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百合乃婦妻のリアル事情  作者: にゃー
春 百合乃婦妻の新年度
180/326

180 V-拗ねる旧友二人


 そうこうしているうちにやってきた、五月の大型連休。


 直前に設けられた彩香女史との進路相談では、思考同調を前提として、アバター研究関連の学科を目指す方向でざっくりと纏まった。

 それはそれとして今後も面談を重ねていくことにはなったが、とにかく一応の道は定まりつつあるということで、華花と蜜実は幾分かすっきりとした気持ちで連休に臨むことができた。


 できた、はずなのだが……


「――何故そんな重要なことを、もっと早く、わたくしに教えて下さらなかったのですか……」


「コイツは良いとして、アンタたちの武具制作に携わってる身としては、アタシも納得いかないわね」


「アァ?」


「は?」


((め、面倒くさい……))


 ハナとミツの愛の巣、その応接間で、揃って不満を漏らしながらもバチバチといがみ合うのは、言わずもがなエイトとヘファの二人。


 バディカップエキシビジョンで起こった思考の同調について、自身らが休暇に入ったこのタイミングで、ハナとミツは旧知たるこの二人に語って聞かせてみたのだが。

 その内容に関しては驚愕と歓喜と祝福を以って受け入れたものの、先に有識者やらリアルでの先達やらに相談していたことを知るや否や、熱心に過ぎる信徒と自称後見人のこの二人、今しがたのような不平不満を露わにしてきやがった次第。


「いやぁ流石に、何か知ってそうな人に聞いてみるのが先かなぁって」


「うん。二人は別に、VRシステム関連そのものに詳しいってわけじゃないし」


「それは、そうかもしれませんが……」


「一緒にやってきた年月ってもんがあるでしょ……」


 アイザとシン、彩香女史に続いて三番目に打ち明けているのだから、十分なものだろうと思うのだが。どうもこの二人からしたら、自分たちが真っ先に頼られなかったということそのものが、どうにも許容し難いことのようであった。


 何ならハナとミツは、互いの両親よりも先に、この二人に話しているのだが……


(……流石に、わたしたち自身に異変が起きてるってなると、心配されちゃうかもしれないしー)


(うん、中々お母さんたちには言い出しにくいというか……)


 此度の事象、肉親であればこそまた違った反応をする可能性を鑑みて、二人は共に、まだ母親たちには話し出せずにいる。

 勿論、いつまでも黙っているつもりはないし、近いうちにこちらのセカイで顔を合わせたいとも思ってはいるのだが。


 ……いや、両家へのカミングアウト云々は今は置いておいて。


 現状何とかしなければならないのは、少しばかりへそを曲げてしまっている、目の前のいい大人二人の方だろう。


「ごめんって」


「二人も、うん、頼りにしてるよぉー」


 その言葉に偽りはなかれども、つい一言前の言葉の通り、こと本現象を探求するにあたっては、あまり期待できることもなし。


 折角のフォローも、そんな内心が透けて見える適当ぶりなものだから、やはりどうあっても、エイトとヘファのへそはひん曲がりっぱなしであった。


「……最近どうも、女神様方からの信頼が薄まっているように思えますね……」


 幾分か暗い光をその碧眼に灯しながら、エイトがぼそりと独り言ちる。


 今日こうやって後回しにされていたことも、そもそもソロ訓練とやらに自分がほとんど関与できなかったことも、その結果顔を合わせる頻度がやや減っていたことも、どれもこれもあまり面白い話ではない。


 無論、婦婦の営みを邪魔立てするつもりなどは毛頭ないが、しかしそうはいっても、二人の敬虔なる信徒 兼 (口に出すことは滅多にないが)旧友としては、もう少し頼られたいというのもまた、本心として抱いているところ。


 いや、まあ、張り切り過ぎると暴走しかねないエイトの熱意が故に、ハナもミツも、あまり彼女に頼りきりにはならないようにしているのだが。


 そんな具合に、ある意味で自業自得であることなどつゆ知らず。


 女神二柱からの信頼を取り戻すべく(元から失われてはいない)、熱心に過ぎる信者は、静かに思考を巡らせる。


(やはり、一度……)


 以前から薄ぼんやりと思い浮かべていたあることを、実行に移す時が来たのだろうか、と。


(リアルの方でも何かしら起こっているという話ですし……)


 思考の同調が、現実世界でもその片鱗を見せているというのなら、ますます以て好都合。


 理由のこじつけと諸々のタイミング調整を、脳内で組み上げ始めるエイト。


 静かになってしまった彼女に一抹の不気味さを覚えつつも、ハナもミツも、まだ分かりやすくぷんすかしているヘファの方に意識を向けざるを得ない。


「武器の入れ換え持ち換えが当たり前になるんなら、どっちが持ってもフィットするように、細かい所を調整し直さなくちゃならないのよ?」


「え、そうなの?」


「あんまり気にしないで使ってた~」


「気にしなさいよ。んで、アンタらの武器の調整ができるのは、アタシだけって話なんだけど?」


 持ち手の違和などさして感じることもなく、三刃一盾を共有していた二人だが、その創造主たるヘファがそういうのなら、そうなのだろう。


「よっ、一流鍛冶師」


「ヘファさまぁ~」


 そんなわけで、言葉だけ聞くとあまりにも露骨なご機嫌取りを始める婦婦。


「ふ、ふん。そのヘファ様を蔑ろにしようだなんて、ちょっとは反省しなさいよねっ」


「ごめんなさい、頼りにしてます」


「ヘファさまぁ~」


 斜に構えて腕を組み、ツンと顎を反らせるオーソドックスツンデレポーズで返すヘファの機嫌は、その表情の通り一瞬で直っていた。


「まぁ……そこまで言うなら、今回は許してやらないでもないわ」


(ちょろい……)


(ちょろいねぇ……)


 言うほどそこまで言っていないのだが。

 基本的にヘファは、推しに対しては当たりの強さなど上辺だけのものでしかないファッションツンデレ女であるからして、まあこの程度のフォローでも、いちころのちょろちょろであった。


「……黙って聞いていれば、よくもまぁそこまで居丈高にモノが言えたものですね」


 しかしそんなヘファの態度に、静かだったエイトが怒りを示す。


「はぁ?別にいいじゃない。二人にどう接しようが、アタシの勝手でしょうが」


 対するヘファも、婦婦を相手取る時とは打って変わって、でれなど1ミクロンもない極寒の灼眼で睥睨。


「いいえ、いいえ。お二方を信奉するこのわたくしとしては、貴女のような粗野な女の勝手を許すつもりはありませんよ」


「アンタの許可なんて端っから求めてないわよ」


 ファイッ。


「アァ?」


「は?」


((まーた始まった……))


 馬が合わないにしたってこの二人、態度が何だ言葉が何だと同じような話で定期的に言い争わなければ気が済まないのだろうか。


 通算何度目かも分からない喧嘩(トーク)テーマに、巻き込まれる側のハナとミツも苦笑いしか出てこない。


 無論、婦婦もやんわりと、さながら幼稚園の先生のように、喧嘩は止めようねーなどと言ってみたこともあるのだが、両者揃って「いかに二人の言葉であれども、こればっかりは譲れない」と無駄に頑固なものだから、鍛冶師と教祖の口喧嘩は、今日も果て無く終わりが見えない。


「テメェ今日という今日はもう我慢ならねェ……!表出ろや、ぶっ○してやんよォ!」


「は?嫌に決まってるじゃない?何、舌戦で勝てないから力づくでどうこうしようっての?ダッサ」


 最近は諦念すら抱き始めた家主たちを尻目に、どんどんヒートアップしていく客人共。


「「ずずず……はぁ~……」」


 ストレージから抹茶を取り出し舌鼓を打つハナとミツは、さながら縁側で野良猫の喧嘩を眺める老婦婦のような面持ちで、友人二人の子供じみたやり取りを聞き流していた。


 次回更新は8月7日(土)18時を予定しています。

 よろしければ是非また読みに来てください。

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