15 V-お茶会はお好き?
「――んで、あたしの位置情報確認して、わざわざ『フリアステム』まで来たと」
「……はい」
あまり広くはないものの、木材の暖かな雰囲気に包まれた一室。
シンプルなデザインのテーブルを囲む形で、フレア、ノーラ、リンカ、ウサちゃんさんの四人が腰かけている。
「百合乃はまぁ置いといて……」
置いておかれたハナとミツだが、実際、我ら関せずとばかりに部屋の隅でいちゃついていたので、まあ致し方ないと言えよう。
「こっちのノーラは始めたばっかだから、あんたみたいなぐいぐい来るタイプといきなり引き合わせるのはどうかと思ってたんだけど……」
「……はい」
「理由を話さなかったあたしも悪かったわ。ごめんね」
「……すいませんでした」
フレアによるあらかたの事情説明。それを聞いてリンカは、ここまで自分が盛大に早まっていたのだと知り、流石にフレアやノーラに対して申し訳なさを覚えていた。
「いえ、こちらこそ、フレアさんをお借りしてしまって……」
「いえ、先輩は誰のものでもない……ゆえに、先輩なんっすから……」
申し訳なくなり過ぎて若干不可解なことを言い始めていた。
「まぁ、いずれは一緒に遊ぼうかとも考えてたし、あたしが気を使い過ぎてただけかもね」
かくて、冷静になってみればあっさりと、此度の騒動は収束した。後に残ったのは交流の輪のみである……少なくとも今のところは。
「それにしても、他プレイヤーの位置情報なんて分かるものなのですか?」
「同じクランのメンバーならね」
「……ああっ、そういえば」
チュートリアルでそんなことを言っていたような、と得心するノーラ。
「つまり、フレアちゃんとワンちゃんとウサギさんはクラメンってことだねー」
分かりやすい特徴から仮称をつけたミツに、呼ばれた方もそれぞれの反応を見せる。
「はい、先輩の最初のクラメンにして唯一無二の後輩枠、リンカっす……先ほどはご迷惑をおかけしたっす……」
申し訳なさげに頭を下げるガンスリンガー風の犬少女――リンカは、誰が見ても明らかに、先ほど教室にも強襲を仕掛けてきた日向 市子その人であった。
そして、反省はしているものの「最初」だとか「唯一無二」を主張するあたり、大概図太い神経をしている駄犬でもあった。
「私は白ウサちゃんよ~。ちゃんまで名前だから、気軽にウサちゃんとか、おねーさんとか、おねーちゃんって呼んでね☆」
ユーザーネーム白ウサちゃんの語尾には、よく星が飛んでいるとかいないとか。
「ウサさんよろしくです」
「ウサちゃんさんよろしくー」
「あ、えっと、白ウサちゃん、さん?よろしくお願い致しますね」
ユーザーネーム白ウサちゃんの悩みは、誰もウサちゃんとかおねーさんとかおねーちゃんとか呼んでくれないことだとか。
「あ、ちなみにおねーさんは、たまたまログインしてて、リンカちゃんについてきただけだぞっ☆」
「へぇー……」
突き刺さるようなジト目から伝わる通り、フレアはその言葉を全く信用しておらず。
「やだフレアちゃんったらこわーい☆」
そんな非難めいた視線も、くねくねと体を捩らせ大げさに怖がって見せる白ウサちゃんは慣れたものだった。
「でもでもおねーさん驚きだなぁ。まさかフレアちゃんが百合乃婦妻とも知り合いだったなんて。……大丈夫?闇討ちとかされない?」
「怖いコト言わないでくださいよ……ホントに偶然知り合っただけですって」
「ふ~ん……まいっか☆」
まさかこの女たらし、遂にハロワ内一有名な百合婦婦すらオトしにかかったのかと、一瞬色々な意味で心配になった彼女であったが。
「はい、あーん」
「あー……んっ。おいし」
「つぎわたしー」
「よしきた」
(さすがにそれはなさそうね……)
こちらへの興味を失い、先ほど屋台で買ってきた串焼きで『あーんバトル』を開始した二人の姿を見て、内心で安堵の息を漏らした。
「――しっかし、よく分からない勘違いでこっちから『フリアステム』までだなんて、わざわざご苦労なコトで」
「自分にとっては大事なことなんすよっ」
先輩が軟派な奴だとそんなに困るのだろうか、なんていうフレアの呑気な考えは、当たらずとも遠からず、けれど決して核心にも触れておらず、ゆえにそのまま流れていってしまう。
「えっと、ここは『フリアステム』とはまた別の街、なんですよね?」
「うん、さっきポータル通ったでしょ?あれは、友好関係にある街同士を繋ぐワープポイントみたいなもんなの」
「なるほど、ワープですか……」
妙な穴をくぐったかと思えば、全く違う街並みへと変わっていた。ノーラからしたらそのような感覚であったが、実際に別の街へと転移していたらしい。
フレアはご苦労なコトなどと言ってはいたが、実際にはポータルでの移動は、ほんの一瞬の出来事であった。
「ここは学園都市『アカデメイア』っす。初心者さんの育成なんかもやってるんで、『フリアステム』とは繋がりが強いんっすよ」
「ちなみにここは、おねーさんたち『ティーパーティー』の拠点でもあるぞっ☆」
学園都市なのにこんなバニーのお姉さんがいて良いのかと訝しむノーラであったが……ここはゲームのセカイなのだから恐らく大丈夫なのだろうと、一旦捨て置く。
「まぁ、三人しかいないから全然パーティーじゃないんだけどね」
「良いお名前だと思いますよ。しかし、クランですか……」
「おっ、興味がお有りで?」
少し考え込むような仕草を見せたノーラに、すかさずフレアが食いつく。
「ええ、少し。何だか部活動みたいで面白そうですし」
「ほうほう。だったら、うちのクラン入ってみる?」
元々、そのうち誘ってみてもいいかと考えており、なし崩し的にメンバーとも顔を合わせてしまったのだからと、軽い気持ちでそう呟いたのだが。
「「!」」
それにすかさず反応する者が二人。
「いやいやいや、そんなナンパみたいに誘うもんじゃないっすよ!」
「そうだぞそうだぞっ。うちみたいな弱小クランに入ったところで、特にメリットもないしっ☆」
そう、リンカと白ウサちゃんである。
「え、あ、あの」
「最初の内はもっと初心者歓迎のでっかいクランにでも入って、色々サポートしてもらった方が絶対いいっす!」
「百合乃ちゃんたちのファンだっていうなら、『一心教』なんかもお勧めだぞっ☆」
ノーラが何か言う前にと、二人して畳みかける。
一見して、初心者である彼女を気遣っているように聞こえなくもないが、その必死過ぎる様相から、クラメンを増やしたくないという本心が漏れ出ていた。
交流の輪、崩壊の瞬間であった。
「あー、確かに二人の言う通りかも。うちじゃ大したサポートも出来ないし……」
二人の真意に全く気が付かずに本気でそう言いだすあたりが、フレアが鈍感だなんだと言われる所以であろう。
とはいえ今ばっかりは、その鈍感さがリンカと白ウサちゃんにとってはありがたくすらあった。誘った本人がそう言っては、ノーラも加入しようなんて思わないだろうと。
「いえ、あの、そんな大規模なところへはちょっと……」
……二人に誤算があったとすれば、それはノーラがクランに求めているのが規模やサポート面ではなかったということか。
部活動みたいで楽しそう。先の言葉通り、ノーラが欲していたのはそういうゆるくて和気藹々とした雰囲気であり、またそれは『ティーパーティー』の面々がそのような一面を見せていたからこそなのだが。
「そうなの?じゃあどうする、取りあえずお試しでうち入ってみる?」
「はい、皆さんがよろしければ、是非っ」
自分の首を自分で絞めていたことにも気付かない哀れな二人に、バカ正直によろしくないですと言えるような強かさの持ち合わせはなく。
「えっと、ノーラさんが構わないなら自分は全然……」
「ええ、そうね、お試しでね……」
「んじゃ決まりね。改めてよろしくっ」
「はいっ、よろしくお願い致します!」
「よろしくっす……」
「よろしくね……」
お試しという言葉に一縷の望みを抱きつつも、お試しでは終わらなさそうな雰囲気を敏感に察知する二人であった。
かくして、お茶会は三人から四人へと、少しだけ賑やかになった。実際のところ少しで済むのかは未知数である。
「はいハーちゃん、最後の一口。あーん」
「あー……」
「やっぱりダメぇ~」
「あぁ、ミツのいじわるぅ……」
なお本日の『あーんバトル』は、ミツの特殊勝利で幕を下ろした。
次回更新は12月4日(水)を予定しています。
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