なのですよ?皆、順番を守ってます。贅沢言わない!」


後でマジー医術医院の先生に聞いたんだけど、予約を入れていても直前でドタキャンも結構あるんだって。恥ずかしくなるのか、怖くなるのか…理由は人それぞれだけど…男の人って繊細な生き物だね。


さてグダグダ言ってたが診察日、当日になった。


しかしクラバッハの銀のアイドルは今…不審者丸出しになっている。


深緑色のフード付きロングコート羽織り、頭からすっぽりとフードを被り口元は黒色のマスクをしている。


「お前…今から暗殺でもしに行くのか?」


アリウム様がやや呆れたような声で銀の暗殺者を見ている。


「煩いっ身元を隠すためだ!」


本当に暗殺者のような鋭い目でアリウム様を見る、虫より弱い銀のアイドル。


はぁ…とエイシュリットが深い溜め息をついた。


「だったら私達が付いて行くのは目立つな…誰か代表して…」


エイシュリットが言いかけた時にフォーデ様が私を指差した。人を指差すな!


「妃殿下でお願いします」


エイシュリットがフォーデ様を睨んでいる。私も睨んでいる。


「突風でも吹いて私の変装が解けないようにしっかり守っておいて下さい!」


そんなつまんねー理由かいっ!


本当に仕方なく渋々銀の暗殺者と私(地味目のワンピース着用)で2人で医術医院に向かうその後を、少し離れてエイシュリット達が付いて来るというというフォーメーションになった。


緊張しているのか知らんが、銀の暗殺者の目付きが異常に鋭くなってしまって本物の暗殺者のように思われているのか、前から歩いて来る人が皆、恐れ戦いて端へと避けている。


おいぃぃ…銀のアイドルよ、あんたが一番目立ってるし!てか、こんなに怪しかったら警邏の人に職質とかされんじゃね?…って言ってる傍からぁぁ!結構格好いい軍服着た銀の髪の……お姉さんだぁヤベェカッコイイ!


一直線に暗殺者に向かって歩いて来る、銀の髪のお姉様とおじさまの2人組の警邏隊の方々。ほら見ろ、職質受けろやぁ。


「失礼…どこかへお急ぎでしょうか?」


銀のお姉様ってば背っ高ーーい!顔ちいさーい! 私は無言を通そうとする暗殺者の前に立って


「すみません、この方めっちゃ怪しいですけど、薄毛外来に向かう姿を人に見られたくない一心でこの姿に…」


と説明した。エイシュリットも心配して近付いて来た。


警邏のおじさんは少し吹き出していた。銀の髪のお姉様はピクリとも顔の表情を変えなかった。


「すまん。私の知り合いでもあるんだ。目立ちたくないと言うのでそのような出で立ちに…」


とエイシュリットが説明を始めた時にその銀の髪のお姉様が


「エイシュリット殿下…何でまた?」


とエイシュリットを名指しして来た。わおっ知り合い?エイシュリットは私とフォーデ様に「早く行け」と言って促したので、そそくさと動き出した暗殺者の後を追いかけた。


私の横に追随してくれたギャッデ(今日は私服)が小声で


「先ほどの警邏の女性、勇者の剣の所持者のルル=クラウティカ大将閣下のお孫さんなんですよ」


と教えてくれた。


「ええっじゃあヒルデ様の…どうりで格好いいと思ったよ!遺伝って最高だね~」


と言っていると『マジー医術医院』に到着した。隙を伺うように…スチャッ…と店内に入って行く暗殺者。(擬態)怪しい動きをするなっ!


…ん?と思ったらマジー医術医院の表の診療内容とか書いている看板を熱心に見ている人が居る。濃い紫色のローブを羽織り、フードは目深に被っている。


もしかして、薄毛外来の患者様か?ほぼ銀の暗殺者と同じ服装なのは薄毛界の常識なのかな?これが外を出歩く時のユニフォームだぁ!なんてね…


「ギャッデッ!ギャッデ…早く来い!」


院内に居る銀の暗殺者が入口まで戻って来て騒いでいる、どうしたの?


「受付の助手の方とお前がやり取りしてくれ!」


……このへっぽこが。


ギャッデが、はいはいはい。と言って中に入っていったので、私も続いて院内に入ろうとした。


その時、急に視界が暗くなった。え?と思った時は紫のローブの中に居た…


視界がくにゃりと歪んだ。うっかりしていた。自分に魔物理防御障壁を張っていなかった…とその時気が付いた。


私の意識はそこで暗転した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ