308 R-お泊り会 in 百合乃家(仮)2nd 婦婦の話
サンタのコスプレ~、などというものは恋人同士の本番の際にでも思う存分すれば良いのであり。クリスマスだ何だと理由を付けたところで、結局最後にすることはお泊り会定番のやつ――すなわち、寝落ちするまでひたすらに駄弁り倒すアレである。
賃貸での六人対戦まくら投げは、流石にどったんばったん大騒ぎが過ぎるということで遠慮して。リビングのテーブルを脇によけ、来客用の布団を敷いて、いつ誰が脱落しても良いように準備を整える。
少々手狭だが床に四人とソファに二人の配置で、気持ち程度に照明も暗く、とはいえまだ時間の方は、寝るには随分と早いわけで。座った華花の太ももの上へと仰向けに頭を乗せながら、蜜実がソファからはみ出た脚を小さく揺らしていた。
「――そーいえばさぁ~」
弛緩した声音で、何の気なしに話題を変える蜜実。ここまで誰彼ともなく話していた内容もまあ、中身など有って無いようなものであり……そも、二組に分かれて別の話題に花を咲かせていることすらざらにあったのだから、今回のこれも誰かしら反応があれば良いかなぁ~くらいのものだったのだが。
「結局『ティーパーティー』は、向こうで結婚するのー?」
「「「「!?」」」」
流石にこの時ばかりは、放られたトークテーマがトークテーマなだけに、四人全員がビクゥッ!と反応を示した。
「――――や、あの、あの。まだ早いんじゃないかなって。それ、そういうのは」
確か前にそんな話題が上ったのは、冬の初め頃だったか、どうだったか。無意識下で隅に追いやっていたそう遠くない記憶を掘り起こしながら、まずは未代がそう返した。随分としどろもどろにではあったが。
「そー……っすね、はい。時には慎重さも、必要っすからね。ええ、はい」
真っ先に追従する市子の口調は微妙に崩れ気味に。
「……結婚すると、婚前交渉ごっこが出来なくなるから……」
一見いつも通りな卯月もまた、よくよく聞いてみれば妙なことを口走っている。
「…………」
麗などはもう、分かりやすく静かに頬を染めていた。
「……そんなに気負うこと?」
表面的には四者四様、けれどもみな、興味はあるが足踏みしている様子が伺える。蜜実の頭を撫でながら、不思議そうに華花が首を傾げていた。
「気負うコトなんですわ、これが」
肩を竦める未代ではあるが。
対する婦婦の、現実世界で今の関係にまでなり得たのだからゲームの中くらいもっと気楽に構えても良いのではないか――などという考えは、友人事だからこそのものなのだろうか。
いやしかし、そうは言っても。
「…………」
「…………」
「……な、なにさ?」
「やー、そのフォーメーションで言われてもなぁってー」
眼前の四人の様子を見ていれば、別に良いじゃん結婚しちゃえば、くらいには思えてしまうわけで。
「「「「…………」」」」
胡坐をかいて座る未代を中心に、その左右を固める市子と麗。無論、ただ隣に座っているとかそういう話ではなく、左の市子は思いっきり腕を絡めて体を預け、右の麗は一見貞淑に、けれども密かに、布団に付いた未代の右手に自身の左手を重ねている。そして背後からは、膝立ちになった卯月が遠慮のえの字もなくもたれ掛かっており。未代のつむじに顎を乗せるようにして、いつも以上に前髪に隠れた顔を覗かせている。
あまりにも分かりやすい、『ティーパーティー』ハーレム形態であった。
「ハロワでもそうだったけど、これが定位置なんだ」
「…………そーですが。何か?」
恥じらいを飲み込み、唇を尖らせる未代。即座に開き直る事ができるようになっている辺り、やはり短期間で急成長を遂げているようである。
「や、いいんじゃない?侍らせてます、って感じで」
「うんうん。でも侍らせてるからにはー、娶る責任があるんじゃないかなぁって」
華花と蜜実からすれば、急かしたいわけではないのだが。しかし、こんな見るからにいちゃいちゃべたべたしている奴らがどの口で「結婚はまだ……」などと言えるのかという話でもあり。しかししかし、今もって自身を一般的な感性の持ち主だと思っている未代にしてみれば、それとこれとは全く別の問題なのである。
「いや。いやいやいや。自分で言うのもなんだけどさ……こういうのは多分、付き合いたての期間だからこそお盛んなわけでして。結婚とかそういうのは、もっとこう、距離感が落ち着いてきた頃に……頃、に…………」
目の前に、結婚して数年経ってもなお膝枕に興じている婦婦がいるわけなのだが。
その場しのぎのそれっぽい言葉など振る舞い一つで木っ端微塵にしてしまうばか婦妻が、今も未代の目と鼻の先でいちゃついているわけなのだが。
「んー……まあそれは確かに、一理あるかもしれない」
「わたしたちも、最近はちょっと落ち着いてきてるからねぇ~」
「どの口が言うんすか?」
しかも、ここで何故かちょっと理解を示してくる辺りタチが悪い。市子が思わずジト目を向けてしまうのも無理はないだろう。
卯月などはもう最初から勝てないと踏んでいるのか、未代の頭の上で意味もなく顎をかっくんかっくんさせていた。戯れである。
「というか正直な話、いまいちイメージが湧かないってのもある」
結局、会話を進めるのは未代の役割にならざるを得ず。とりあえずこういう時のダメージカットスキルとして便利な「よく分かりません」ムーブで難を逃れようなどと画策し始めた。
「別に、婦婦になったからって何かしなきゃってわけでもないけどね」
現実世界でならいざ知らず、[HALLO WORLD]では言ってしまえば気持ちの問題でしかない。アイテムや所持金、ストレージの共有などといった特典よりも、結婚したという事実、『ふうふ』という肩書を欲して関係を結ぶプレイヤーがほとんどなのだから。
その上で二人がわざわざ「結婚するの?しないの?」などと聞いてくるということはつまり、傍目には少なからずそう見えるということでもある。
「強いて言うならー……周りへの報告とか、結婚式とか、披露宴とかー?」
前者は自身ら、後者は少し前にあったクロノらのそれを思い浮かべながら。それらも言ってしまえばロールプレイの一環に過ぎないのだが、婦婦生活などという長くさりげなく続く日常生活よりは、例に挙げやすい催し物ではあろうか。
「結婚式、ですか……」
と、蜜実の言葉を受けて、静かになっていた麗がはたと言語を取り戻す。手に取ったデバイスから『聖典』を開き、ホログラム投影するのはまさしく婦婦のドレス姿をを映した一幕。純白の揃いのウェディングドレスに身を包んだその様子は、何とも分かりやすい幸せの象徴。
「これももう四年前かぁ~」
「もう四年なような、まだ四年なような」
はにかむ自身らの表情は、顔の造詣こそ変わらないものの、気持ち今よりも幼い雰囲気を纏っているようにも見える。むくりと身を起こした蜜実が、そのまま華花の右腕にぎゅうっと抱き着いて。座ったまま、写真のポーズを再現してみようと試みた。
「……向こうでの結婚式ってどんな感じなの?」
まあこんなものを見せられてしまえばやはり、今の未代としては気になってしまうもの。いやさ以前なら、はいはい惚気惚気と流していたかもしれないが。今となっては人一倍、興味も湧こうというものであった。それは言わずもがな、麗も、市子も、卯月も。
「結構こぢんまりした感じだったよー」
「少なくとも神前に誓う、みたいなのは無かった」
「……結婚式、なのに……?」
「エイトが、「神はお二方自身で在らせられます故」って」
「「「「あぁ……」」」」
聞き手の興味が向かってしまえば、婦婦としても聞かせてやるのはやぶさかではない。
喉の渇きに備えて、水の入ったコップを手に持ちながら。華花と蜜実の、時に重なり時に交わる声音で以って。しばし、二人の思い出話が語られる。
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次回更新は1月11日(水)12時を予定しています。
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