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百合乃婦妻のリアル事情  作者: にゃー
冬 百合乃婦妻と冬遊び
310/326

310 P-それらしく誓いを立てる


「――さて。長々と語ってしまいましたが、そろそろ本日の用向きをば」


 持ってまわった言い回しで、エイトが自身の言葉をそう締め括り。元よりやることはそれ一つと、参列者たちも改めて居住まいを正す。


「お二方の結婚の誓いを、ご列席の皆々様に見届けて頂きたく存じます」


 言葉と共にその視線を自身の正面――チャペルの入口へと移し、より一層に笑みを深めるエイト。ゆるりと差し出す右手と共に、両開きの扉がゆっくりとが開かれる。


「それでは、新婦お二方の入場です」


 そして現れる、二人の花嫁。

 左右に居並び、ゆっくりとヴァージンロードを歩きだすミツとハナ。


 純白のドレスを身に纏い、両者ともヴェールで覆われた表情は、精一杯のお澄まし顔。ゆっくりと、一歩ずつ、赤い絨毯の上を進んでいく。


「「…………」」


 基本的にはお揃いを好むハナとミツ。今日この日のドレスに関しても同じく、どちらも大まかなシルエットはAラインタイプで共通していた。普段はあまり見せる事のない肩やデコルテが、ドレスに負けず劣らず白く輝いている。

 ドレスのシルエット自体は、そう珍しいものでは無かったが。よくよく見ればその生地には枝葉、フリルには蔦の紋様が細かく刻まれ、また胸元や絨毯を撫でるスカートの裾先など、要所要所が鳥の翼を模している。

 明らかに、『ヒヨク』と『レンリ』に影響を受けたデザインであった。


 髪型こそいつも通り――ハナはすらりと伸びた長いポニーテール、ミツは緩く背中へと広がるロングヘアのままではあるが。二人共が大輪のカサブランカを纏めた花束を持ち、チャペルのど真ん中をゆるりと進んでいく。まさしく花嫁と呼ぶ他ない美しい姿であった。


 ……あったのだが。


((((……何で帯剣してるんだろう……?))))


 父母四人の脳裏には、どうしてもそんな疑問が浮かんでしまっていた。


 普段はストレージに直接しまっている、剥き身がデフォルトの両刃剣『比翼』と『連理』。それを、わざわざこの日の為に作ってもらった白い鞘へと納め、これまた真っ白い、織り込んだ蔦のようなベルトでもってドレスの腰元に下げている。


 それだけが浮いているような……いや、デザイン的には問題なく調和しているものだから、こんなセカイであっても剣などというものに馴染みがない両親にしてみれば、何とも不思議な装いであった。


 勿論、当のハナミツ本人らは「なんとなくカッコ良いから」という理由で帯剣しているわけで。(ゆかり)あるエイト・ヘファにしてみれば、二人の腰に揺れるその長剣はただただ誇らしく。心は何時でも中学二年生な幼女――クロノもまた、カッコ良ければ万事それで良し。


 そして、居並ぶ長椅子の右端最後列。他の列席者たちには存在すら感知されないよう姿も気配も遮断されている――しかし紛れもなく、開式の瞬間からその場に座していた二人の母娘などは、まあこういうものかと小さく頷いていた。

 片や交友関係が絶無に等しい生粋の変人、片や彼女によって産み落とされ(・・・・・・)て数年の娘とあらば、経験のないこのような場において、目に映るものをそのまま受け入れてしまうのも無理からぬことであろうか。



 兎角そうして、参列した面々が花嫁の装いを目に焼き付けている内に。二人の足はもうヴァージンロードの半ばを過ぎていた。



(お、おぉ~……)


(なんかそれっぽい)



 止まない拍手で自身らを迎える両親・友人らへと二人が抱くのは、そんな月並みな感想であったが。

 ゆっくりゆっくり、隣を歩く嫁(予定)と足取りを合わせて。しかし何分小さなチャペル、さほどもしないうちにハナとミツは、エイトの待つ祭壇の前へと。


 嬉々と……を通り越して最早ギンギンにかっぴらかれた司祭の両目が、居並ぶ花嫁二人を至近に捉える。剣付きのシルエットにも慣れてきた両家両親は、その背中をしかと見やり、ヘファはもう誰の目耳にも明らかに泣いていた。


「――さて。ご参列頂いた皆々様もご承知おきとは存じますが、新婦両名はこの[HALLO WORLD]を遍く照らす至上の女神二柱。故に誓いの言葉とは、ただお二方がお二方のみに向ける言葉となりましょう」


 最上たる二人が、どこの馬の骨とも知れない神とやらの前に一体何を誓うと言うのか。否さ、ただこの場に集まった者の前で、自分たち自身へと誓いを立てるのみ。神々の婚姻をその目で見届けられる幸福を噛み締めるべし。


 ……的な思想が嫌というほど伝わってくる前口上と共に、エイトが二人へと目配せする。


 用意してきた誓いの言葉は、短くもハナとミツが二人で考えた文言。

 お互いに向き直り、まだヴェールは上げないまま、微笑み合って言葉を紡ぐ。


「ミツ」


「はい」


「これからも、よろしく」


「はい」


 銀から金へ、次いで、金から銀へ。


「ハーちゃん」


「はい」


「これからも、よろしくー」


「はい」


 言葉だけを聞けば、何とも淡白なやり取り。

 しかし「はい」と返すだけのその声音に、両者ともがめいっぱいの喜びを乗せているのだと、聞いた誰もが確信する、そんな短い誓いの言葉。


 至近で浴びたエイトなどは、瞳孔が極限まで拡大し完全にキマっていた。


「――では、ヴェールを上げて頂きまして」


 残念ながら、[HALLO WORLD]では口唇接触が禁じられている為、誓いのキスはできはしないが。ブーケを持ったまま、ハナがミツの、ミツがハナのヴェールを上げれば、実はずっと面映ゆい気持ちでいた互いの表情が、何一つ隔てるもの無く視界を埋め尽くす。

 今の二人にとっては、それだけで十分で。


「指輪をここに」


 恐れ多くも一時期に預かっていた結婚指輪――『私達の誓い(エンゲージリング)』を、ストレージから取り出すエイト。全く同じデザインの二つ、宙に浮いたまま恭しく差し出されたそれを、ハナとミツが互いに手に取り。


「どっちが先に渡す?」


「うーん……じゃんけんで決めるー?」


 そこは打ち合わせてなかったのかと誰もが思うやり取りの後に。


「「じゃーんけーん――」」


「「――ぽんっ」」


 恐ろしく気の抜ける掛け声。決着。そして――


「「じゃあ――」」


 指輪の交換が、朗らかに行われた。




 ◆ ◆ ◆




 ――その後。

 挙式も終わり。披露宴というほどでもない、僅かばかりの歓談の場において。


「――ほ、本日はぁ゛……っ……お、日柄も゛良く゛、っ、っ゛……ふ゛、ふ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛……!!!」


(めっちゃ泣いてる……)


(めっちゃ泣いてるねぇ……)


 ギャン泣き状態で行われたヘファの友人代表スピーチは、後々にまでエイトに弄り倒されるほどの惨状を見せていた。


 お読み頂きありがとうございました。

 次回更新は1月18日(水)12時を予定しています。

 よろしければ、また読みに来て頂けると嬉しいです。

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