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百合乃婦妻のリアル事情  作者: にゃー
夏 百合乃婦妻の暑い夏
199/326

199 R-夏休み0日目


 丁度、アイザ、シンと話をした辺りから、華花と蜜実のハロワへのログイン率は、一時的に低下していた。理由は言わずもがな、夏季休暇前の定期テスト及びその勉強の為である。


 一応、三年次もこれまでの成績水準は維持しておくのが望ましいということで。

 二人もまあ、いつも通りくらいにはテスト勉強に励み、大半の学生が苦行と捉えている数日間の考査期間を何とか切り抜け、テストの返却に一喜一憂し。


 しかしそれが終わればもう、ティーンエイジャーにとっての夏真っ盛りは、すぐ目の前に。


「――んでぇ?全教科わたしに負けたざこ真面目一般受験生さんはぁ、夏休みもお勉強頑張ってくださいねぇ♡」


「んぎぃぃぃ!!何推薦組のくせに勉強なんてしてるのよぉ!?推薦組は推薦組らしく、夏休み先取り気分で遊び惚けてなさいよぉ!!」


「勉強できるから推薦組なんですぅ♡そんなことも分からないんですかぁ♡♡??やっぱざこじゃん♡ざぁこざぁこ♡」


「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」


「どぉーしてもって言うんならぁ……勉強、教えてあげないこともないけどぉ?ほぉら、お願いしますぅぅって情けなく泣きついてきたらぁ?」


「誰が言うか!!」


 ……一部、定期考査を引きずっている者たちもいはしたが。


「――まま」


「多分、ままではないかなぁ?」


「まま……」


「……もしかしたら、ままだったかもしれないねぇ?」


 ……また別の一角では、ストレス社会の縮図が見え隠れしていたりもしたが。


 兎角、昼もまだ過ぎない三年二組の教室では、生徒たちみなが解放感あふれた表情を浮かべていた。


 それもそのはず。


「おほほほほ!優雅なる夏休み(バカンス)の始まりですわぁ!」


「ごめんあそばせ一般受験組(平民)の皆々様!推薦組(お貴族様)が通りますわよ!」


「くそぉっ……!精々遊び惚けて、馬鹿みたいに日焼けして休み明けに後悔してろ……!」


 今日で三年次前期は終了、明日から……いや、今この瞬間から、高等部生活最後の夏休みが始まるのだから。


「いいなぁ推薦組は……」


「まぁまぁ、私たちも今日明日は遊ぶって決めてるし、ね?」


 死ぬほどイキり散らかしている推薦組を眺めながら心が呟けば、佳奈が気持ちばかりの慰めを口にする。


 机に突っ伏す心も、横に立ち、彼女の肩に手を置く佳奈も、揃って一般受験組であり。成績中の中を地で行く二人は、つかの間の休息を終えればすぐにも、長期休暇という名の勉強地獄が始まってしまう。


 せめてもの息抜き。今日はこのままカラオケ行って、補導時間ぎりぎりまで歌い明かして、夜は心の家でパジャマぱーちーそのままお泊り会。起きられるまで起きて、寝られるまで寝て、明日は一日中二人でごろごろしてるんだ。


 そんで明後日からは、受験勉強と銘打たれた戦場に、共に(ここ重要)身を投じることになる。


 なればこその、一夜の夢。幸せな時間は驚くほど短い。


 そんなショッギョムッジョに思いを馳せる自称ただの友達どうしを、華花と蜜実は生暖かい目で見つめていた。


「……よし、行こうっ」


 感傷に浸るのは、楽しい時間が過ぎ去ってからでも遅くない。

 そう考え、勢い良く立ち上がった心に合わせて、佳奈もまた鞄を肩に掛けなおす。


「カラオケだ!」


「おー!」


 腕……というか、がっしり肩を組みながら気合を入れて。


「それじゃ、白銀さんに黄金さんっ。また休み明けにね」


「お幸せにー」


「ん、またね」


「色々がんばってねぇー」


 なんかおかしいような気もする挨拶を済ませた二人は、颯爽と教室を後にした。


「……私たちも帰ろっか」


「いざ、愛の巣へ~」


「――ふぐぅっ……!」


「ぁぁあちょっとまって、立ち眩みが……」


 耳年増なので、バッチリ体調に異変をきたしていた。




 ◆ ◆ ◆




 未代らは『ティーパーティー』で集まって打ち上げ的なのをすると言っていた為、今年は婦婦水入らずで前期最後の帰路に就く華花と蜜実。


 別に何があるというわけでもないのだが、日の高い昼前はとにかく暑く、熱い。


 またアイスでも食べながら帰るかとも考えるけれども、しかし結局その足はコンビニを前にしても止まることはなく。


 あついあついと言いながら、手で顔や首元を扇ぎながら、そんなことしつつやっぱり片手は繋いだまんま、歩いて行ける快適な住まいへと、最短経路で帰っていった。


「ただいまぁ~」


「おかえり。ただいま」


「おかえりぃ~」


 遠隔で冷房を作動させていた室内は、玄関の時点で既に涼やか。

 脱力しきった声と共に靴を脱ぎ。


「すぐシャワー浴びちゃおっか」


 まったりくつろぐその前に、汗を流してしまおうか。

 そう提案しシャワールームへと直行しようとする華花。


「――すとぉ~っぷっ!」


「ん?……おっと、と」


 しかし蜜実が、そんな彼女に抱き着いて、すぐ横の壁に追いやった。


「ん~♪」


 そのまま首筋に顔を押し付け、肌を濡らす汗を、堪能する。


「……もう、蜜実……何か変態っぽいよ?」


 今更である。

 どの口が、でもある。


 鼻先を自分のものではない汗で濡らし、お世辞にも香しいとは言い難い匂いを率先して取り込もうとする蜜実の、眼下に迫るそのつむじに、華花もまた顔を(うず)めているのだから。


「……臭くないの?」


 ゆるふわな黒髪に包まれて、少しばかりくぐもったその問いかけ。羞恥心が乗っていないわけではないけれども、ここまでくればもう、それ以上に言葉通りの、純粋な疑問にしかならないわけで。

 これは気持ちの問題かもしれないが、……情事の時の汗とこういう時の汗は、何かこう、ちょっと違うような気がしてしまうというか。


「汗のにおい~」


 肯定はしないが否定もしないその返事は、少なくとも自分の汗が柑橘類の香りとかではないことを、華花に教えてくれた。


(まあ、蜜実のつむじも、汗のにおいだし……)


 自分がそれに嫌悪を抱かず、むしろこうして鼻先埋めるを良しとしているということは、逆もまた然り。

 いや、然りどころか、蜜実は自分以上に露骨に嬉しそうに、すーはーすーはーやっている。


 そもそも、いつだったか一日履き通したタイツごと脚を美味しそうに舐め回していた少女なのだ。この程度はまだまだ序の口――


「ぺろっ」


「んっ……」


 ――とか思っていたら舐められた。


「汗のあじ~」


「……だろうね」


 仕返しにつむじ噛んだらどんな声出すかな……とか考え始めるも、蜜実よりはまだ、僅差で強い華花の自制心が、何とかそれを押しとどめた。久しぶりに仕事をした感じではあったが。


(やっちゃったら多分、お風呂じゃなくてベッド行くことになるだろうし)


(わたしは全然、それでも大丈夫だよぉ?)


(ダメです。向こうでヘファ達と待ち合わせてるでしょ?)


(はぁーい……)


 至極真っ当な理由により夜までお預けを食らった蜜実が、残念そうに顔を引く。

 無論、最後にべろぉっとひと舐めしてから。


 抱き着いていた身体も離れ、幾分か皴が増えた気がする制服の上、前髪をべったりと張り付かせた蜜実の顔を見て、華花は思わず笑ってしまう。


「蜜実、顔すんごいテカってるから」


「八割がた華花ちゃんの汗だよぉ~」


 べったべたの顔をへにゃっと綻ばせるその笑みに、中々悪い気はしないなぁなんて思えば。


「そういう華花ちゃんだって、ほっぺたにいっぱい線が入ってるよー」


「これは蜜実の髪の毛のせいです」


 ぽりぽり頬をかく華花の様子に、蜜実が何故か得意げに、満足そうに、大きく一つ頷いた。


「……シャワー浴びよっか」


「……だねぇ」


 何とも無益な数分間のやり取りが、何だかどうしようもなく、その胸に抱かせる。


((夏休みって、感じ))


 鞄を放って、二人は並んで脱衣所へと消えて行った。



 ……これは言うまでもないことだが、この時はちゃんとシャワーだけで済ませた。


 次回更新は10月20日(水)18時を予定しています。

 よろしければ是非また読みに来てください。

 あと、感想、ブクマ、評価、誤字脱字報告などなど頂けるととても嬉しいです。

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