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百合乃婦妻のリアル事情  作者: にゃー
冬 百合乃婦妻と冬遊び
320/326

320 V-みんなが頑張ってる時にする話


 おそらく全国津々浦々の高等部三年次の教室がヒリついていたであろう年始しばらくを経て、遂に大学一般入試の日が訪れた――


 ――が、しかし。結局のところどこまで行っても、華花と蜜実にとっては精々、友人クラスメイトらが知らないところで頑張っている日というくらいの認識。多くの学生たちが答案用紙に熱い視線を送っているその瞬間にも、いつもの如くハロワに入り浸っている二人であった。



「――はぁ。全く敵わないわね」


 そんなハナとミツへ称賛混じりの溜め息を贈るのは、今しがた二人にボコボコにされたクロノ。天人種を倒した記念(?)にちょっと摸擬戦でも挑んでみようかと声をかけた次第ではあったが、やはりというか何というか、見事なまでに一方的な蹂躙となってしまっていた。


「少なくとも、正面切っての戦闘ではもう、我々の勝機は薄いかもしれませんね」


 クロノが戦ったということは、当然ながらその嫁 兼 側近二人も共に戦ったということであり。揃って敗れた片割れ――ハンも、主の後ろで参ったとばかりに肩を竦めていた。言わずもがな内心では、上位勢として悔しがってはいるのだが。

 大敗を喫しておきながら特に気にする風でもないのは一人、今日もメイド服の上から白衣を纏ったケイネのみ。


「我らがマスターが敗れる事に思う所はあるけど……まあワタシは元来、戦闘職では無いからね」


 自分自身の戦闘への矜持などは無いに等しい。そんな彼女だからこそ、摸擬戦直後にもあっけらかんと皆に紅茶を振る舞っている。


「まあ?私達は今?」


「人類最強ですしぃ~?」


 『審判(Judgment)』撃破からしばらく経っても、その話題性が衰えることはなく。誰も成し得なかった天使の討伐を唯一成功させたという功績は遂に、『百合乃婦妻』へ人類最強という肩書きを与えるにまで至っていた。勿論、冗談交じり揶揄い混じりの囃し立てではあるが……言われる方としては悪い気はしない。こういうマウンティング芸にも使えるわけであるからして。


「…………」


 時計塔の最上階、ドヤ顔でソファにふんぞり返る友人婦婦に僅かなあいだ黙考するクロノ。そも、前回会った時ですら、師たるアイヴィエッタも込みで挑んでボコられているのだから。ノリにノっている今の二人を、摸擬戦程度でどうこうしようなどというのが間違いなのだろう……と。

 摸擬ではない、つまり何でもアリの実戦なら勝機はあると考えている辺りが、実にガチ勢らしい姿勢であった。

 

「ソロ訓練が難航していた頃が懐かしいわ……」


「ふっ……そんな時期もあったね……」


「ふっ……もう遥か昔のことのようだねぇ……」


 ドヤ顔のまま遠い目をするという器用な顔芸をやってのけるハナとミツ。

 調子に乗り散らかしてるわねこの子ら……とは思っても口には出さないのは、クロノの、巨大クランを統べるリーダーとしての心遣いであろうか。


「あの時散々扱いてあげたお返しを……という訳では無いけれど。かの天使と戦っている最中の胸の内だとか、その辺りを詳しく聞かせてくれたって良いのよ?」


 相手が調子に乗っているからこそ、こちらも気兼ねなく女帝ムーブができようというもの。負けじと踏ん反り返って足を組みながらクロノが言えば、待ってましたとばかりに婦婦が身を乗り出す。あれ程の武勇伝、請われればそれだけ語って聞かせたくなるのが人の性というものであろうか。


 クロノも現場で直接見てはいたが、やはり当人らの口から語られる情報は更に有益なものになろう。近しい間柄だからこそ、広く出回っている話以上の深堀りも期待できる。

 そこを足掛かりに天人種の攻略を、更には『百合乃婦妻』の攻略を――などというクロノ側の考えを察してはおれども、婦婦とも語る口は止められない。


「まずねぇ、最初の時点で確信はあったんだよねぇ」


「『完全同調(フルトランス)』できるって確信が」


 なんかちょっと鼻に付く語り出しから、やがては身振り手振りも交えて盛り上がる活劇の一部始終。ケイネの淹れる紅茶を幾度かおかわりするほどに。しばらくのあいだ、五人はその話で盛り上がっていた。




 ◆ ◆ ◆




 そして翌日。

 複数日に分けて行われる大学入試は今日も続き、ハナとミツはやはりハロワに。


「私達が言うのもなんだけど」


「二人はこっちで遊んでていいのー?」


 今日の舞台は『アカデメイア』の『ティーパーティー』拠点、駄弁り相手はリンカと白ウサちゃんの二人であった。


「無問題っす」


「無問題だね☆」


 恋人友人が試験に励んでいる中で、という婦婦の問いにノータイムで頷く獣人組。

 一応二人共、一日目こそ神妙な顔付きで自宅からエールを送っていたのだが。ハロワにインしなかった日はほぼ確実に行っている夜の『ティーパーティー』通話会で、あまりにもいつも通りに雑談を始めた未代と麗の姿に(あ、これ大丈夫なヤツだ)と確信した次第。


「「まあ、それもそっか」」


 ハナとミツも、聞いておきながらあっさりと納得していた。


「……いや自分は、来年は我が身って考えると怖いっすけど」


「「がんばって」」


「がんばっ☆」


 悲しいほどに心の籠っていない激励に、リンカは別の意味で不安になってはいたが。ここに居ない二人であれば、もっと親身になって考えてくれるかもしれない。


「……まぁ、まぁ、いいんすけど」


 という訳で、ぐちぐち言うコトでもあるまいと軽く流すリンカ。丁度その横で白ウサちゃんが、そう言えばとばかりに次の話題を持ってくる。


「アレアレ、前に相談したアレ、案が一つ出ててね?☆」


「アレって言うと……」


「……アレかぁー」


 思い出されるのはクリスマス前のお泊り会、眠りこける未代を囲みながらしていた話。未代の初めて(・・・)を三人でどう分け合うかというアレ。


「いい感じに三分割できたの?」


 問うハナへ白ウサちゃんは得意満面なドヤ顔を向けており。感心しているような変人を見るような表情をしているリンカを尻目に、高らかと宣言した。



「――1、キス!2、セッ○ス!!3、仮想世界でのキスとセ○クス☆☆!!!」



 ピーッという規制音と共に。


(セッ)


(せっ)


 いきなりストレートに言われるとちょっとビビる……というのはまぁ、置いておいて。


「……それ、一つ余らない?」


 とりあえずのツッコミどころを、ハナが口にした。

 確かに成人さえすれば、そういったR-18的なフルダイブVRも選択肢には入ってくるし、そこでのアレコレを現実世界でのソレと別枠でカウントするというのもまあ、分からなくはないのだが。

 初めて(・・・)を三人で平等に分け合いたいという話だったはずなのに、その初めてが四つになってしまっては分配できないのではないかと。


「バーチャルな方はこう、諸々全部セットで良いんじゃないかなぁと……というかっすね、見ての通りウサちゃんさんが仮想(そっち)の方にめちゃ乗り気で」


 そもそも、天啓を得たりと仮想世界でのアレコレを持ち出してきたのも白ウサちゃんであり。麗と市子が現実世界でのアレコレをこそ重視しているのに対して、このネット弁慶は「仮想世界でのえっち!!楽しそう!!!」と平然と言ってのける始末。

 他二人にとっては、元より候補にすら入っていなかったバーチャルな部分を卯月(白ウサちゃん)が独占しようとも、特に不満の出ようもない。


「あぁ~……まあ良い落とし所……なのかなぁ?」


 そこは自分たちも未知の領域ということで不明瞭ではあるが……しかし当人らが納得しているのなら良いのでは?と、ミツもハナも頷いて見せた。がしかし、今回の白ウサちゃんはどうやら、そんな及び腰を許さないようで。


「で、どうせお二人さんは卒業したらバーチャル○ックスもするでしょ?だからもしヤったらどんな感じだったか教えて欲しいなって☆☆」


(そうきたかぁ~っ)


 具体的なアレコレではなく、こう、所感というか……リアルと比較してどうだったかとか、その辺りを。言える範囲で良いので。というお願いの為に、どうやら今日こうして話をしてきたようであった。


 勿論、婦婦としても興味が無いとは言っていない――いやむしろ、実は興味津々ではあったので、別に良いといえば良いのだが。しかしそれはそれとして、ほんと開けっ広げだなこの人……とは、やはり思わずにはいられない。


「どう?ねぇねぇどうどう☆☆??」


「あの、はい、まあ。別に良いですけど」


 圧に押し負けるような形で、敬語混じりに頷くハナとミツ。

 友人らが頑張ってる時間にこんな話をしてていいのかなぁとか何とか、流石の婦婦も思わずにはいられなかったが……兎角、今日の四人の雑談は、そんな感じで益のあるような無いような空気感で進んでいき。


 その日の夜、ログアウトした婦婦はいそいそと、成人カップル・ふうふ向けVRについて調べていた。


 お読み頂きありがとうございました。

 次回更新は2月22日(水)12時を予定しています。

 よろしければ、また読みに来て頂けると嬉しいです。

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