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百合乃婦妻のリアル事情  作者: にゃー
冬 百合乃婦妻と冬遊び
307/326

307 R-お泊り会 in 百合乃家(仮)2nd クリスマスの話

 遅ればせながら、明けましておめでとうございます。

 完結も近づいてはおりますが、今年も本作をよろしくお願い致します。


 汗をかくほどに超スーパー大盛り上がりだったババ抜き大会の後、やや駆け足気味に順番にシャワーを浴びた六人。その間にキッチン、リビング双方に広げられた夕食は、チキン的なアレソレがメインを彩るいかにもクリスマスなラインナップであった。


 後ろにずれ込みややも慌ただしく始まったディナータイムだが、どうせ泊まり込みで明日の予定も無いとなれば、時間の区切りもなく歓談がてらワイワイやるのがセオリーとすら言える。行儀は悪いが咎めるものもいない。


「今日これだけクリスマスっぽいモノ食べてるし、もう当日はうどんとかで良いかも」


「だねぇ~。麗ちゃんがケーキも買ってきてくれたし」


 リビングのソファを陣取る家主二人は、冬用で露出少なめなモコっとした部屋着に身を包んでいる。柄も何もないシンプルで丈長なそれは、しかし華花の薄青色と蜜実の薄桃色それ自体が一種のコントラストとなっていた。

 卯月が「……金と銀じゃ、ないんだね……」などと揶揄えば、流石にリアルで金銀の部屋着はちょっと……と婦婦も笑う。成金めいたギンギラパジャマに身を包む友人二人を想像して、危うく未代の鼻にシャンメリーが逆流しそうになったのは本人だけの秘密である。


「……確かに、あまりにもクリスマスっぽ過ぎたかもしれない」


 とか言って平静を装う未代の恰好は、風呂上がり&暖房がばっちり効いている事を前提とした薄手の長袖Tシャツとズボン。上も下もグレー一色の、秋口の早朝にジョギングでもしていそうな恰好であった。四人掛けのダイニングテーブルの一角、ちゃっかり恋人三人友人二人全員を視界に収められる位置に座って、上機嫌にシャンメリーのグラスを傾けている。


「そうっすかねぇ?」


 見かけにはいつも通りな、一応は冬用にやや厚手のパーカー&ジーンズ姿で対面に座る市子としては、チキンもケーキも二回食べれば二度おいしいのでは?と言った塩梅で、当日も食からしてクリスマスに浸る気満々である。


「……当日はピザでも取る?それか……お寿司とか……」


 そも、クリスマスパーティーをしながらクリスマスパーティーの予定を話し合うというのも、よくよく考えてみれば不思議な話ではあるのだが……もはや誰もそんな事に疑問は抱かない。市子に倣い食べながら次回食べるものを吟味し始める卯月など、自身の着ているオレンジのタートルネックセーターから、薄ぼんやりと鮭の握りまで連想している。


「……あの……」


 と、そんな方向に転がっていく話題の中。未代の隣に座る麗だけが、ちょっとばかり気まずそうな表情を見せていた。


「……実はわたくし、張り切り過ぎてケーキを焼いてきてしまったのですが……」



「「「「「…………――――????????」」」」」



 おずおずといった言葉。

 あまりにも未知の領域にあるセリフに、他の五人は理解すらできていなさそうな顔をしていた。


「ケーキを……?」


「焼く……?」


 蜜実と華花の首が、これ以上ないほどに傾げられる。確かに今日、麗は差し入れですと言ってケーキを持ってきていた。曰く、定番のイチゴのショートケーキ。ありがとぉ~と礼を言いつつ受け取ったそれは、きっと道すがらどこかで買ってきてくれたのだろうと。当たり前のようにそう考え冷蔵庫に入れた自分たちの固定観念が粉々に破壊される音が、二人には確かに聞こえていた。


「……ケーキって、個人で作れるものなの?」


「……一応、それらしき物は」


 次いで人としての言語を取り戻したのはやはり未代。脳裏を駆け巡った、何かこう専門的な機材やらなにやらが必要なのではという漠然としたイメージが、口をついてぽろりと零れる。それほどまでに、ケーキを自作するなどという発想が、まず常人には露ほども存在していないのである。


 そしてその向かいの二席では、改めて麗のハイスペックぶりを見せつけられた後輩先輩が顔を見合わせており。


「……あんまり普段は考えないようにしてるっすけど。自分たち、よくこの人相手に引き分けに持ち込めたっすよね」


「……それは、そう……」


 市子も卯月も、本人なりに自分の強みは分かっているつもりではあるが。しかしこうも分かりやすくハイスペックぶりを見せつけられると、『三人で』という均衡がまかり通っている現状にある種の奇跡を感じずにはいられない。

 小市民二人、妙なシンパシーと共に息を合わせてシャンメリーをあおっていた。


 ……もっとも、市子は卯月に対しても(純粋な顔面偏差値とプロポーションじゃ、この人には絶対勝てないっすけどね……)とか思っているし、卯月は市子を見て(距離近ワンコ系は、強い……)などと考えているのだが。無論、麗も麗で二人に対し同じようなことを抱いているわけなのだから、まあ根本的にお互い様ではある。

 各人のそれらが劣等感やら修羅場やらに繋がらなかったのは、三人が上手いことバランスを取り合っているからか、或いは中心人物たる未代が、類稀なるバランス感覚を――自覚しているかはともかくとして――有しているからなのか。


 まあ、今はそんなことよりケーキである。

 皆が皆、お嬢様の何でもできますっぷりに慄いているが……当の麗にしてみれば、ケーキ作り自体は流石に今回が初めてであり。用意した本人も見た目からしてややも不格好になってしまったという自覚がある為、いざお出しする瞬間が迫ってくるにつれて、ちょっとばかし不安が鎌首をもたげてしまった次第。

 そもそも、初挑戦で食べる分には問題なく仕上げてくる時点で器用どころの話ではないし、外観の悪さも市販品基準で見ればという但し書きが付くのだが。


 謙遜というか、なまじっか何でもできる分、本人の中での「できる」のハードルが上がってしまう的なアレである。


「これは俄然」


「楽しみになってきたー」


 未代と違い、麗の手作りを見たことはあっても食べたことは無い華花と蜜実。それがケーキという、市販品以外存在するの?レベルのレアものであるのなら、しかも友人として合法的に口にできるというのなら。その期待も否応なしに高まろうというもの。もしゃもしゃ齧っていたフライドチキンくんも、残念ながら今夜ばかりは前座である。


「いえ、その……本当に、大したものではないのですが……」


「ケーキ作れるのが大した事ないは流石に無理あるって」


 贅沢にも麗の手料理を食べ慣れてきた未代ですらそう言うのだから、他のメンバーが期待しないのは無理があるというもの。


「もう割り切って、今日はケーキ職人を雇ったという気持ちで行くっす」


「……うん、それで行こう……私達は上流階級……」


 パティシエというワードすら浮かんでこない小市民二人の脳内では既に、鉢巻を撒いてまな板の上で活きの良いケーキを捌く麗の姿が再生されている。


「いえ、あの……」


 すっかり期待一色に染まったキッチンとリビングに、もっとさりげなく切り出せば良かったかと気恥ずかしくなる麗。



 ――そして食後、こんな空気感の中お出しされたケーキ(ブツ)に全員が大満足だったというのだから、やはり疑いようもなく、彼女のポテンシャルは凄まじいものであった。


 お読み頂きありがとうございました。

 次回更新は1月7日(土)12時を予定しています。

 よろしければ、また読みに来て頂けると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 連載ありがとうございます。この作品を最初のほうからユリが好きなので見ていましたが、受験が10月に終わった受験生の身なのでなので現在の三年生編はとても僕の学校生活とリンクしているものがあり、謎…
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