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百合乃婦妻のリアル事情  作者: にゃー
冬 百合乃婦妻と冬遊び
311/326

311 R-お泊り会 in 百合乃家(仮)2nd 夜の話


 華花と蜜実がハロワでの結婚語り。

 惚気混じりのそれは当然ながら長くなり、終わる頃には熱心に聞いていた四人の内一人が脱落していた。


「……すぅ……」


 だいたいこういうときは真っ先に寝落ちする女、陽取 未代である。

 別に話がつまらなかったなどという事はないのだが……むしろ、一番熱心に聞いていたまであるのだが……


 穏やかに眠る未代の顔を見ながら、婦婦の脳裏に浮かぶのは、まだ三人との交際を逡巡していた頃の彼女の言葉。現実世界では重婚ができない――故にこそ三人共という選択を取れずにいた彼女が、何だかんだと言っても、仮想のセカイでのそれに興味を示さない訳がないのだと。


 話をしていた最中の華花と蜜実には、未代の表情は傾聴というよりも、聞きながら色々と考えこんでいるようにも見えて。今日一日のパーティー疲れと、その思考のさざ波が合わさって、或いはいの一番に夢の世界へと旅立ってしまったようにも思えた。


 ……ちなみに麗などはほとんど拝みながら聞いていたが、これもまあいつもの事である。今はもう、すやすやと眠る未代へと優しげな視線を向けており、流石は信者モードと友人モードの切り替えの早さに定評があるお嬢様と言ったところであろうか。


「……未代ちゃんも寝ちゃったし……」


 そうして、幾分かトーンの落ちた雰囲気の中で。

 眠る未代を後ろから抱きかかえる姿勢のまま、卯月が小さく囁く。自分たちもそろそろ……とでも続くのかと思い、ちらりとデバイスを見やる婦婦。日はとうの昔に跨いでおり、眠気が無いといえば嘘になる。



「……猥談でも、しよっか……」



 全然違った。

 むしろ、夜はこれからだぜとでも言わんばかりの顔をしていた。


 この人もだいぶ開けっ広げになってきたなぁ……と目を細める蜜実の視界には、薄暗い中、もうすっかり慣れた様子で未代の両手をにぎにぎしている麗と市子。

 止める様子もない……どころか、むしろ婦婦へと真っ直ぐに視線を向けているものだから、ここらで二人も何となく察する。


 つまり、未代がらみの話だな、と。

 となればまずすべきは警告かと、華花も声を潜めながら未代へと視線を向けた。


「……一応、また寝たふりして聞いてるって可能性も……」


「それならそれで……そういうプレイっぽくなるから、おっけー……」


 付き合っているが故の余裕なのか、何なのか。

 全く動じない物言いに、『夜の月宇良 卯月無敵説』が婦婦の脳内に浮かび上がる。


「そうは言っても、そのぉ……あんまり具体的なエピソードとかはー……」


 蜜実も華花も、自分たちの情事を事細かに話すつもりはない。それは誰にも知られたくない、自分たちだけが知っているべきことなのだから。そしてまた、あちらさんの話を具体的に聞こうとも思わない。友人のリアルな性事情を耳に入れるのは、流石にちょっと気恥ずかしいわけで。


 猥談というド直球な言葉に、珍しく少し及び腰な婦妻。しかして、この命題の主導権を握る卯月は、安心させるようにへらっと笑う。


「――大丈夫。私達まだ、ちゅーもしてないから……」


「あ、そうなん……そう……」


 いや、それはそれでどうなんだと。ソファで団子になったまま、婦婦の手のひらは綺麗な半回転を見せた。


「むしろ、それこそが主題とも言えまして」


 ここらで麗も会話に参戦。寝ているように見える未代へ柔らかな視線を向けながら、卯月の言葉を補強する。市子もそれで分かるのかどうなのか、未代の手首を取り脈拍を図っている。

 三人揃っての示し合わせた流れからも、やはりこの話をすることを事前に取り決めていた様子が伺えた。


「えーっと……どうやってそういう雰囲気に持っていくか、的な……?」


 想像以上に清い交際をしていたらしい友人らの、今回の相談事は……と考えれば、まあその辺りが思い浮かぶだろうか。まーだ太ももの上でゴロゴロ甘えている蜜実の喉元をくすぐりながら華花が問えば。しかし返ってきた反応は、首を斜めに振るような曖昧なもの。


「それも、あると言えばあるんすけど」


「わたくし達にとっては、それ以上に重大な問題がありまして……」


「「……?」」


 わたくし()、つまり三人が故の問題。鏡写しのように首を捻りながら、婦婦は少し考え……そしてすぐに思い至る。


「あ、順番とかー?」


「そう、それ……」


 困ったように頷く卯月。その体の揺れに合わせて、長い黒髪がひと房、未代の胸元へと下りていった。


「私達の初めては、未代ちゃんが貰っていく……でも、未代ちゃんの初めては……?」


「……まあ、確かに」


 三人の初めての相手は未代でも、未代の初めての相手は三人の内の誰か一人だけ。そう考えれば確かに、キスもそれ以上もおいそれとはできないもので。三者で協議し、またその雰囲気を察してか、未代の方も現状、あちらから迫ってくる様子もない。


 やはり一対一で付き合うのとはわけが違うのだなぁと、婦婦も友人(たにん)事ながら考えさせられる話であった。


「一応、最初は三人一緒に相手して貰う……ってのも考えたんっすけど……」


「やはり未代さん以外にアレコレ見せるのは、抵抗がありまして」


 互いを同志と認め、もはや友人という言葉だけでは言い表せない関係にある三人ではあるが。しかしそれはそれとして、諸々見せる事ができるのは、やはり意中の相手のみという心持ち。


 だからこそやはり。

 例え三人で愛しているのだとしても、未代との情事は一対一で。その線引きは遵守し、その上で可能な限り公平に。

 自身らが瑕疵なく関係を維持していく上で、公平性こそが最も重要なファクターであるのだと取り決めているが故の悩み事。


 勿論、可能な限り三人ないし四人で解決していきたい事ではある。しかし何分、何もかもが初めてなものだから、どうしたって行き詰まってしまう時もあり。そういうときに何だかんだと聞き手になってくれるのが華花と蜜実の良いところだと、これに関しては四人全員が思っている事であった。

 ……あくまで聞き手であって、必ずしも真っ当な解決策を授けてくれるとは限らない……と言うのもまた、全員の共通認識であったが。


「一応、今出てるのだと……分割案がある……」


「「ぶんかつ」」


「先輩の初めてを種類分けして、三人に振り分けるって案っす」


「「ふりわけ」」


 例えばキス、例えば最後まで。

 ぱっと出てくる「初めて」なんてそんなもので、しかし麗、市子、卯月は三人いるのだから、あと一つ何か、これらに居並ぶ「初めて」が必要になる。その辺りは一通り堪能済みであろう婦婦のえっち――もとい英知を借りようと、今宵こうして打ち明けた次第。


「……私は所詮、ただの耳年増だから……丁度良い区切り(・・・)が分からない……」


 この手のものに興味津々な卯月であっても、所詮は未経験な生娘であり。しかし助言を求められた婦婦の方も、何とアドバイスすれば良いのやら。


「……区切り、って言っても」


 しばらくの間はキスだけで。しかし夏のあの日、夜の勢いのまま、一足に最後までヤってしまった。そんな自分たちに、一連の行為を平等なスリーセンテンスに分割することなど、とてもとても。


「ああいうのは、その……一連の流れが大事というかぁー……」


 まさか母娘プレイだとか。季節のコスプレを添えてだとか。一日履き倒したタイツを味わうだとか。数週間に渡るお預けプレイだとか。そういうマニアックなあれそれを、キスだ最後までだといった甘酸っぱい「初めて」たちと同列に語るわけにも行くまいと。


 自身らの若干アレな遍歴を顧みればこそなおの事、下手な事は言えない婦婦。経験値という点では、間違いなく遥か先を行っているはずなのに。


「「…………お役に立てず、申し訳ない……」」


 義を果たせぬ自身らの不甲斐なさに、ついつい二人も武士(もののふ)めいた顔付きで侘びを入れる。もしも腹を切れと言われたなら、喜んで婦婦剣を取り出した事だろう。


「……っすよねぇ。いや、自分らもだいぶ変なこと言ってる自覚はあるんで」


「あまり具体的に話し過ぎても、その、恥ずかしいですし」


 こればっかりは致し方なしと、市子も麗も苦笑を浮かべフォローする。その真ん中、話題の主幹たる卯月も神妙な顔で頷いていた。


「まあ、分割案に限らず……何か良い感じなのを思い付いたら、教えて欲しい……」


「「あい」」



 ――こうして、猥談と言うにも奇妙なトークテーマを交えたまま、もう少しだけ五人の談笑は続き。やがて一人また一人と眠気に誘われるようにして、気が付けばリビングには静かな寝息だけが残される。


 華花と蜜実は、ソファの上で身を寄せ合って。

 未代は卯月の膝枕で、その卯月は器用に座ったまま、長い黒髪がヴェールのように未代の顔を覆い隠す。右に麗、左に市子が寄り添う形は、眠っている間も変わる事なく。

 翌日も休みなのを良い事に、六人共何の気兼ねもなく眠りこけていた。



 ……ちなみに今回は本当にばっちり寝ていた未代であった。


 お読み頂きありがとうございました。

 次回更新は1月21日(土)12時を予定しています。

 よろしければ、また読みに来て頂けると嬉しいです。

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