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百合乃婦妻のリアル事情  作者: にゃー
夏 百合乃婦妻の暑い夏

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208/326

208 R-向こうもリアルもそう変わらない


 事前の取り決めにより、今日はメアリー、ヘレナ両名も華花と蜜実の家に泊まることになっている。


 どうせ毎日顔を合わせるのだから、ここで寝泊まりしてもいいのに……という推し婦妻の提案を揃って辞退した客人二人、明日以降は各々ホテルを利用するとかいう話だったが。


 兎角、今日の所は。

 ということで、夕食も終えた一同は、再びリビングで卓を囲い。メアリーとヘレナがそれぞれ持ち寄った菓子折りを肴に、歓談に興じていた。


 なお、流石に今回はと二人が丁重に辞退した結果、年長者たる白銀婦妻がソファ、華花と蜜実がいつも通りその対面、残ったテーブルの二面でメアリーとヘレナが向かい合う、といった形になっていた。


「――そういえばコレ(・・)、初めて使ったけど、ちょっと不思議な感じだねぇ」


「うん。凄い便利ではあるんだけど」


 何かしらの話題の切れ目、ふと意識の向いた(隣に座る華花の)インカムを、指先で軽く突っつく蜜実。

 骨伝導式のそれは、オフ会経験者のクロノのアドバイスに従って、この日の為に用意していた同時翻訳機器であった。


「あたしも、違う国の知り合いなんていねぇからな……しかしまぁ、便利なもんだ」


 異文化圏どころか、リアルでの友人など無に等しいことは黙しつつ、メアリーも感心したように頷く。


 インカムがやっていること自体は、マイクが拾った言葉を瞬時に翻訳し、接続された端末通しで送受信し合っているという、ただそれだけ。


 それが、事前に吹き込んでおいた声帯サンプルを元に、極めて近い声音で再生されるものだから、特に今のように面と向かって話していると、肉声と翻訳音声が一瞬のラグと共に聞こえてくる。


 普段の生活では中々経験しないような不可思議な聞こえ方に、最初の方は少しの戸惑いもあったりしたものだが……慣れてしまえばなんのその、文明の利器サマサマであった。


「あたしらより上の世代は、学校で外国語とかも習ってたらしいがなぁ……」


「こういうのが発展したら語学勉強なんて、それこそ趣味以外ではしなくなっちゃうわよねぇ」


 噂、あるいは近代史程度にしか知らない「グローバル化」とやらの潮流が進みに進んだおかげで、大いに楽ができる……ということすらも実感が湧かないほどに、この程度の物であれば巷に溢れている現代。


 それこそ先程、皆で舌鼓を打った夕食だって、昔は食材から用意して作るのが当たり前だったはずなのに。チルドやフリーズドライの著しい進歩は、「食事」を楽にはしたものの、「料理」というかけがえのない文化を停滞させてしまっているのではないだろうか。


 ……とかなんとか、妙に厳かな物言いで、メアリーが語っていた。


「――技術が発展した分、人間はどんどん堕落して……っと、失礼。変なこと言っちまいました。いや、職業病みたいなもんで」


 変にネガティブなフレーズで締めかけ、はたと我に返る。明日華と花恵を見ながら小さく頭を下げる彼女だが、既に隣に座るヘレナからは、冷たい視線が向けられていた。


「何、急に。アンタ陰謀論者なの?」


「ちっげぇよ。ただ、そういうのを書かせたがるクライアントも、読みたがる大衆もいるって話だ」


 時には、読者への警鐘だの警告だのを殊更に求められる案件というものもあるもので。

 不安を煽る結びの言葉なんて、もう頭を捻らずとも出てきてしまう。ニヒルな笑みでおどけるメアリーの、何とも悲しき(サガ)であった。


「皮肉屋さんなんだねぇ」


「わりぃな」


「や、正直、イメージに合ってるかも」


「……すげぇ複雑……」


 この口調のままだった昔のエイトは、まさしく斜に構えているというか、捻くれた物言いがデフォルトな人物であったものだから。華花と蜜実からしてみれば、仕事のせいでこうなったというよりも、こういう性格が仕事に上手く活かされているような、そんな印象であった。


「胡散臭い語りが上手いから、教祖様になっちゃったって訳ね」


 言わずもがなヘレナからすれば、危険人物の本性現れり、といった具合なのだが。


「ハァん?お前今、我らが神を胡散臭いとか言いやがったか?」


「アンタが胡散臭いって言ってんのよっ、この子らに言うワケないじゃないの。インカム壊れてんの?それとも耳?頭?」


「神の威光を知らしめす活動のどこが胡散臭いってんだよ?ねぇお母様方?」


「……え、あたしらに振るの?」


 急に飛んでくる矛先。

(じゃれ合ってんなぁ……)などとお気楽にくつろいでいた明日華が僅かに目を泳がせたのを見て、すかさず花恵のフォローが入る。


「まあ、本人たちが良くて、ゲームの中だけで、ほどほどにしてくれるのなら」


 それもまたゲーム体験の一環であるというのなら、絶対にダメというほどではない……けど、やりすぎ注意。

 そんな親心を知ってか知らずか、しかし案の定、途端に勢いを増すメアリー。


「ほれ見ろ、ご両親公認だぞ。なんか言うことあっかァ?『自称』後見人のニートさんよぉ?」


「うぐっ……」


 強力な後ろ盾を得た(と、思っている)彼女に対して、痛いところを付かれたヘレナは、苦しそうな呻きを上げる。


「……ふ、二人はアタシのこと、頼りにしてるわよね?ね?」


 ご両親という強大な戦力に対抗するには、なりふり構ってなどいられない。

 そう考え、当の『百合乃婦妻』本人らに縋りつくその顔は、とても(自称)後見人とは思えない情けないものであった。


「え?あ、うん。まあ、色々と助けてもらってるし」


「そうだねぇ、いつもお世話になっております~」


((下手するとハロワ(向こう)以上に煽り合ってるなぁー……))とかなんとか考えていた婦婦の一拍遅れた言葉は本心ではあるが、しかし同時に、半ば反射的にした割と適当な返答でもあり。


「ほら見なさい!本人たちだってこう言ってるじゃないっ」


 けれどもその言葉だけで、この無職の成人女性は途端に息を吹き返す。

 後見人として認めることを明言されたわけではないのだが、ヘレナ的には公認も同然である。


「……チッ」


「あらまあ品が無いわねぇ、宗教家ぁ?」


 基本的に神の御言葉は絶対である教祖からしてみれば、不都合なことこの上ない。


 ……いや、そもそもの話。

 二人の両家両親は目の前にいる通り元気にご存命なのであって。普段からヘレナ(ヘファ)が完全に言葉の響きだけでそれを名乗っていることは、半ば公然の事実と化していた。

 或いは、華花と蜜実ではなく『百合乃婦妻』の、というある種のロールプレイであるとも言えるが、それにしては肩書への執着が強過ぎる。

 つまりヘレナは重たい女であった。これもまた、自明の理であるのだが。


「……何の話してたんだっけ?」


「確か……便利な世の中ね、みたいな話題だった気がするんだけど」


 華花と花恵が首を傾げ合う最中にも、ヘレナとメアリーはぐちぐちギスギス睨みを利かせ合っている。

 視界の端と端同士、オフ会一日目とは思えないほどいつも通りな光景に、明日華と蜜実も苦笑を鏡合わせに。


 仮にも友人(推し)の親の前だというのに、遠慮も建前もあったものではない。


(ま、変にネコ被られて、微妙な空気になるよりは万倍マシだな)


(そうね。やっぱり、悪い人たちではなかったし……変な人たちではあったけど)


 自分たちも含めてそれなりに長い付き合いがあるのだから、遠慮が無いのは良いことだ。


 そう結論付けた両親の小さな頷きに、華花と蜜実もほっと息を吐く。


(取り合えず、初対面は問題なし、かな?)


(うんうん。ちょっと心配し過ぎだったかもねぇ)


 密かに気を揉んでいた二人としても、一安心と言ったところであった。


「……うし、じゃあそろそろ、このキャットファイトを肴に――」


「今日はダメ」


「うぉぉ、なんでだよ花恵ぇ……!」


「華花から、『オフ会初日くらいは大人しくさせておいて』って頼まれてるから」


「華花ぁ!お前、協力して主導権をって話はどうなったんだよっ!」


「それとこれとは別」


「裏切者……!そうだ、蜜実っ!お前はあたしの味方だよな?」


「(え、何でそう思えたんだろう……?)ごめんなさい、わたしは華花ちゃん第一なのでー」


 こっちはこっちで喧々諤々、少しもすればまた、六人一輪となっての騒がしいやり取りが再開するのだろう。


「――あぁっもう我慢できない!華花!蜜実!今すぐこいつの馬鹿みたいなクラン潰してやりなさい!」


「アァ!?テメェなに我らが神に命令してんだ!表出ろやァ!!」


 少々……いや、だいぶ、騒がし過ぎる気がしないでもないが。


 次回更新は11月20日(土)18時を予定しています。

 よろしければ是非また読みに来てください。

 あと、感想、ブクマ、評価、誤字脱字報告などなど頂けるととても嬉しいです。

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