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百合乃婦妻のリアル事情  作者: にゃー
春 百合乃婦妻はゆるゆると
326/326

326 VR-ちょっとだけ、未来の話


「――設定……よし」


「準備おっけー」


 華花と蜜実が百合園女学院大学部に進学してから、早くも一か月ほどが経過していた。


 入学式?

 着慣れないスーツは無事、その日の夜を盛り上げるコスプレになった。

 

 新入生歓迎会?

 (わたし)たち付き合ってるんでアピールをしつつ一次会で即帰宅。


 講義選択?

 必修:面白そうなやつ:未代・麗と合わせたやつを3:3:4の割合で即決。


 サークル活動?

 あらゆる勧誘を謹んでお断り。



 こうして大学部一年次、初手から講義以外ではほとんど人と絡まない即帰宅スタイルを構築。はやくも学部学科内で、一学年に一定数は存在する「講義とかは真面目に出てるけど普段何やってるのかはイマイチよく分からないヤツら」ポジションを確立していた。

 まあ、お互いを中心に世界が回っているかのような意識は元来のものであり、更に言うなら婦婦揃って根は生粋のインドアちゃんである。それを知っている高等部時代からの友人知人らにしてみれば、二人の即帰宅スタイルは特段珍しいことでも無いのだが。


 実のところ華花と蜜実には、大学での時間以外でやるべきことが一つあった。

 生活費の工面という、非常に重要なタスクが。


 かねてより秘めていた、自分たちの生活費くらい自分たちで稼ごうという考え。娘を溺愛している両家両親の方は、高等部生だろうが大学部生だろうが用意すると言って憚らないのだが――実際、向こう数ヶ月分は既に用意してくれていたのだが――、二人としてはそろそろ、少しずつでも自立に向かって行きたいところ。生活費用を全て負担して貰った上での二人暮らしなど、高等部の三年間だけでも贅沢過ぎるほどの贅沢だった。


 しからば、いかにして収入を得るか。

 華花と蜜実はアルバイトの経験もない女学生、お金を稼ぐということに関しては、右も左も分からない。


 しかし、ハナとミツであれば。

 その土台(・・)は既に、十分過ぎるほど出来上がっている。超人気VRMMOのプレイヤーで。本人らの知名度もある。それも生半可なものではなく、これまでのプレイ期間と数々の実績に裏打ちされた、トップクラスの知名度が。


 となれば、収入源として大いに期待できるものが一つ。


「ついに初配信かぁ~」


「流石にちょっと緊張する、かも」


 情報を提供したり、写真集を頒布したり、時にはクリップ映像を提供したり。大型大会やらイベントやらで注目を浴びたり。そういうことは今までもやってきた。

 けれども、完全に自分たち主導での配信――[HALLO WORLD]実況生配信などというのは、初めての試みで。今までのそれとは似て非なる独特の緊張感が、二人を静かに包み込んでいた。

 何より、生活費がかかっているのだから。今までのゲーム内でのアレコレとは、自分たちの現実(リアル)への影響が段違いである。


「なに喋ればいいんだろうねぇー」


「台本とか作っとけば良かったかな」


 こうして、大学生になってから幾度目か迎えた週末、講義の無い今日この日に、二人は着々と進めていた『配信で生活費稼ごう計画』を遂に実行する……とは言ってもまあ、場所はいつも通り、リビングのソファの上なのだが。すっかり暖かくなった時節、窓の外に見える空は、ほどほどに晴れといったところ。


「あーでも、最初の挨拶が決まってるのは良いよね」


「だねぇ」


 一応二人には、使いどころは少なかれども、大勢の前に出る時お馴染みの名乗りがあったりはするのだ。


 先んじて配信用のSNSアカウントも作っていたし、そちらが今日に至るまでに拡散されまくり、もうすぐ始まる初配信に向けて多くの[HALLO WORLD]ユーザーや『百合乃婦妻』ファンが待機していた。

 ゲームと連携したアプリによって、二人はいつも通りにハロワを遊ぶだけで、誰もがデバイス越しにそれを鑑賞できるようになる。勿論、視聴者側は随時コメントを送ることもできる。そんな、テンプレートなゲーム配信。


「視聴者さんのチャットってどんな感じなんだろ」


「もう開かれてるんだよねー?ちょっと見てみよっかぁ」


 事前に告知している配信時間まであと少し。先んじて雰囲気だけでもと、まだゲームにはログインせずにチャット欄を覗いてみる二人。素人目にも分かるほどに、そこは多くの視聴者たちの声で賑わっていた。



〈もうすぐ〉


〈期待の大型新人来たな……〉


〈新人(プレイ歴八年)〉


〈新人(現状唯一『完全同調(フルトランス)』習得済み)〉


〈新人(現状唯一天人種を倒した人類)〉


〈新人(バディカップ殿堂入り)〉


〈今年の第七回もエキシビジョン勝ってたし〉


〈ウタ・カオリペアがしれっと連続優勝してたのも大概だと思うんすがね……〉


〈あの二人はPSゴリラだから……〉


〈リアル超人説出てるからな……〉


〈てかこの婦妻は配信とかしないもんだと思ってたから、めっちゃ楽しみ〉


〈まあ『フリアステム』とか行けばいるからな、普通に〉


〈そういや教祖は?この晴れ舞台にあの人が静かなのおかしくね?〉


〈自室で瞑想してるらしい〉


〈草〉


〈いぇーい『一心教(The one's)』のみんな見てるぅ~?〉


〈じゃあ鍛冶女神は?あの人も大概だろ〉


〈店閉まってたしやっぱ瞑想してんじゃね?知らんけど〉


〈草〉


〈俺たちもするか、瞑想〉


〈やるかぁ……〉


〈あーしもやる!〉


〈なんかいない?〉



 等々。


「何で瞑想……?」


「さぁ~……?」


 実のところ、自分たちで遊ぶばかりで、ゲームの実況配信はあまり見たことがない華花と蜜実。コメント欄のノリは正直よく分からないが、まあ、賑やかそうだしこれで良いのかな……?と緩く受け入れていく。


 緊張はする。するが。

 やること自体はいつもと変わらない。あの広いセカイを適当にぶらついて、その都度その都度、二人でやりたいことを楽しむだけ。誰が見ていようがそれは絶対に揺るがない。

 エイトからもいつも通りでいれば良いと太鼓判を押されていることだし。ヘファは至極複雑な顔をしてはいたが……自分たちの生活の為と言われては、さしもの彼女も引き下がらずにはいられなかった。


「「――お?」」


 と、ここで配信内でのチャットではない、華花と蜜実個人へと向けたメッセージが届く。送り主は……未代。


〈配信楽しみ!『ティーパーティー』みんなで待機してる!がんばれ~〉


 短く素直な激励の言葉に、また一段、二人の肩から力が抜ける。

 こうして友人らも見守ってくれていることだし、変に気負う必要はない、はず。


「とか言ってる間にお時間ですがー」


「それじゃ、やってみようか」


 軽ーいやり取りと共にヘッドセットを装着し、ゲームを起動。

 肩を寄せ合いながらソファに沈み込めば、慣れ親しんだセカイでの、新たなゲーム体験が始まる。


「――えー、はい。これもう始まってるんだよね?」


「だと思うよぉ」


 来た始まったとチャット欄も盛り上がり、物凄い勢いで下から上へと流れていく。

 けれども結局、ログインした二人の視界に最初に入るのは、いつだって目を引き寄せられる互いの顔で。

 三人称モード――婦婦の斜め後ろに設定された視聴者視点からは、そんな彼女らの声なきいちゃいちゃ(やりとり)が良く見える。


「どうもー、『百合乃婦妻』の婦の方、ミツでーす」


「妻の方、ハナです」


 まずは、ころころ入れ替わる婦と妻の挨拶。

 これより続くは、自他共に馬鹿婦妻(バカップル)と認めて止まない二人の少女のゲーム体験。

 二人を良く知る友人たちも、神と崇める者たちも、廃人としか知らない者たちも。この配信を通して、もっともっと知っていくだろう。普通なところもおかしいところも、その人となりの色々を。


 勿論、全てとは言わない。華花(ハナ)の全てを知るのは蜜実(ミツ)だけで、蜜実(ミツ)の全てを知るのは華花(ハナ)だけなのだから。しかしそれでも後ろから、傍観者という距離感で、目の当たりにするのだろう。



 等身大な二人のことを。

 即ち――百合乃婦妻のリアル事情を。


 今回のお話でひとまずの完結となります。拙い作品ではありましたが、最後まで読んで頂きありがとうございます。皆様のおかげで完結まで書き切ることができました。

 一応今後の予定としましては、配信要素を絡めた大学部編や未代視点での高等部生活を描いた「陽取 未代のハーレム事情」なんかも書いていきたいとは思っているのですが……どちらにせよ年単位で先のことになってしまうと思うので、ひとまず未定とさせて頂きます。

 最後に、繰り返しになってしまいますが、本作を読んで頂いて本当にありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 配信者!しかも百合乃妻婦…大型すぎる新人ですね……一度は配信にお邪魔してみたいですね。 [一言] 完結おめでとうございます!!ずっと追っていた作品なので、寂しい気持ちもありますが、新作をい…
[良い点] ユリ好きにとって終始関係が濃かった点 [一言] ひとまずの完結、おめでとうございます。正直終わるのは寂しいです。でもまぁ年単位に次話もでるので気長に待とうと思います。次話や次作に期待してい…
[良い点] 完結お疲れ様です! 気分はゲーム配信をみてる視聴者だったのでw配信を始める二人にアレ?そっかーと思ってしまいました 番外編楽しみにしています 二人のバイト事情も気になるとこです [一言…
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