48 R-一つ、繋がる
折り重なり、息を荒げる二人。
もっともっとと互いを求める欲望は際限なく高まっていき、最早二人掛けのソファ程度では収まらないほどに膨れ上がっていた。
「……ん、……」
「……っ、ぁ……」
啄むようなキスを繰り返しながら、どちらからともなく、その意識は二人の寝室へと向かっていく。
それでも、片時だって離れるのは嫌だから、繋がったまま。
キスをして、抱き締め合って、指を絡ませながら、ソファから身を起こす。
ふらふらと踊るような、けれども熱に浮かされた足取りで、ゆっくりと立ち上がって。
さっきから腰がじんじんと甘く疼いて、自分の身体も上手く支えられないものだから。代わりに相手の身体を支えに、互いにもたれ掛かり合いながら、少しずつ歩を進める。
その間にも、口付けは止まらない。
「はっ、はぁっ、ん、むぅっ……」
「……ん、ん、……んぅ……!」
押し付け合った唇が、溶かされてしまったかのようにふにゃりと形を変え。その内側、もっともっと熱の籠った口内では、舌と、唾液と、火傷しそうなほどの吐息が、呼吸の続く限り絡み合う。
離れては架かる銀糸の橋が、だらりと垂れて二人のデコルテを濡らし。
それを追いかけて、先のお返しとばかりに華花が、蜜実の鎖骨へと顔を埋めた。
「んっ、いいよ……わたしにもっ、あと、付けてぇっ……!」
むしろ、付けるまで離さないと言わんばかりに、蜜実は左手で華花の頭を押さえつける。
「あむ、はぐっ、んんんぅぅぅぅっ……!」
「あぁ、ぁっっ、そう、もっとぉっ……!」
鎖骨を噛み、歯型を刻みながら、舌でなぞり、そして吸い上げて。
ちゅぅぅぅっと音が聞こえるほどの強さで、華花は、蜜実の左の胸元に痕を付けた。
「えへへぇ、これでお揃いだねぇ……」
自らに付けられた華花の印を、愛おしげに指でなぞりながら蜜実は、右肩まではだけたままの華花の胸元へと視線を投げる。
二つの噛み痕は、まるで共鳴するかのように、じんじんと甘く疼いていて。
それを少しでも近付けたくて、二人はさらに身体を押し付け合った。
互い違いに足を絡ませて、服越しでもへその感触が分かるくらいにまで、お腹をぴったりとくっ付ける。
背は華花の方が高いけれど、その膝に半ば跨るようにして蜜実がもたれ掛かっているものだから、二人の目線はほとんど同じ高さにあった。
気が付けば、寝室の扉はすぐ目の前に。
けれども勢い余って、華花はその背中を、扉のすぐ横の壁へと打ち付けてしまう。
「んっ、あぅっ……!」
壁と蜜実に挟まれて、僅かに感じる圧迫感さえも、今の華花にとっては心地良い。
「華花ちゃんっ、あむっ、ん……!」
華花の首へと両腕を回し、甘えるように全身を擦り付けながら、蜜実はその唇を幾度となく貪る。
その豊満な両胸がふにゃりと形を変え、しかし、華花の控えめなそれを押し潰すように密着して。
押し付けて、押し付けられて、それが気持ちいい。
……けれども、どこか、物足りない。
こんなにも、心臓の鼓動すら伝わってくるほどに、隙間なくくっ付いているというのに。
もどかしい。切ない。もっと、もっと。
そう渇望する本能の赴くままに、蜜実はシャツの端にその手をかけた。
「もぅ、服、じゃまっ……!」
少しでも身体を離すことが嫌で、下半身は絡み合わせたまま、上の服を乱暴に脱ぎ捨てる。汗と熱の残り香を孕んだまま、白いシャツは床へと放り出され。
「ほらぁ、華花ちゃんも、脱いじゃお……?」
口調は優しく。けれど、その手は有無を言わせずに。
返事も待たぬまま、蜜実は華花のシャツを、剥ぎ取るようにして脱がせた。
ぱさり、と。
熱く湿った華花のシャツが、蜜実のそれと折り重なるようにして床に落ちる。
そして、その時にはもう既に。
蜜実の双丘を包み込む、レースに彩られた黒く艶やかな下着も。
華花のなだらかな傾斜を覆い隠す、深く淑やかな蒼色のそれも。
互いに、碌に目に焼き付ける間もなく。
二人は再び、身体を押し付け合っていた。
「あはぁっ……、っ……華花ちゃん、すっごく熱い……!」
先程よりも明らかに、隔てるものは薄くなり。
外気に触れ、冷まされるはずのその火照った柔肌は、けれどもますます、熱を帯びていく。
互いの熱量を、ぶつけ合い、擦り込み合い、混ぜ合わせるようにして。
「蜜実だって、溶けちゃいそう……、んっ、ちゅ……」
今度は華花の方から口を寄せ、蜜実の豊かな両胸の柔らかさと共に、その紅く濡れた唇をも貪欲に味わおうとする。
それと同時に、露わになった背中へと手を回し、その細く白い指で、それ以上に白く滑らかな柔肌を愛撫した。
いつかのお風呂場でされたように。
あの時の、指を這わせられ震えた快感を、蜜実にも知ってほしかったから。
「ん、ふぁぁっ……!それっ、すごい、ぃ、ぞくぞくするっ……!」
背骨を指でなぞられ、とんとんと優しく叩かれるたびに、蜜実は蕩けた嬌声を上げる。
キスの合間から洩れる小さな喘ぎが、ぽたぽたと零れ落ちる唾液と共に、華花の胸元へと沁み込んでいった。
そうやって、右手で蜜実の背を愛でながらも華花は、逆の手を徐々に徐々に下へと滑らせていき。
快感に反り返った背骨の終着点で、ズボンのふちに手をかけた。
「ぁ……」
くい、と優しく引っ張るその指先に誘われるようにして、蜜実は押し付けていた腰を少し浮かせる。
言葉もなく、しかしシャツを脱いだ時とは反対に、優しくゆっくりと。
小さな衣擦れの音を鳴らしながら、まずは蜜実のズボンが、床へと落とされた。
「……ん……」
すぐさま続いて、華花のそれが。
蜜実の手でするりと脱がされる。
まるで影か、水溜りのように、二人の足元に布地が折り重なっていて。
再び絡ませた両足に感じる、湿った肌と下着の感触が、ついに、二人にとっての最後の一押しとなった。
「……ぁんっ、っ……んっ……!」
肌と肌とを擦り寄せ合い、唇を合わせながら、華花と蜜実は、横手で寝室の扉に触れる。
華花の右手と蜜実の左手で、包み込みようにしてドアノブを握り。
絡み合う舌の動きに合わせて、回す。
開かれたドアの向こうは暗く、じんわりと、夏の夜の熱気が漂っていて。
「ん、ちゅっ、ぁむっ……!」
二人は繋がったまま、離れることなく、転がり込むようにして闇の中へ。
少しして、ぱさりと、布切れの落ちる音が。
一つ、二つ、三つ四つ。
「ん、蜜実ぃっ、――」
「っ、華花ちゃん……――」
次いで暗闇に響いたのは、二人がベッドに倒れ込む音だった。
◆ ◆ ◆
「その……しちゃった、ね……」
「しちゃったねぇ、最後まで……」
……幾刻かの後。
二人はベッドの上で、手を繋いで横になっていた。
部屋は変わらず薄暗く、けれどもその暗闇に慣れ切ってしまった二人の目には、シーツに包まる相手の未だ赤みが残った顔がよく見えていた。
「これってあれかな……その場の勢いで、とか、ひと夏のー……みたいな」
「そういうやつに、分類されちゃうのかなぁ……」
ただのリアル祝勝会、それだけだったはずなのに。
その、ただのパーティーをするだけで、こうも自分を抑えきれなくなってしまうだなんて。
華花も蜜実も、思ってもみなかったのである。
でも、だからこそ。
「あ、あのっ!」
そんな当たり前のハレの日に溢れ出してしまうくらい、この気持ちは本物だから。
「ちゃんと、責任、取るからっ」
華花は、そう宣言する。
穏やかに揺蕩う、黒い瞳を見据えながら。
「……うん、わたしも。華花ちゃんのこと……ずぅーっと、離さないからね」
言葉の通りに、蜜実は繋いだ左手をぎゅっと握りしめ。
「ふふっ……」
「えへへぇ……」
甘く絡み合ったその指は、紅く紅く、染まっていた。
次回更新は3月28日(土)18時を予定しています。
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