187 V-熟年婦婦もまだ子供
ここ数日で沢山の誤字報告を頂きまして、大変ありがたく、また申し訳なく思っております。
なるべくは誤字脱字等を減らしていきたいのですが、すみません……
報告して下さる皆様、いつもご協力ありがとうございます。
少し日を跨いで、週末。
「――と、まあ、その、こういう次第でございまして……」
おどおどと、怒られるのを待つ子供そのまんまな表情で、ハナとミツが自宅に招いた両親の顔色を窺っていた。
「えっとぉ、この通りわたしたちは元気です、はい……」
纏う雰囲気に気圧されてか、二人掛けソファ×2に座る母三人父一人に対して、家主であるはずの婦婦はしかし、カーペットの敷かれた床に正座で座り込んでいる。
両家両親とも、既に彩香女史の作成した文書には目を通しており。
こちらのセカイに持ち込めこそしないものの、娘二人の心身が健やかに育っていることは、そのデータを見れば一目瞭然であった。
「ん。二人とも問題ないってのは分かった。だけど――」
であれば、それでも四者揃って神妙な表情をしているのは、華花と蜜実に起きた変化そのものが理由ではなく。
「なぁんで今まで黙ってたんだこのバカ娘っ」
その身に起きた変調を、親たる自分たちに隠し立てしていたということに他ならない。
「ご、ごめんなひゃぃ」
最も分かりやすく怒気を露わにし、身を乗り出して華花の両頬をつねるのは、見かけによらず親バカ筆頭な明日華。
仮想の身なのだからと遠慮も容赦もなくぐにぐにと皮膚を伸ばし、吊り上がった目で娘を睨みつける。
「いひゃ、いひゃい、いひゃいれふ」
負い目から思わず敬語になってしまうハナだがしかし、限界まで頬を引き伸ばされているために、話すことすらままならない。
「そうね。バイタルデータなんて送られてきたときは、正直肝が冷えたわよ」
普段はシロバナを諫めることの多い花恵も、今日ばっかりは妻の折檻を止めることもなく、むしろ隣で、もっとやれと言わんばかりに腕を組んでいる。
わざわざ生体情報なんぞ送ってくるなんて、大抵の場合は何か体調に問題があった時であり。今回はむしろ何も問題がないことの証明であったため、心配はすぐに安心へと変わったものの……やはりその後に浮かんできた感情は、なぜもっと早く知らせてくれなかったのかという、至極当然の怒りであった。
それは勿論白銀家だけではなく。
「ミツ、隠し事をするなとは言わない。親にだって言えないことはあるだろう。でもこれは、言うべきことだったんじゃないかな」
「はい……ごめんなさい……」
お仕置きを敢行する白銀家の傍ら、黄金家でもまた、家長たる実彦の静かな叱責が、ミツの小柄な体躯を一層小さく縮こまらせていた。
「仲良しなのはとっても良いことだけど~、こういう事は、二人だけで完結させちゃダメよぉ~?」
おっとりと、けれども有無を言わせぬ圧を放ちながら、蜜月も夫に加勢。
若婦婦、二人して完全に、両親に怒られるの図であった。
「おらぁ、反省したかハナぁ!」
「はひっ、はんへいひまひた、ごめんなひゃい……!」
痛さ、申し訳なさ、情けなさ、諸々混ざって涙目になりながら、回らない呂律で謝罪の言葉を口にするハナ。
最後にひと際むぎゅっとやってから、ようやくシロバナは娘の両頬を解放した。
「うし、次はミツだな」
「えっ」
そしてその矛先はすぐさま、二人目の咎人へ。
「黄金さん方、構いませんね?」
「ええ、今回ばかりは致し方ないでしょう」
「思いっきりやっちゃってくださいな~」
「えっ」
情状酌量の余地もなく。
「おら覚悟しろ、これが白銀家の伝統だぁっ!」
「えっ、ぁあひゃぁあ~っ」
白銀家一子相伝のお仕置きが、義理の娘たるミツにもつつがなく執行された。
(絶妙に痛いんだよねぇ、これ……)
ひりひりと後を引く頬を抑えながら、同情と共感を乗せた涙目で嫁を見やるハナ。
「いひゃひゃひゃひゃひゃ」
「どうだ、反省したかっ!」
「ひまひはぁ、はんへいひまひはぁ~……っ!」
幾度かやられたことのあるハナですら未だに慣れないのだから、初体験となるミツが早々に音を上げるのもまあ、無理からぬことであろうか。
「――っし、今回はこれくらいにしといてやる」
「あいあとうございましゅ……」
(ハーちゃん、白銀家って怖いんだねぇ……!)
(や、お義父さんの圧も結構なものだったけどね……)
両親たちの恐ろしさを改めて実感した婦婦。
揃って赤くなった両頬をさすりさすり、何とか此度の不手際が許された次第であった。
「んで、もう一つ何か、相談事があるって話だったけど」
満足げにソファに座りなおしたシロバナに代わって、今度はギンバナの方が身を乗り出し、話題を変える。
「あ、うん。えっと……」
今しがたまでの負い目か、はたまたお伺いを立てるような心持ち故にか、ハナもミツも、床に座して下から見上げる姿勢のまま。
「エイトちゃんとヘファちゃんに関することなんだけどー」
「あの二人がどうかしたの?」
娘たちと仲良くやっているということで、この二人と両家の両親は面識のある間柄であった。
顔を合わせた頻度はそう多くないものの、どちらもハナとミツに色々と良くしてくれているというのは、彼女らの普段の行いやら結婚式での様子やらで良く知っており。
いやまぁ、熱烈過ぎてちょっとどうなのかと思わないでもないが、一応の信頼はおける人物たちだと、親四人からは評価されていた。
「二人が私たちとあっちでも会いたいんだって」
「ああ、成程……」
「それはそれは~」
その娘たちの友人らが、現実世界でも顔合わせをしたい、と。
つまり相談事と言うのは、これそのままの、是非を問うものか。
「えっとぉ、わたしたちは二人とも信頼してるけど、どうかなぁって」
当人たちの心情は別として、親としてはやはり、まだ未成年な娘にもしものことがあっては堪らない。
奇しくもつい先ほどのやり取りでそのことを嫌と言うほど思い知らされたハナとミツであるからして、こちらについてのお伺いも、自ずと両親の顔色を窺う形にもなってしまおうものか。
「……や、ダメとは言わねぇけどよぉ、うーん……」
先とは違った意味で難しい顔をしながら、シロバナが腕を組んで思案する。
他三人も概ね同じような態度で、どちらかと言うと肯定的ではあるが……といった程度。
「完全に不安がないとは、言い切れないわよね」
ギンバナの言葉通り、件の二人を信頼してはいるものの、しかしやはり、娘たちだけで直接会うというのは。
どうしたって万がイチ億がイチを考えてしまって、手放しに認められるようなことではあるまい。
と、いうわけで。
「……ちなみにいつの話だ、それ?向こうがお前らのところに来るんだよな、多分」
「はい、えっとー、こっちでの夏頃に来てもらう形になるかなぁって」
「オッケー分かった。アタシらもそっちに行く、それでどうだ?」
あまり時節に囚われない仕事をしているシロバナが、妻共々同席を申し出る。
「あ、うん。私たちはそれでも全然、大丈夫だけど」
母の都合を良く知るハナが頷く。
「黄金さん方も、それでどうですか?」
「よろしいんですか?」
「ええ。言っちゃなんですが、割と暇なことも多いもんで」
他方、こちらは公務員&専業主婦という、少し遠出のしづらい黄金夫妻からすれば、とてもありがたい申し出であり。
「助かります~。お二人が付いていて下されば、安心ですねぇ~」
「まっかせといてください!お前もそれでいいよな?」
「もう、すぐ勝手に決めちゃうんだから。ま、全然良いけどね」
当事者の一人であるギンバナが、なぜか最後に事後承諾をする形で、あっさりとプランが決定された。
「じゃ、エイトたちにも伝えておくね。なるべく早いうちに日時とか決めて、連絡するから」
「あいよー」
「えへへぇ、賑やかになりそうですねぇ」
「そうね、今から楽しみだわ」
旧友の襲来にかこつけて、帰省代わりの母来訪まで。
先程怒られていたことなど嘘のように、今から夏休みが楽しみだと、親子揃って笑みを浮かべる。
「あ、そういえばこの前ハーちゃんがー」
「ちょっとまってミツ、その話はっ――」
この後も少しばかり、歓談が部屋中を賑わせて。
話し合いの直前まで両親たちに残っていたほんの僅かな不安など、いつの間にやらすっかり霧散してしまっていた。
次回更新は9月1日(水)18時を予定しています。
よろしければ是非また読みに来てください。
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