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百合乃婦妻のリアル事情  作者: にゃー
冬 百合乃婦妻と冬遊び
306/326

306 R-お泊り会 in 百合乃家(仮)2nd フレアの話


〈――――うぉぉぉぁぁぁぁっっ!!!!!〉


 鬼気迫る叫び声が響くのは、華花・蜜実宅のリビング。ミニチュアサイズに縮小されたフレアと『焔翼龍(フレアウィング)』が、今まさにテーブルの上で激闘を繰り広げている。


 夕方にはまだ少し早い頃合いに。

 麗、市子、卯月が肩を寄せ合いソファに座り、家主二人はテーブル横でデバイスの操作、未代はその対面から気恥しそうに自身のホログラムを眺めていた。


「……あたし、元気だねぇ……」


 クリスマスも間近に迫ったこの日、婦婦&未代ガールズのクリスマス会は予定通り、華花・蜜実宅にて泊まり込みで行われることとなり。ケーキだなんだはもう少し後に取っておくとして、集まった六人がひとまずと話題に上げたのは、先日の未代(フレア)vs『焔翼龍(フレアウィング)』についてであった。


 ギリギリのところでフレアが勝利をもぎ取ったその戦い、同種との戦闘経験もある『百合乃婦妻』視点での映像が見たいと話が進み、クリップをねだったのが市子。


 蜜実(ミツ)視点のものをフルカラーに調整し、かくして卓上は炎に包まれた龍と勇者の戦場と化した。


「こうしてみるとやっぱり、『ブレイブイン』はかなり良いスキルだよねぇ~」


「STR・AGIアップに、数発とはいえ詠唱無しで魔法攻撃まで出せるなんて」


 紅い残光を残し駆けるミニチュアフレアを見ながら、婦婦は頷き合う。『フェアリーギフト』を失ったことで出力は低下し、HPの減少幅も増加し、それでもなお有用な自己バフスキルとして、『ブレイブイン』はプレイヤーたちの間で密かに話題になりつつある。


 そう多くないスキル所有者としても、フレアの名は更に拡散されており。龍種の単独討伐が知られれば、また一段とその評価は上昇するのではないかと、婦婦も鼻高々であった。

 まあこの戦いは超個人的なものなのだから、特に話が広まるものでもないのだが。


「この速度をもっと活かせるようになれば、私たちとも戦えるかもね」


「まあ負けはしないけどー」


「……そりゃどうも」


 この時の二人は共に自身らの記憶に没入してしまってはいたものの、それでもその目は的確に勇者を捉え、また時に『焔翼龍(フレアウィング)』の隙を見出すように、フレアに先んじて視線を動かしていた。

 僅かに下がった龍の片翼が視界の中心を占め、その外から駆け込んでくるようにフレアの姿がフレームイン。まるで未来が見えていたかのように、彼女が狙う場所を先読みしている。

 勿論それは、観客として引いた視点から見ていたからというのもあるが……しかしやはり自分達ではまだ至らないその優れた観察眼に、もう三人は幾度も感嘆の声を上げていた。


「……でもま、スリップダメージはかなり痛いけどね……」


「「勝てばノーダメだから」」


「んなわけあるかい」


 無茶苦茶な物言いに思わず突っ込む未代だが、実際婦婦の『必殺』もまさにその言葉通りのなのだからあまり強くは言い返せない。これだから無茶を通せるような奴らはタチが悪いんだ……などと思っているうちに、テーブル上のフレアが遂ににトドメの一撃を放つ。


〈――あたしは勇者らしいから……だから!自分の道は、自分で決めるっ!!〉


「うわ恥ずかしっ!」


 大いに盛り上がっている小さな自分の台詞を遮るように、大声を上げる未代。真っ先に食い付いた市子が、によによと楽しげな笑みを浮かべていた。


「先輩もすっかり()になっちゃってるっすねぇ」


 からかうような言い草だがしかし、生で聞いた時の感想が(うぉぉぉ先輩かっけーっす!!)だったのはここだけの話である。


「……良いと思う。そういう所も可愛い、よ……?」


 続く卯月のフォローらしきものが、正しく機能しているかは怪しいところ。実際、未代は一層気恥ずかしげに顔を背けていた。


「……後々冷静になってみると、マジで恥ずかしいんだけど」


 ――最近、ハロワ内で未代(フレア)が時折見せる、没入癖とでも呼ぶべきもの。

 勇者という肩書に、フレアというキャラクターに、『ティーパーティー』という関係性に。まるでそれが現実であるかのように入り込み、言動までもが引っ張られてしまう。

 何か問題があるという訳ではないのだが……やはりどうにも気恥ずかしい。今の未代のちょっとした悩みであった。


「集中力が高まり過ぎている……の、でしょうか……?」


 最近の、何をやっても今まで以上にハイペースでこなす未代の無双ぶりを良く見ている麗からしてみれば、浮かんでくるのはそんな予測。うんうんと唸る未代自身も、何となくそんな感じはしているような、いないような……


「まぁいいんじゃないー?ロールプレイなんて別に珍しくもないし~」


「ね。クロノとかエイトとか」


 一方、蜜実と華花の反応はドライなもので。

 キャラが立って有名になるのなら、それもまた一興。既に友人をエンタメ扱いするのにさほどの躊躇もない婦婦にとっては、気を揉むようなことでもない。面白い瞬間があればからかってやろう――くらいの心持ち。

 失礼極まりない友人二人に、未代の唸り声もただただ間延びするのみであった。


「ま、まあ兎に角。これで教祖様も納得はされたようですし……大手を振って仲を深められるというものです」


「いや、本来はあの人の機嫌なんて窺う必要無いんすけどね」


「……時には、理解(わか)らせも必要……」


「何の話っすか」


 これで闇討ちに――別にされたことは無いのだが――怯えなくて済むと思えば、まあ、こっ恥ずかしい台詞を吐いた甲斐もあったというものだろうか。ひとまず自分に言い聞かせて羞恥心を飲み込む未代。


 代わりに吐き出したのは、今日の本旨を思い出せとばかりの声。


「はい、じゃあもう鑑賞会は終わりっ。もっとクリスマスっぽいコトしよう!お泊り会っぽいコトでも可!」


「……いちゃつく……?」


「確かにクリスマスっぽくてお泊り会っぽいすけど」


「お、恐らくそういう事ではないかと……」


「そ、そうだね。それはまた今度(・・)のクリスマス会でね……」


 卯月の意見は意味深に却下された。

 選手交代、華花が何となしに声を上げる。


「んー……じゃあ、ツイスターゲームでもする?」


「おお、真っ当な意見……か?」


「わたしたち二人vs未代ちゃんたち四人で」


「圧倒的不利!」


 やるまでもなくクソゲーである。

 あとこれもちょっと如何わしい感じになりそうだから却下……などと考える未代の脳みそも、健やかにピンク色であった。


「……あ、ではトランプなど如何でしょう?昨年のリベンジですっ」


 かくしてここは優等生、麗の真っ当かつ闘志に燃える一声によって、最強のアナログゲームであるトランプが選出された。


 夕食時までもうしばらく――いやさ白熱し過ぎてついつい食事が後にずれ込んでしまうくらいに、六人はババ抜き一本でそれはもうハチャメチャに盛り上がり。


 無論、何故かチーム戦になった末に華花・蜜実ペアが圧勝していたのは語るまでもないだろう。


 お読み頂きありがとうございました。

 次回ですが……年末年始が少し忙しくなりそうでして、1月4日(水)12時更新とさせて頂きます。また、来月以降は更新を週二回に戻し、毎週水曜・土曜の投稿を予定しています。ころころ更新ペースが変わってしまってすみません……


 今年一年、本作を応援して頂き本当にありがとうございました。来年の春頃には完結するかなぁと思っていますので、もうしばらくお付き合い頂けるととても嬉しいです。

 それでは皆様、良いお年を。

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