206 R-遠路はるばる
時統べるOLに泣きつかれたとて、それはそうとしてこちらも予定というものがある。
白銀婦妻が来訪してから数日の内に、今回の主要人物たち――ヘファとエイトが婦婦の元を訪れる日がやってきた。
遠路はるばる国際便で降り立ち、もう最寄りの駅までは到着しているという二人。
空港で合流したのか駅で鉢合わせたのかは知らないが、どちらにせよリアルでは少しくらい仲良くしておいて欲しいと思わずにはいられない華花と蜜実であった。
「えーっとぉ……」
駅のホームできょろきょろと、それらしい人物を探す。
〈改札出てすぐの所にいるわ……腹立たしいことに銀髪と金髪だから、すぐ分かると思うわよ〉
耳にかけたインカムから聞こえてくるのは、デバイスによって声音を維持したまま翻訳されたヘファの声。
どちらがどちらかはまだ分からないが、どうやらエイトと金銀で並び立つのが相当に嫌らしい。
〈それはこっちの台詞だガキが〉
〈はぁ?3つしか変わらないじゃない〉
〈3つ違えば大先輩だろうが、敬語使えよ小娘〉
〈冗談はそのダサい眼鏡だけにしてくれない?〉
〈アァ?テメェ今、あたしのべっ甲メガネ馬鹿にしやがったか?〉
〈アンティーク過ぎるのよ。今日日そんなの、老人でもかけてないじゃない〉
「そこがお洒落なんだろうが。それ言ったらお前のそのクソだせぇTシャツは何なんだよ?」
「はぁ……無地の良さが分からないとか、これだから古メガネ女は」
「あ?」
「は?」
「……うん、見つけたよー……」
途中から、肉声と重なって聞こえてきた言い合いに苦笑いを浮かべる婦婦。希望が早速叶わなかったことに、ある種の予定調和のようなものを感じながら、件の人物たちへと近づいていく。
「「――!!!」」
自身らの元へ歩いてくる華花と蜜実を発見し、目を見開く二人の女性は、一目で異邦の者だと分かる容姿をしていた。
今しがたの言葉通り、一人は銀髪、一人は金髪。
銀、とは言っても灰色に近い硬質なそれを右肩辺りで結びおさげにしている方が、目付きの鋭さや少女と女性の中間のような体型から、ヘファであることが伺える。特筆すべきその肌の白さは、血筋云々以上に、普段全くと言って良いほど日に当たっていないが為であった。
対するもう一方、髪色は赤毛と金髪のミックスで、やや癖のあるミディアムショート。ゲーム内と同じくヘファと頭半分ほどの差がある高身長、グラマラスなシルエットは紛れもなくエイトの特徴であろうが……やや猫背気味であることと、頬を彩る少しのそばかす、お洒落ポイントらしいべっ甲の伊達メガネが、彼女のリアルでのパーソナルポイントだろうか。
「「――」」
共通点はどちらも目付きが悪く、腰の位置が高く、それからこちらでの時節――真夏に合わせて薄着しているといった辺り。
特にヘファの方は、極めてシンプルな白Tシャツに薄手のタイトデニムと、「ちょっとその辺まで」とでも言わんばかりのラフ過ぎる恰好をしている。キャリーケースを引いていなければ、コンビニに向かう途中と言われても納得してしまうくらいの軽装であった。
ハロワでのキャラをイメージしてかグレーを基調としたプリーツワンピースに身を包むエイトの方が、少なくとも初見には、気合を入れてきていることが伺える。
「……えっと、初めまして?」
「……で、いいのかなぁー?」
そんな、遠方からの客人たる二人組が。
ほんの一瞬前まで、ハロワと変わらずギスギスのバチバチだったヘファとエイトが。
華花と蜜実を紛れもない『百合乃婦妻』と認めるや。
「「――ほ、本物だぁ……!!」」
揃って、感極まったような声を絞り出す。
「おいすげぇぜ!本物だぜ!?」
「やば、なんか、泣きそう……!」
((……そんなにかぁ……))
いや勿論、婦婦の方も長年の友人と遂に相まみえたとあって、感動が無いわけではないのだが。
如何せんこの、ファンと信者の反応が過剰過ぎる。
「やっべぇ……取り合えず、あれだ……祈っとこう……」
「あー……むり、もうむり、手が震えてきた……」
曲がりなりにもそちらから持ち掛けてきたオフ会だろうに、何だってそんなに限界を迎えているのか。しかも、一応年上の、いい年した大人が。
そんなことを考えればこそ、蜜実も華花も、ややも引き攣った笑みを浮かべずにはいられない。
「あー、こっちが、ヘファちゃん?」
「こっちがエイト、で、合ってる?」
取り合えず会話をせねばなるまいと、控えめに手で指しながら、まずは本人確認から入る。
「――はっ。ん、んんっ……」
受けて一足先に我に返ったのは、一応は真人間を自負している(自負しているだけ)ヘファの方。咳払いして頭を振って、手汗でびっしゃびしゃな手のひらをシャツで拭いて、如何にも真っ当な大人であるかのような澄まし顔を作る。無論、遅過ぎるのだが。
「……ヘレナ・ファイリスよ。頭文字を取ってヘファってわけ。よろしく」
「よろしくお願いします……えっと、ファイリスさん?」
「ヘレナで良いわ。敬語とかさんとかもいらないから」
「じゃあ、ヘレナちゃんだー」
(は、話せてる……!アタシ、ちゃんと話せてるわ!!)
頭の中は許容値限界ギリギリであることに変わりはない……けれども、二、三言のやり取りでハロワでの空気感を取り戻せる程度には、ヘレナはヘファで、華花はハナで、蜜実はミツであり。
「ほら宗教家、いつまで固まってんのよ」
「――はっ……あ、あー、えー……」
「アタシ オマエ キライ」と一瞬で印字された仏頂面を向ける形で、その輪の中にエイトを引き込んでいく。
「……あた……わたくしはメアリア・コテージだ……と申します。どうぞ、メアリーと」
「いや喋り方、無理あり過ぎでしょ」
「うるせぇ」
あちらでの敬虔な信徒然とした振る舞いはやはりロールプレイなのだと、端々から感じさせるエイト――メアリーの言動に、懐かしさすら感じてしまう華花と蜜実。少し悪戯っぽいフレーバーを含ませつつ、よろしくと笑って見せる。
「メアリーはなんていうか……昔のエイトみたいだね」
「ねぇ~。さっきもヘレナちゃんのこと、ガキぃって呼んでたし」
「勘弁してください女神様方……あれは黒歴史なんだ……なんです……」
「その割には、こっちの方が本性っぽいわよ、性悪女」
「黙ってろクソガキ」
既に(悪い意味で)打ち解けているヘレナとメアリーの口の悪さに今ばっかりは笑みを深めつつ、遅ればせながら婦婦も名乗る。
「こっちが華花ちゃんでー」
「こっちが蜜実。よろしく」
互いに互いを、という、ちょっとしたファンサも交えながら。
「ぐえぇぇしぬぅ……」
どちらがハナでどちらがミツなどと聞くまでもなく、またしてもヘレナが断末魔の声を上げる。
「いやすげぇ……マジで本物じゃん……」
秒でロールプレイを放棄するエイトも並んで、女子高生に対して変なリアクションを取る異邦人二人という、中々に人目を惹く様相を呈してしまっていた。
「あー……取り合えず、バス乗ろうか?」
「うん、なんかちょっと、悪目立ちしちゃってる気もするしー」
積もる話は腰を落ち着けてから。
そう言う婦婦が先導する形で、四人は駅舎を後にした。
◆ ◆ ◆
(お義母さんたち、安心してくれた……かなぁ……?)
(どうだろう……)
娘たちと友人の初対面に水を差すようなことはしたくない。しかしかと言って、完全に不安が無いとは言い切れない。
そんな複雑な親心に則り、遠くから密かに見守るというストーカーめいたことをしていた明日華も、呆れつつも内心全く同じ気持ちで同行していた花恵も、悪くはないが間違いなく変人だと、どうにも複雑な第一印象を抱いていた。
次回更新は11月13日(土)18時を予定しています。
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