ナジャガル皇国のアイドル
王太子妃編始まります。
宜しくお願いします
目が覚めると…イシュの綺麗な顔が目に飛び込んだ。良い匂い…男の人の匂いもするけれど、それだけじゃない何か良い匂い。
体を摺り寄せたら、イシュが目覚めたようだ。綺麗な郡青色の瞳がゆっくりと開いて私を見ている。
「おはよ…」
「ん…まだ早いよ?」
イシュはそう言いながらまた瞼がさがってきている。寝ぼけて半眼でもカッコイイって反則だよな。
んん?イシュの手がサワサワ…と私の体を触っている?これは寝ぼけてないよね?
「イシュ…」
「ん…?」
「今日は東の辺境伯の領地に視察と慰問だよね?」
「ん…ん」
まだ触ろうとするイシュを振り払って枕元の魔石に手をかざす。これはいわゆる呼び出し魔石だ。
コンコン…
「入って」
私は薄手のガウンを羽織ると、立ち上がった。ドアを開けてメイドが静かに入って来た。
「おはようございます、アイリエッタ妃」
「おはよう、カリア」
王太子妃になった後もカリアは私付きのメイドのままだ。カリアの後にイシュ付きのメイド、メランサも入って来る。
さて…今日も頑張りますか!
うちの旦那様、エイシュリット殿下22才は寝起きはグズグズしているが、一旦仕事モードに入ると『超絶アイドル王太子殿下』に変身する。
「皆、ご苦労。大事は無いか?」
綺麗な微笑を浮かべて360度隙の無いアイドルっぷりを発揮して背中までアイドルっぽい。言ってて自分でもよく分からないがアイドルっぽい。
「きゃああ殿下ぁ~ん!」
視察先の領地で、元女子のおねーさま達に囲まれても怯むことなく、綺麗な笑顔を振りまいてから馬車に戻る。いつもの彼のルーチンワークだ。
「お疲れ様です。次はノエドの製紙工場です」
馬車の中で待ち構えていたフォーデ様と地方役人の方とで、視察先に着くまでに決めなければいけない案件を話し合う。
私は、その内容を聞き取りながら日本語でメモを取る係だ。何故日本語かといえば、日本語こそが『暗号』扱いだからだ。私しか読めないし、秘密裏な案件などは特に暗号にしておかねばいけない。ということでクラバッハの007がここに誕生したっ!
ボ〇ドガールどころかチンチクリーンだけどさ…
馬車の中で到着まで資料を見た後は、下車するとまた笑顔で視察先を移動する、うちの旦那様。
そして現地で領主と役人の方との検討会議の後の懇談会を兼ねた夜会。
何だかね~王子様ってもっと優雅だと思っている人もいるとは思うけど、実は毎日仕事に追われているブラック企業ならぬ、ブラック王宮なのだ。だって週休二日制じゃないんだよ?王子様の仮面を脱げるのは寝る時だけ…これが実情。いつか倒れちゃうんじゃないかと、心配なんだよね…
おまけにうちの旦那様、王太子の政務以外に軍属でもあるので、普通に街に警邏(巡回のお巡りさんね)の仕事を、他の軍部の方と同じスケジュールを組んで普通にこなしているんだよね。
てか、商店街の警邏って…他の国の王子様ってどうしてるのかな?町の人も王太子殿下なのを知ってるのか知らないのか
「あ~らイシュ様。今日も元気だね!」
とかこれまた普通に声をかけてくるらしい。庶民と王族の距離感ゼロだね…そういう感じ、嫌いじゃないけど?
…という感じで、うちの旦那様は日々とても忙しいのだけど…今はちょっと特殊な方向に忙しいみたいだ。
「町に魔獣が出た?」
そう聞いたのは5日ほど前だった。その話をしてくれたのはアリウム様だ。肉まんを作っているので試食して欲しいと、休憩中の彼を王太子妃の部屋に連れて来たのだ。勿論、カリアと護衛のギャッデにも試食を頼んでいる。
「変わった食べ物ですね…」
「中は葉野菜と小さく刻んだモロンのお肉よ」
アリウム様とギャッデはフワッとした生地がすごく気に入ったみたいだ。
「これなら殿下にお出ししても大丈夫かしら?」
とか、和やかに話している時に、エイシュリット殿下も最近特に疲れているから、これは精も付くしいいですね~みたいな話になったのだ。
「魔獣って確か…魔素が濃い地域にしか生息していないって聞いたけど…」
私がそう聞くとアリウム様は頷いた。
「通常は魔素の溜まりやすい高地や山岳…そしてこの世界の中心部に存在するグローデンデの森。大体はこんな辺りに生息しているはずだ…町中に出没するなんて、珍しいことなんだが、3日連続で出没している。最初ははぐれ魔獣だということで処理したのだ」
はぐれ魔獣…はぐれメ〇ルみたいだね。
「次の日も…魔獣が出た。前日とは違う魔獣鳥だった。そして昨日は…魔獣ではなく高密度の魔素が沈殿していると通報があった。皆が魔力あたりになって町の医術医院が大混乱だった」
高密度の魔素…
「魔素が町で発生するなんて聞いたことはないのですが?」
アリウム様は何度も頷いた。
「原因を早く突き止めないとな。軍部の見回りも強化している…今日は大丈夫だといいんだが…」
その夜、夕食を済ませた後…もう寝ようかな~と思っていた時に帰って来たエイシュリット殿下は疲労困憊な魔質になっていた。
「疲れておられますね…」
私は帰るなり抱き付いてきたエイシュリット殿下に回復魔法をかけた。殿下は深い溜め息をついた後、私に口付けてきた。口付けに乗せて治療魔法もかけてあげた。肩も凝ってるみたいだし?
「今日差し入れてくれた『ニクマン』美味しかったよ。夕食の代わりに先程食べたんだ」
軍服を脱ごうとしている殿下の着替えを手伝いながら、首を捻った。さっき?今…深夜だよね?
「夕食は召し上がらなかったのですか?」
「今日、忙しくてさ~少し汗を流してくる」
殿下は下着姿になるとそう言って風呂場へ行ってしまった。忙しい…もしかしてあの魔獣とかが出てきて…の件だろうか?
湯あみから戻って来た殿下に魔獣の件を聞いてみた。
「魔獣?ああ…誰に聞いたの?」
「アリウム様から…」
「そうか…うん、町中に魔獣が出没している。原因は不明だ。過去にこういう事例が無いか調べているがダバッテイン帝国が、資料やら文献やら自分達の滅びと道連れに…かどうかは分からんがほぼ燃やしてしまったので、調べるにしても難しい。今、ガンデンタッテ王国とナジャガル皇国に協力をお願いしている」
イシュはそう言ってベッドに入ると、おいでおいで~と私を呼んだ。イシュに抱っこされながら横たわる。疲れてないのかな?あ、いけね…さっき殿下に回復魔法かけちゃったね。
嬉しそうに細められた瞳が私に近付いて来る。ゆっくりと唇が押し当てられて、イシュの魔力が口から沁み込んでいる。ああ気持ちいい…キスの気持ちよさだけじゃない、魔力の混じり合いの気持ち良さが、体に心地よい痺れをもたらしてくれる。
「アイリ…気持ちいい?」
「うん…」
イシュの金色の髪が私の視界の端でフワフワと動いている。綺麗なイシュの髪を手を伸ばして触れてみると、相変わらず柔らくて手触りが最高だ。
「アイリ、こ~らこっちに集中しろ…」
イシュの手が伸びてきて私の手を包みこむ…疲れ知らずの旦那様に今日も睡眠不足にさせられそうだ。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
今日、私は孤児院にひとりで慰問に訪れている。イシュとは別行動になったのは例の魔獣の増加による警備の強化によるものだ。だが、防御の方は心配はしてないよ?自称クラバッハの007は最高の防御力で皆様をお守りいたしますからね。ウフフ…
孤児院に着くと、最近魔獣が出ますね…なんて世間話を早々に聞かされた。そうこれで7日連続で魔獣が出ている。イシュ達が今日も町の巡回に出ている。何となくだが、今日も出そうな気がしている。
正直、良くない予感は外れて欲しい…
「これは私が子供の時に聞いた話なんですが…グローデンデの森も昔はもっと魔獣が多く生息していて、今よりも町中に魔獣が現れる頻度が高かったらしいですよ」
「まあ…怖い」
「それを考えると今は生活しやすくなりましたね」
「勇者の剣で魔素を祓って頂いたあの『浄化の日』のお陰ですね」
孤児院の先生達の話に出て来た『浄化の日』とは約50年前に行われた、勇者と異界の乙女による魔の森の浄化の事だ。その浄化が行われて人々を襲っていた魔獣達が祓われた記念日を『浄化の日』と呼んでいる。
今の所、勇者の剣の所持者はナッシュルアン様を筆頭に数人の方が所持されているらしいけど、以前にも話題になったとおり、皆様ご高齢で次代の勇者を選んだ方がいいのでは?とカステカート王国の主催で行われている『世界会議』で度々話題になっているらしい。
あ…そうだった。今年の世界会議…私とエイシュリットが出席する予定なんだ。あ~あ、めんどくさ…
そう思いながら、先生が入れてくれたお茶を頂いていると、外で遊んでいた孤児の子供達数人が転がるように室内に走り込んで来た。
「せんせぇ!大変…」
「どうした?」
子供達は窓際に走り寄ると一斉に外を指差した。
「なんか黒いのがいっぱい飛んで来るの!」
「鳥かな?でも黒いっ」
先生方と一緒に私も窓から外を見た。子供達が指差す方向…雲の切れ目に…確かに何かが空を飛んでいる?
「何か…飛んでいますかね?」
護衛で私と一緒に同行してくれているグレビューさんの言葉に同じく同行していたルイナーデが
「鳥…にしては大きくないですか?それに飛んで来るの早い…」
と言った時に護衛のギャッデが、小さく
「あれ…イモゲレラドアンキーじゃね?」
と呟いた。イモ…え?そのギャッデの言葉を聞いてカリアと女性の先生がぎゃあっと悲鳴を上げた。
「ギャッデさんっ!よりによって女性の天敵の名前を言うなんてっ!」
「騎士様!?お願いします!その生き物大嫌いなんですっ!寧ろ嫌いな人の方が多いはずです!」
女性の天敵?嫌いな人が多い?もしかして…。
私は猫型『レデスヨジゲンポッケ』の中からイシュに貰った『新装版★超超危険!世界の魔獣害獣大図鑑Ⅱ』の飛行型害獣のイ行のページをめくった。グレビューさんとギャッデが一緒に図鑑を覗き込む。子供達も見たいのか私の近くまで来て図鑑を見詰めている。
「イ…イ、あ…これだ。イモゲレラドアンキー…あ………なるほど、これはアカン。これはGと同系統のとんでもなく凶悪アイツじゃない…っていけない!それがこちらの方向に飛んできているというの!?」
私は再び窓の外を見た。先ほどよりかなり近づいて来ている!?
私はグレビューさんとギャッデの方を顧みた。
「この周辺に魔物理防御障壁を張ります!付いて来て!先生方っ外に居る他の子供達や先生方に声かけを、すぐに建物内に避難するように!」
「はっはい!」
私は護衛のふたりと一緒に外に出ると、呼吸を整えて意識を集中した。
巨大な魔法陣が展開し、周辺に網目のように張り巡らされて行く。
「素晴らしい…」
「すご…」
「さあ、建物の中に入るように指示して!外に居ても大丈夫だと思うけど、視覚的に怖いでしょうし…」
私の後ろに居るルイナーデとカリアは同時に悲鳴を上げた。絶対怖いよね、視界にすら入れたくないと思うんだ。
「…っ!来た!」
「やっばい、イモゲレラドアンキーだぁ!」
「ひぃいいい!」
カリアとルイナーデは恐怖のあまりか地面に伏せている。
黒い大群が羽音を響かせながら、もうすぐそこまで飛んできている。
「飛んでる羽の音までキモい…」
ギャーーーン…バキッ…!
「ひぇ…!」
「ぎゃああ!」
イモゲレラドアンキーが障壁に体当たりしてきた。当たった衝撃で潰れた音と共に落下していくヤツも見えるが大多数は障壁の外側にへばりついた!ひいっっ!障壁の上をゴソゴソ動くなぁ!?
「やめろぉ…透明な障壁の下からあいつらの腹を見る羽目になるなんて…」
思わずブツブツと呟いてしまう。
グレビューさんは障壁の上を這い回るイモゲレラドアンキーを見上げながら
「いやぁ…こんなに大群初めて見ました…」
と吞気な感想を呟いている。その間もカリアとルイナーデは卒倒しちゃうんじゃないかっていうぐらい悲鳴をあげている。そう言えばあなた達、建物の中にいればいいのに何故、外に出ちゃったの?
しかし防御は任せろ!とは思っていたけど、攻撃魔法が全然使えない私だから、この障壁にへばりついたイモゲレ達を只見ているだけになっている。
そう言えば、何故この孤児院を狙い撃ちで飛んできたんだろう…?
疑問は沢山あるけれど、取り敢えず、チラッとグレビューさんを見て
「アレ…殺して来てくれます?」
と聞いたら
「二度とこの剣が使えなくからご勘弁を…」
と、とんでもなく情けないことを言って拒否してきた。気持ちは分かるっ!分かるんだけど護衛だろ?じゃあ何だ?イモゲレ切る方が人間切るより嫌ってことか?血糊よりイモゲレの体液の方が気持ち悪いってことか?
おえぇぇぇ…イモゲレラドアンキーの体液想像しちゃった。おええぇぇ…
でもマジでどうしよう?ついついイモゲレのお腹側の形ってあんなのなんだ~とか、うえっ足って小さい突起がいっぱいついている!とかイモゲレを観察して時間が過ぎて行っている。その内に、孤児院の先生達や子供達まで外に出てきて、障壁の上を這い回るイモゲレに奇声?や歓声を上げている。ちょっとした害獣魔獣ショー状態だ。
そうこうしている間に誰かが通報してくれたのか、領主様の私兵と魔術師団の師団長達が血相を変えて駆け付けてくれた。
助かった…這い回る様子を見てるだけ状態で何も出来なかったのでね、守りは完璧だったけど。
城に帰るとエイシュリット殿下は留守で、銀の悪魔ことフォーデ様に散々嫌味を言われた。
「何故、ギャッデとグレビューを障壁の外へ置いておかないのですかっ!あいつらにイモゲレ…ソレを始末させればよかったでしょうが!?いいですか?王太子妃たるもの常に状況判断を的確に……」
ええぇ?腹黒アイドルの考えることはえげつないなぁ~そりゃ私だって障壁の外にギャッデとグレビューさん置いてみようとはしたけれど、本人が拒否したもんよ?私はグレビューさんの名誉の為に情けない真実は闇に葬ってあげるけど?
そして夜、帰って来たエイシュリット殿下には怪我の心配をされた。
「本当に大きな怪我はなかったんだな?」
「ありませんよ。私、守りだけは完璧なので~何度も言いますが、国境の小競り合いの時に張っていた障壁…私が張ったんですよ?綻びとかありましたか?」
私がそう言うと、まだ何か言いたげだったイシュは口を噤んで
「あの障壁は素晴らしいものだった」
とブツブツと言っている。
「確かに防御だけしか私は使えませんがね~」
と言ってその日は終わったのだが…翌日、ナジャガル皇国から魔獣大量発生について…ということで向こうの魔術師団の方と軍部の方が急遽来訪されることになったみたいだった。
その緊急の軍事会議の後、ナジャガル皇国の現役アイドル(未来様より)ナジャガル軍第三部隊、副官レイジ=デッケルハイン中将閣下、御年23才が少しくせ毛の黒髪をなびかせてエイシュリット殿下と一緒に私にご挨拶に来られた。
「どうも初めまして~雲井 玲司です」
え?今…何と言いましたか?クモイレイジと聞こえましたが? ナジャガル皇国の中将閣下のそれはそれは美しいお顔を見上げてポカンとしていると、さらに畳みかける様にクモイレイジ?さんは話し出した。
「少し前にナジャガル皇国に表敬訪問でエイシュリット殿下とアイリエッタ妃が来られた時に、私ちょっと里帰りしていまして国を留守にしておりましたので、今日お会い出来るのを楽しみにしていたのです」
「クモイレイジさん?」
『はい、空に浮かぶ雲に井戸の井、玲は王偏に命令の令で宮司さんの司です』
日本人の名前の説明の仕方まんまじゃん!てか今めっちゃ自然に日本語で喋ってた!
「日本人っ!」
『はい、日本で戸籍もありますよ?因みに異世界人とのハーフになりますね。母親が異世界人で父親がこっちの世界の人です』
私が雲井 玲司さんと日本語で会話をしているとイシュが、会話に割り込んできた。
「それ異界語?私は分からないのにぃ~」
雲井さんは騎士の礼をされてから「失礼しました、殿下」とニッコリと微笑まれた。
「兎に角ですね、当時勇者の剣を振るった俺の伯父やジジイ殿下方や大将閣下の話はもう老いぼれてて要領を得ないので直接の会話は断念して、保管していた資料だけをお持ちしました」
雲井さん何気に辛辣…皇族の方もけちょけちょだ…
しかも雲井さんと呼ぼうとしたら
「レージと呼んで!」
と言われたので
「玲ちゃん」
と呼ぶと
「何それ!滾るわ」
と言われた…ナジャガルのアイドルもキモイのか、色々と幻滅だわ…
という訳で、イシュと玲ちゃん…ナジャガル皇国との合同で魔獣の発生源と思われる原因を探してみることになったそうだ。
因みに玲ちゃんこと、レイジ=デッケルハイン中将閣下は高校生まで日本人として、あちらで生活しておられたそうだ。
「就職はナジャガル皇国でって決めてたからさ。因みに俺の上にねーちゃん2人いるけど1人は向こうで、もう1人はこっちで働いてるんだ。怖い事にまだ未婚のアラサーだ…兎に角、怖いから絶対見つからないように、特にアイリちゃんは気を付けて」
小声でそう囁く玲ちゃんは物凄く真剣な顔だった。未婚のアラサーが怖いのか…それともそのお姉様達そのものが怖いのか…見つからないように、ってナニソレ?めっちゃ怖いわ。
数日かけてイシュと玲ちゃんが調べた結果、以前ナジャガル皇国で起こった魔石から魔素垂れ流し事件?良く分からない事件名だけどそれと酷似している状況だということで、ナジャガル皇国からナッシュルアン様をお招きして勇者の剣の力で探すことになったそうだ。
私もナッシュルアン様を見に行きたかったけど、イシュが頑なに危ないからダメだと言うので…勇者の剣の威力?は見れないままだった。
そして…今は大変、変わったお客様?と対面している私です。
「アイリ宜しくね!」
紺色のボブカットの目の大きな小さい女の子が私の前に座っている。助けを求める様に女の子の隣に座る玲ちゃんを見た。
「これが、勇者の剣」
玲ちゃんがボブカットの女の子を指差している。女の子が?もしかして変身系?
「もしかして剣に変身出来るの?」
「出来るよぉ~でも今変身しちゃうとすぐにパパの所に戻っちゃうから~」
パパ?パパって父親のパパ?助けて玲ちゃん~!
「勇者の剣って所持者以外が触れないシステムらしいから。パパって言うのはナッシュルアン様の事」
「な…なるほど」
そしてその勇者の剣の女の子と玲ちゃんが帰ったのと入れ替わりにイシュが大きな魔石…メロンくらいの大きさのものを抱いて戻って来た。
「これが、魔獣を呼んでいた魔石だよ」
「え?これが…って今ここに置いていたら魔獣が来ちゃうんじゃ…」
イシュはおかしそうに笑った。
「大丈夫だ、先ほどのエフェルカリードが祓ったということだ。今は只の大きな魔石だな。これだけで高価な魔道具が数十台買えるとかレイジが言っていたな~」
何だって…?高価な魔道具…ということは日本円にして温水便座=大体車一台だから、約四千万円はするのか!?家が一軒買えるじゃない!
私はその魔石を枕元に飾って寝た。時価四千万円!拝んでおこう!