162 R-ある春の幸せな一日
お待たせいたしました、本日より連載を再開させて頂きます。
更新は今まで通り、水曜・土曜の週二回を予定しております。
今後もまた、少しでも楽しんで頂けると幸いです。
「……んあぁ~……」
「よしよし」
ほど良い温みを帯びてきた春の日差し。
それを存分に謳歌できる、春休みという怠惰な時間。
その中でもただ一日だけの、特別な日。
プレゼントは何が良い?と問われ、「華花ちゃんが居ればそれでいい」と答えた蜜実の、誕生日。
既におめでとうもありがとうも言い終えた二人の、至福のひと時。
「この脚がぁ~……わたしを狂わせるぅ~……」
春の陽気よりもなお心地良い華花の膝の温もりに、今日のVIPたる蜜実が躊躇いもなくダイブして、既に一時間以上が経過していた。
「ほんと、好きだね」
だらけ切った蜜実の顔を見下ろしながら、そう言う華花も、髪を梳く手を止める気配もない。
ソファに腰かけ、太ももを貸すことをこそ蜜実が望んだのだから、それを拒むなどあろうはずもなく。ショートパンツを所望し、布地を介さない膝枕を楽しむ今日の蜜実は、さしずめ素材の味派と言ったところだろうか。
「しゅきぃ~……」
ほど良い柔らかさ、ほど良いハリ、ほど良い弾力、ほど良いサイズ感。
そこに華花の温もりや香り、更には優しげな手櫛と囁き声まで付いてくる。華花の方を向くようにして横を向けば、視界にはTシャツに薄っすらと影を落とすおへそまで。
全く、これを至福と言わずして何というのか。
毎日のように味わっていながら、蜜実の脳はいつまで経っても、頬を伝うその多幸感に耐性を得ることが出来ないでいた。
「一年近くもやってると、私の脚もだいぶ乗せ慣れてきた気がする」
結構な時間、蜜実の頭を受け入れ続けている華花の両脚だが、ソファを駆使していることも相まってか、痺れや痛みなどは欠片も感じることがない。
それどころかむしろ、蜜実の頬や耳の感触が、温もりや時折かかる吐息が、太もものHPを無限に回復させているかのような気さえしてくる。
蜜実は華花の太ももに癒され、華花は寛ぐ蜜実の姿に癒される。
ともすれば世のエネルギー問題など全て解決してしまうような、膝枕永久機関の完成であった。
「すっかり、わたし専用の太ももになっちゃったねぇ~」
「太ももだけじゃないけどね」
「でへ、へへへぇ~~……♪」
セクハラめいた言葉への嬉し過ぎる返しに、蜜実の頬は更にだらしなく垂れ下がっていく。そのまますりすりと擦り付け、まるでマーキングする犬のように所有権を主張する。
「ふふ、くすぐったいよ」
こそばゆさから生じたというにはあまりに慈愛塗れの微笑みを浮かべながら、華花は髪を梳く右手をゆっくりとずらしていった。
「ん~……♪」
耳に触れ、指の先で優しく撫でる。
外縁の窪みに爪を這わせ、耳たぶを指の腹で柔くほぐして。
温もりを少しずつ伝播させるように、接触面積を増やしていく。
耳の裏を何度も擦り上げて、ますます熱を籠らせる。
「……はぁぁ、ぁ~……」
蜜実の唇に触れるか触れないかの内ももが、吐息で少し湿ってきた辺りで、華花は右手を頭の方へと戻した。
「あぁぁ、やめないでぇ……」
温もりを失った耳朶に唆されるまま懇願する、甘い声。
その蕩け具合にくすりと一つ微笑みながら、寂しげにひくつく耳元へと、唇を寄せて。
「……ふぅぅーっ……」
「、ふぁぁぁぁ~……」
流し込まれた小さな息吹に、蜜実の全身がびくびくと震えた。
「すぅ……はぁーー……っ」
「んぁぁぃいぃ……」
続けざまの第二波は、もっともっと暖かくて、湿っていて。
纏わりつくような温い吐息が、耳たぶを優しく包み込む。
「……ふぅ、ふっ、ふぅー……っ」
「ぁ、ゃぁ、あぁ~~……」
第二波を浴びればこそ、三連続で放たれた、初撃と同系統の息吹が、より涼やかに背筋を震わせる。
「……すぅー……はぁぁぁっ……」
「んん、んんんぅ~……」
耳孔にまで吹き込んでくる「ふぅー」と、しっとりと耳朶を濡らす「はぁー」。
両者を巧みに使い分け、触れることなく片耳を愛撫する華花の手腕に、蜜実の身体はもう、一グラムたりとも自重を支えられない程に蕩け切ってしまっていた。
耳元へと唇を寄せられるたびに、溜め息とも喘ぎ声ともつかない変な声が、閉じ方を忘れた口の端から漏れ出ていく。
「あぁぁぁダメになるぅぅ……」
惚け顔でそう呟く蜜実へ、さらに笑みを深めた華花が、あやすような口調で返す。
「うんうん。じゃあ、もっと駄目になっちゃいましょうねー……」
いつかの意趣返し。
唇をさらに開き、舌を差し伸ばす。
「あー……むっ」
華花の唇が、蜜実の耳に触れる。それと同時に、吐息よりもずっとずっと熱く濡れた舌先が、耳孔の入り口をなぞり上げた。
「あぁ、ひゃぁぁぁ……」
反射的に一度大きく跳ね、けれども逃げも拒みもしない蜜実の身体は、されるがままを望む彼女の心をそのまま反映しているようで。
優しく、先の指先のように耳を撫でる舌の動きに、静かな嬌声が止まらない。
「ん……れろ……」
どこまでもゆっくりと、性急さなどとはまるで無縁な、子をあやす母の手が如き華花の舌技。去年の夏の一日に、誕生日プレゼントと称して蜜実にされたものよりもなお、緩やかで甘い耳攻め。
外耳道の外側を円を描くようになぞり、僅かな唾液で薄い軌跡を描く。幾週かそれを繰り返し、十分にほぐしてから、舌先を窄めて、耳孔の中へ。
突き込む、といったような強引さは皆無の、軟性とぬめりけを活かした滑り込ませるようなその動き。やはり緩やかで優しい口撃ながらも、既に蕩かされている蜜実の心身には、確かな快楽刺激として伝わっていく。
「ちゅ……ちゅぅぅ……」
より一層押し当てられた唇も合わさって、蜜実の片耳は完全に塞がれ、もうそこから聞こえてくるのは、華花の奏でる小さな小さな水音だけ。
窄められた舌の先と腹と側面と、全てを使って耳の穴を内側から撫でる。
なでなで、なでなでと、そんなあやし声すら聞こえてくるかのような、止むことのない濡れた慈しみに、その奥にある蜜実の脳みそは、痺れと浮遊感からなる快感で溺れていた。
「ぁ、ぁぁ、それ、優しぃの、すきぃぃ、っぁぁ~……」
情事の時などは、互いに高ぶり過ぎで痛いほどに求めあってしまうことも珍しくはないのだが。
こういう、何処までも優しく、しかしそれが故に、有無を言わさず全身が弛緩させられてしまう愛撫も、堪らなく心地良い。
自身の舌の動きと相まって、されるがままにぴくぴくと震える蜜実の足の先までを視界の端に捉えながら。特別動きを速めることもなく、舌先の細やかなタッチでもって、華花は蜜実の官能を高めていく。
緩み切った本人の意思とは無関係に、電気信号によって弛緩したまま震わせられるようにして、身体が跳ね、声が漏れて。
「蜜実ぃ……んむ、れぇうっ……大好きだよ……!」
「――~っ、ぁぁ、あぅぅっ、ふあぁぁぁ、、、、――」
ひと際大きなというよりも、断続的で、どこかリズミカルですらある小さな痙攣をしばらく繰り返したのち、蜜実の身体は再びくたりと力を失った。
「……あぁー……」
思考まで溶け落ちてしまったのが良く分かる、余韻に浸りきった呻き声。
同じく開きっぱなしな口の端から垂れ流しになっていた唾液が、華花の太ももをべっとりと濡らしていた。
「気持ち良かった?」
「やばかったぁ……」
そんな蜜実の、唾液でてらてらと艶めく耳を、ティッシュで優しく拭っていく華花。まかり間違っても刺激を与えてしまわないよう、細心の注意を払いながら綺麗にして。
「良かった。じゃあ、はい、反対側向いて?」
「は、反対側もするのぉ……?」
「勿論。ほら、ごろーん」
「ぁ、あぁぁ~……」
やはり優しくも有無を言わせない華花の笑顔に押し負けて、後半戦が始まった。
次回更新は6月5日(土)18時を予定しています。
よろしければ是非また読みに来てください。
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