202 V-3つの内角の大きさが全て等しいやつ
未代といかにも青春じみたやり取りをした翌々日のこと。
きっちり麗とのデートを楽しんでもらい、その上で、舌の根も乾かぬうちに。
「「暇だから遊びに来た」」
などと宣い『ティーパーティー』の拠点に姿を現した婦婦の、その面の皮の厚さときたら。
(や、良いけどね。うん)
しかしその豪胆さに、今更とやかく言うでもなし。
婦婦が未代のヘタレっぷりに慣れたように、フレアの方もまた、いい加減この友人婦婦の強かな一面に順応しつつあった。
昨日の会話の中に僅かながら見られた冷静さ(と、言うほどのものでもないが……)も、実は二人の煽りに耐性が付いてきているから、というのもあったりする。多少は。
そんな、状況の割には比較的心中穏やかなフレアをよそに、当の本人らはテーブルに座って、白ウサちゃんとガールズトークの真っ最中。
「ねぇねぇねぇねぇ☆百合乃ちゃんたちは、『獣化』中どうやって意思疎通取ってたわけ☆?」
テーマは些か、獣臭いものではあったが。
「どうって言われても……」
「うーんとぉ……こう?」
「こうってどうだよ☆☆」
アイコンタクトすら無い、傍目には何の事象も起こっていない「こう」とやらに、白ウサちゃんの☆も荒ぶってしまう。
「そもそも私たちの場合は、ゾンビ化の影響でちょっと思考が繋がってたし」
「いやー……あれって、ホントにちょっとしたアシスト程度なんでしょ☆?」
「そうっちゃぁ、そうだけどー」
感染による親個体から子個体への接続は、その思考の僅かな指向性が伝わるといった程度のもの。それだけで、何の瑕疵もなく言語を介さない意思疎通ができるなどと……いや、この婦婦ならできるのかもしれないが、それはとても汎化できるようなものではなかろうと。
白ウサちゃんが肩をすくめるのも、『百合乃婦妻』の現状を知らないプレイヤーとしては、まあ当然の事であった。
「結局、ハンドシグナルとかで何とかするしかないか☆」
「それが無難だろうねぇ~」
「フレアちゃん☆!!」
「なんすか?」
「これがこうで、これがこうよっ☆☆」
「なぁんも分からないです」
「なんでさ☆」
えらく機敏な、しかしいまいち意図の伝わってこない謎の手の動きを見せる白ウサちゃん。首を捻るフレアの反応に不満を見せ、勢い良く立ち上がる。
「これはこうでっ、こうなったらこうでっ、こうやってこうやってこうっ☆☆」
「いやぁ、マジで意味わかんないっす」
リンカみたいな口調でおちょくりながら、フレアもまた立ち上がり、テーブルから少し離れて白ウサちゃんと並んだ。
「こうですか?」
「違うっ、こう、こう、こう……こうっ!!!」
「あーつまり、こうやってこうやってこうってことですね」
「そう、その心は!?」
「まーじで意味わかんない」
「なんでさ☆☆」
ハンドサインどころか、全身をしっちゃかめっちゃかに動かすその仕草は、たとえ意味が伝わったとしても、絶対に実戦では使えないであろう謎ジェスチャーと化しており。
座ったままそれを見守る婦婦とノーラ、リンカの目は、どうにも生暖かい視線をこれでもかと内包していた。
「――でぇ?昨日はデートだったんだって~?」
「え、あ、はい」
そんな状況で素知らぬ顔して切り出してきたミツに一瞬の戸惑いを見せるのは、話題の当事者であったノーラ。しかし最早、そこに恥じらいはさほどもなく。声を潜めるミツに合わせて、視線の先のフレアには聞こえないように声量を抑えるくらいには、落ち着きがあるように見えた。
「もうデートくらいなら緊張もしないって感じ?」
「緊張は……そうですね、あまり。でも、とても楽しい時間でしたよ」
微笑みというにはあまりにも眩しいその表情。
進展してるねぇ、などとおちょくる隙も無く、隣のリンカが二の矢を継ぐ。
「ちなみに、次は自分の番っす」
「その次は皆で、という予定になっていますね」
突っ込み待ちかというほどに、淀みなく今後のプランを述べていく二人。
「完全にローテ組んでるじゃん」
「ええ、まあ」
未代包囲網とでも呼ぶべき三角構図が形成されていることは何となく読み取れてはいたが、まさかここまで具体的にスケジューリングされていようとは……と、婦婦の口から驚きの声が漏れる。
「え、このローテーションシステム誰が言い出したの?」
「誰がというと……そうですね、わたくし達がそれとなく誘導して、フレアさんが提案する、といった流れで一巡する事が多いですね」
「まじかぁ……」
なんと、あのクランリーダー、他三名に上手いこと手綱を握られる形になっていたらしい。これでは包囲網どころか、もうほとんど鹵獲されているようなものであった。
「最近のフレアさんは、何と言いますかこう、とても可愛らしくてですね……」
以前から素敵な方ではあったのですけれど、などと惚気た注釈を付けつつノーラが呟けば、後輩であるリンカまでもがうんうんと力強く頷いて見せる。
え、なに、急に惚気だしたんだけど。
ちょっと引いた感じでそんな顔をするハナとミツだが、これほどまでに「お前らが言うな」が相応しい状況も、そうそう無いだろう。
言う立場の時の婦婦が自重しないのと同じように、ターンプレイヤーたるノーラ&リンカの口も止まることを知らなかった。
「なんすかねぇ、あの感じ……でもとにかく、最近の先輩は雰囲気が、なんか……なんか良いんすよっ」
止まらない惚気、全く要領を得ない補足、しかしフレア側の心境が察せる婦婦からすれば、さもありなんと言ったところか。
(恋すると可愛くなるっていうのは、女の子あるあるだからねぇ……)
逆に、そんなド直球な可能性にすら至れない麗ら三人が、いかにフレアの鈍感っぷりに毒されてしまっているのかも、よくよく窺えてしまうのだが。
「このままでは、今まで以上に誰彼構わず惚れさせてしまうのではないかと我々は危惧致しまして」
「もうとりあえず三人で独占しようって話になったんすよ」
惚気かと思いきや(実際、惚気でもあったが)、要するに未代が最近とみに魅力的なので、外部に対する防衛線を構築したという話であったらしい。
つまり現状、麗、市子、卯月からなる正三角形は、フレアを囲う包囲網でありながら、同時に他の女を寄せ付けない防護壁でもあるということ。
もう結界とでも称した方が良いだろうか。
「「……それはそれは……」」
と、そんな話を聞いて、結構腹黒いね、とは流石に口に出しては言えないハナ。
三人で独占って微妙に矛盾してるのでは?と思いつつも、やっぱり口には出さないミツ。
二人がちょっとビビっている間にも、計略家たちの苦労は語られる。
「教室でも、うっかり何人か惚れさせそうになっておりましたし……」
「クラスだと麗先輩一人だけで、こっちの戦力は三分の一っすからね。歯がゆいけどしょうがないっす……」
言っていることは完全に計略、謀りの類であり、それでいて、完全に一つの軍隊ならぬ群体として未代に挑む、この三人のなんと涙ぐましい努力か。
((いや、もうみんな娶るしかないよこれ……))
節操なしはちょっと……などと甘えたことを言っている場合ではない――婦婦がそんな視線を送る先で、当のフレアはまだ、白ウサちゃんとのジェスチャーゲームに励んでおり。
「よし、決まったっ!」
「これで連携もバッチリ☆いつでも『獣化』出来るわね☆☆」
「いや、それはそれとしてなるべく使わないで下さい」
「なんでさ☆」
「自分も『獣化』覚えるっすかねぇ」
「ねぇ話聞いてた?今使わないでって言ったよねあたし?」
「まあまあ。面白そうだし、良いではないですか」
「常識人だったノーラはどこ行っちゃったの……?」
成程、こうして見れば見るほど見事に包囲されてるなぁと、もう感心すら覚えるハナとミツであった。
次回更新は10月30日(土)18時を予定しています。
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